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5章
第17話 恋を餌にする代償
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「素敵な素敵な姫様より、テディデキャンタいただきましたー!」
店内に響き渡るシャンパンコールの歌の中、私は隣のレオの耳元で囁いた。
「シャンパンの種類はよくわからなかったから、金額だけ決めて、あとはレオくんに任せてたんだけど、この熊さんは何?お酒じゃないの?」
「お酒だよ?」
レオは笑顔で答える。
「これが!?このテディベアの中全部が酒!?」
「うぅん。この部分」
金色のテディベアが、ちょこんと抱えている小さなハート型の容器を指さす。お酒はその中に入っているらしい。
「マジ!?この酒の量で50万!?」
「50万の価値は酒じゃなくて、飾りボトルにあるから」
「飾りボトル?」
「こんな感じの派手なボトル。ヒールだったり、イルカだったり、色んな形のボトルがあるんだ」
「……このお酒を飲むの?」
私はどんな味だろうと少しワクワクしながら聞いた。
「……普通飲まない」
レオくんは少し申し訳なさそうに答えた。
酒好きで、地味にシャンパンを味わえることを楽しみにしていた私は、地味にショックを受けた。
ちなみに、シャンパンコール自体は大迫力だった。
「さぁ!素敵な姫様より、3、2、1!」
いよいよ、私の番が来てしまった。
姫にもマイクが渡される時間だ。
事前にレオくんと話していた会話が蘇る。
「あのマイクが姫に来るやつ……パスって出来るの?」
「出来なくはないけど、何か喋ってよ」
「い……嫌すぎる!」
「『頑張れ~ヨイショ!』だけでもいいから」
「それだけで良いなら、スキップさせてよ」
「いや、喋って!」
レオくんはなぜか譲らない。
「逆に何故そこまでして私に喋らそうとする?」
「俺の新規姫にシャンパン入れさせたったぞ!って自慢したい」
「自慢っていうか、マウント?」
ホストの世界にも、色々とあるんだなと思った。
そんな会話を思い出しながら渡されたマイクを受け取った。
覚悟を決めて、超小声で言った。
「…がんばれ、よいしょ」
スーパー陰キャムーブを発動してしまった。
はずい。
私のヨイショの合図に合わせて盛り上がるBGMが、逆に虚しい。
(華やかな盛り上がりに対して、全然一緒に気分昂ぶらないんだよな)
「じゃあ素敵な王子からも、3、2、1!どうぞ!」
レオくんはマイクを受け取り、スポットライトを浴びながら、キラキラとした目で話し始めた。
「本当に…無理させたと思う。辛い思いをさせて、泣かせたと思う。でもだから、今回の初めてのボトルが本当に嬉しくて、俺は今日のことを絶対に忘れない」
「……」
私は無言でレオを見つめた。
(だったらお店呼ばなかったら、辛い思いしないんだが?コイツ何言ってんだ?)
マイクを持ち、ライトを浴びて、目をキラキラさせながら話すレオくんを、虚ろな目で見つめていたと思う。
大勢のホストがいる中、セイさんとも目が合った。
セイさんは私に対して挨拶をするように笑ってくれた。
しかしそれがニヤッとしたように見えた。
"カモコさんって、レオの彼女でしょ?"
セイさんの言葉を思い出す。
でも本当に?
こんな状況で、この場にいる大勢のホストたちに「私は彼の恋人なんです」と言ったとして、一体何人が信じるだろうか。
(あぁ……細客の、たった一回だけのシャンパンなのに、置いてけぼりのこのシャンパンコールと、楽しそうな担当ホストを見て、充分『なんじゃこりゃ』って冷めた気持ちになるんだから、この店にいる姫達はそりゃ虚無顔にもなりますわ)
店内に響き渡るシャンパンコールの歌の中、私は隣のレオの耳元で囁いた。
「シャンパンの種類はよくわからなかったから、金額だけ決めて、あとはレオくんに任せてたんだけど、この熊さんは何?お酒じゃないの?」
「お酒だよ?」
レオは笑顔で答える。
「これが!?このテディベアの中全部が酒!?」
「うぅん。この部分」
金色のテディベアが、ちょこんと抱えている小さなハート型の容器を指さす。お酒はその中に入っているらしい。
「マジ!?この酒の量で50万!?」
「50万の価値は酒じゃなくて、飾りボトルにあるから」
「飾りボトル?」
「こんな感じの派手なボトル。ヒールだったり、イルカだったり、色んな形のボトルがあるんだ」
「……このお酒を飲むの?」
私はどんな味だろうと少しワクワクしながら聞いた。
「……普通飲まない」
レオくんは少し申し訳なさそうに答えた。
酒好きで、地味にシャンパンを味わえることを楽しみにしていた私は、地味にショックを受けた。
ちなみに、シャンパンコール自体は大迫力だった。
「さぁ!素敵な姫様より、3、2、1!」
いよいよ、私の番が来てしまった。
姫にもマイクが渡される時間だ。
事前にレオくんと話していた会話が蘇る。
「あのマイクが姫に来るやつ……パスって出来るの?」
「出来なくはないけど、何か喋ってよ」
「い……嫌すぎる!」
「『頑張れ~ヨイショ!』だけでもいいから」
「それだけで良いなら、スキップさせてよ」
「いや、喋って!」
レオくんはなぜか譲らない。
「逆に何故そこまでして私に喋らそうとする?」
「俺の新規姫にシャンパン入れさせたったぞ!って自慢したい」
「自慢っていうか、マウント?」
ホストの世界にも、色々とあるんだなと思った。
そんな会話を思い出しながら渡されたマイクを受け取った。
覚悟を決めて、超小声で言った。
「…がんばれ、よいしょ」
スーパー陰キャムーブを発動してしまった。
はずい。
私のヨイショの合図に合わせて盛り上がるBGMが、逆に虚しい。
(華やかな盛り上がりに対して、全然一緒に気分昂ぶらないんだよな)
「じゃあ素敵な王子からも、3、2、1!どうぞ!」
レオくんはマイクを受け取り、スポットライトを浴びながら、キラキラとした目で話し始めた。
「本当に…無理させたと思う。辛い思いをさせて、泣かせたと思う。でもだから、今回の初めてのボトルが本当に嬉しくて、俺は今日のことを絶対に忘れない」
「……」
私は無言でレオを見つめた。
(だったらお店呼ばなかったら、辛い思いしないんだが?コイツ何言ってんだ?)
マイクを持ち、ライトを浴びて、目をキラキラさせながら話すレオくんを、虚ろな目で見つめていたと思う。
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しかしそれがニヤッとしたように見えた。
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でも本当に?
こんな状況で、この場にいる大勢のホストたちに「私は彼の恋人なんです」と言ったとして、一体何人が信じるだろうか。
(あぁ……細客の、たった一回だけのシャンパンなのに、置いてけぼりのこのシャンパンコールと、楽しそうな担当ホストを見て、充分『なんじゃこりゃ』って冷めた気持ちになるんだから、この店にいる姫達はそりゃ虚無顔にもなりますわ)
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