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第二十五燈 ただ「綺麗」と言っただけなのに、世界最凶の異形に気に入られたらしい
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朝霧アサギが異世界に召喚されたのは、ちょうど体育祭のリレーでバトンを受け取った瞬間だった。
赤いトラックがふわりと消え、目の前に広がったのは白い石造りの神殿と、ずらりと並ぶ異国の武装者たち。
「……あれ、ゴール、どこいった……?」
「勇者様……?」
場がどよめくなかで、アサギはただ立ち尽くしていた。
だが、鑑定とやらをされた直後──
「ステータス、平均以下か……」
「勇者適性なし。魔力量もゼロ」
「まさか“空召喚”とは……」
剣も、魔法も、称号も、なし。
彼はあっさりと見捨てられた。
せめてもの“善意”として与えられたのは、王都から遠く離れた「捨て村」での暮らしだった。
曰く、そこは“危険区域に隣接するが故に、逆に安全”なのだと。
アサギは頭を下げ、黙って村の人々と畑を耕した。
文句も言わず、逃げ出しもせず、ただ、居場所を作ろうとした。
それが、三日目のことだった。
村はずれの井戸へ水を汲みにいった帰り道。
ふと森の奥、折れた柵の先に足を踏み入れた。
そして──“それ”と出会った。
空間が、歪んでいた。
視界が波打ち、色彩が逆流する。
樹々は溶け、空は裏返り、そこに立っていたのは──
《獣面の主(ケト=エナ)》。
あらゆる資料で「災厄」「禁忌」「天災」と呼ばれる、
この世界でもっとも接触を禁じられた“異形”。
何層にも重なる仮面。
蔦と骨と刃が交じり合った装甲。
生物とは呼べない抽象的な輪郭と、喉奥から響く、異界の音。
アサギは──一歩も動けなかった。
いや、違う。
動こうとしなかったのだ。
その存在は確かに恐ろしく、不可解で、すべてが異質だった。
けれど、
「……綺麗だ」
口を突いて出た、その言葉。
誰に向けたものでもなく、誰かに聞かせようとしたわけでもない。
ただ、眼前の存在に心を奪われて、漏れた独白だった。
──その瞬間、《ケト=エナ》の動きが、止まった。
時間が巻き戻されたように、すべてが凪ぐ。
歪んだ森は静まり、空は再び澄み渡る。
《ケト=エナ》は、ひとつ、音を鳴らした。
それはかすかな鈴のようでもあり、雨粒のようでもあり──
以後、それはアサギの周囲から離れなくなった。
※※※
王都では、第二報がもたらされていた。
「“あの存在”が、森を離れた」
「なに!? まさか、封印が……!」
「違う。……《ケト=エナ》は、ひとりの少年の周囲を旋回しているという」
「旋回? どういう意味だ?」
「……文字通りだ。周囲十メートルを、円を描いて、静かに、黙って歩いているらしい」
神託庁は会議を開き、数人の賢者が嘔吐し、魔導測定塔が崩壊した。
世界各国の諜報機関は一斉に動き出し、「朝霧アサギ」という異邦人に、新たな名称が与えられた。
──“観測不能の特異点”──
本人は、その呼称を知らない。
「今日も土がいい匂いだなー。なんかこっちの世界のジャガイモ、ぬるぬるしてるけど」
畑を耕すアサギの後方、やや遠巻きに、《ケト=エナ》が静かに佇んでいる。
昼も夜も、食事の時も、寝ている時も、必ず一定距離を保ち続ける。
危害を加える様子は一切ないが、見ようとする者は皆、精神を壊す。
だから誰も近寄れない。
それでもアサギは、恐れない。
「綺麗だよな、お前。ほら、その背中のところ、鱗がきらきらしててさ。……って言っても、通じてるかは分かんないけど」
すると、《ケト=エナ》は、わずかに光を揺らした。
あれは、返事だったのだろうか。
──世界で、たったひとりだけ。
“異形”の本当の姿を、そのままに見てしまった者は、今日も呑気に畑を耕す。
※※※
その夜も、《ケト=エナ》は静かに歩いていた。
月は雲に隠れ、村はひっそりと眠っている。
だがアサギは、寝付けずにいた。
土の匂い。風の音。虫の羽音。
馴染みはじめた異世界の夜が、今日は妙に落ち着かなかった。
村の外れ。少し高い丘へと、アサギは歩いた。
畑からは見えなかった、森の全貌を見下ろす場所。
彼のすぐ後ろに、いつものように《ケト=エナ》がついてきていた。
この存在が「なぜ」自分にだけついてくるのか、理由は分からない。
けれど、恐怖はなかった。
丘の上に立ったとき、アサギはふと振り返った。
──そして、初めて真正面から、《ケト=エナ》を見た。
それは、「形」ではなかった。
人でもなく、獣でもなく、物でもない。
色彩も輪郭も定まらず、仮面のようなものが浮かんでいるようで、
それでいてどこか、誰かが「望んだもの」の残像のようだった。
夜の闇に融け、星明かりを通して浮かぶその姿は──
まるで、宇宙(そら)そのものだった。
深く、限りなく、寂しげで、美しかった。
渦巻く銀河のように、あるいは万華鏡の断片のように、
その存在は、ただ“そこに在る”ということが、奇跡のようだった。
アサギの胸の奥が、ふ、と音を立てて揺れた。
「──なあ、ケト」
名前が本当にそうなのかも、知らない。
でも、アサギはそう呼んだ。
「お前、ひとりなんだな」
《ケト=エナ》は動かない。音もない。
ただ、風がそっと吹く。
「誰にも触れられなくて、喋れなくて、見られるたびに怖がられて──」
ふいに、アサギは笑った。自嘲のように。
「……まるで、俺みたいじゃん」
沈黙が降りる。
夜風が草を揺らし、遠くでフクロウが鳴いた。
そして──
《ケト=エナ》が、仮面のような表層を、そっとほどいた。
その瞬間。
アサギの目に、“それ”の本当の姿が映った。
透き通った羽のような構造。
万物を記録した書物の頁にも似た、幾重にも重なる結晶体。
無数の瞳があって、どれも寂しそうで、優しくて、遥かに昔を見つめているようだった。
ひとつの命でありながら、無数の意志が響き合っている。
その姿を見て、アサギはただ──
「……やっぱり、綺麗だな」
呟いた。
※※※
その夜、各国の観測塔が同時に“共鳴”現象を記録した。
幾つかの古文書が勝手に頁をめくり、
幾つかの神殿では、聖火が燃え上がったという。
翌日、アサギの住む村では、森の木々が一斉に花を咲かせた。
けれど当の本人は──
「……やべっ、昨日水くみに行くの忘れてた」
畑のジャガイモを掘り起こしながら、苦笑していた。
《ケト=エナ》は、その背後に静かに佇んでいる。
昨日よりも、ほんの少しだけ距離が近い。
※※※
それからの話を、世界はあちこちで語り継ぐことになる。
「異邦の少年が、災厄の神に“名”を与えた」と。
「禁忌が花を咲かせた」と。
「ある者は“それ”を愛した」と。
けれどアサギは、今もこの異世界の片隅で、静かに暮らしている。
畑に花が咲いた日も。
森に誰かが訪れた日も。
空に月が二重に昇った日も。
彼はただ、土に触れ、《ケト=エナ》に話しかける。
たとえ、返事が返ってこなくても。
「……今日も、綺麗だよ」
※※※
■禁忌存在《ケト=エナ》
【名の由来】
“ケト(Keto)”は、古代語で「結び目」あるいは「海の深淵」を意味し、
“エナ(Ena)”は「歌」「共鳴」「核」といった概念を含む語根です。
全体では「世界の縫い目に住まう、共鳴するもの」という意味を持ちます。
【存在の本質】
《ケト=エナ》はこの世界の情報基盤そのものに干渉できる存在であり、いわば「世界のバグチェックツール」のようなものです。
その役割は、物語上の時間線や記録の“歪み”を検知し、静かに修正すること。
しかしその「修正」の対象が人間や文明、歴史であろうと容赦なく、たとえば“ありえない幸福”や“生まれてこないはずの命”すら削除してしまうため、太古の時代に「災厄」として封印されました。
【外見と知覚のズレ】
《ケト=エナ》は見る者の「魔力フィルター」を通して初めて形を取ります。
つまり、世界に生きる者すべてが「それを理解できる範囲でしか認識できない」。
その結果として、多くの者には「仮面」「刃」「毒々しい装飾」など“恐怖”に基づいたイメージで投影されてしまいます。
しかしアサギは、魔力を持たない「異世界人」であり、同時に“それを恐れなかった”ただ一人の存在であったため、《ケト=エナ》の本来の姿──世界の断片でできた透明な構造体を視認できたのです。
【禁忌指定の理由】
数千年前、ケト=エナが「存在に触れた」都市が、
一夜で記録ごと消滅したという歴史があります。
当時、その都市には“世界最初の大罪”とされる技術──「人造魂(ソウル・エミュレーション)」が研究されていたとの噂がありました。
ケト=エナはその技術を“誤った逸脱”として検出し、都市そのものを巻き戻し、何もなかったことにしたとされます。
それゆえ、宗教・学問・政治すべての分野において
「接触禁止」「視認禁止」「記述禁止」とされ、以後は“名も姿も記録に残せぬもの”として【禁忌指定】を受けたのです。
【孤独】
そうして数千年、誰からも触れられず、恐れられ、
それでも《ケト=エナ》は“正しさ”のためだけに在りつづけました。
けれど、アサギだけが言葉を与えた。
《ケト=エナ》にとっては、それが最初で最後の「名前」だったのかもしれません。
赤いトラックがふわりと消え、目の前に広がったのは白い石造りの神殿と、ずらりと並ぶ異国の武装者たち。
「……あれ、ゴール、どこいった……?」
「勇者様……?」
場がどよめくなかで、アサギはただ立ち尽くしていた。
だが、鑑定とやらをされた直後──
「ステータス、平均以下か……」
「勇者適性なし。魔力量もゼロ」
「まさか“空召喚”とは……」
剣も、魔法も、称号も、なし。
彼はあっさりと見捨てられた。
せめてもの“善意”として与えられたのは、王都から遠く離れた「捨て村」での暮らしだった。
曰く、そこは“危険区域に隣接するが故に、逆に安全”なのだと。
アサギは頭を下げ、黙って村の人々と畑を耕した。
文句も言わず、逃げ出しもせず、ただ、居場所を作ろうとした。
それが、三日目のことだった。
村はずれの井戸へ水を汲みにいった帰り道。
ふと森の奥、折れた柵の先に足を踏み入れた。
そして──“それ”と出会った。
空間が、歪んでいた。
視界が波打ち、色彩が逆流する。
樹々は溶け、空は裏返り、そこに立っていたのは──
《獣面の主(ケト=エナ)》。
あらゆる資料で「災厄」「禁忌」「天災」と呼ばれる、
この世界でもっとも接触を禁じられた“異形”。
何層にも重なる仮面。
蔦と骨と刃が交じり合った装甲。
生物とは呼べない抽象的な輪郭と、喉奥から響く、異界の音。
アサギは──一歩も動けなかった。
いや、違う。
動こうとしなかったのだ。
その存在は確かに恐ろしく、不可解で、すべてが異質だった。
けれど、
「……綺麗だ」
口を突いて出た、その言葉。
誰に向けたものでもなく、誰かに聞かせようとしたわけでもない。
ただ、眼前の存在に心を奪われて、漏れた独白だった。
──その瞬間、《ケト=エナ》の動きが、止まった。
時間が巻き戻されたように、すべてが凪ぐ。
歪んだ森は静まり、空は再び澄み渡る。
《ケト=エナ》は、ひとつ、音を鳴らした。
それはかすかな鈴のようでもあり、雨粒のようでもあり──
以後、それはアサギの周囲から離れなくなった。
※※※
王都では、第二報がもたらされていた。
「“あの存在”が、森を離れた」
「なに!? まさか、封印が……!」
「違う。……《ケト=エナ》は、ひとりの少年の周囲を旋回しているという」
「旋回? どういう意味だ?」
「……文字通りだ。周囲十メートルを、円を描いて、静かに、黙って歩いているらしい」
神託庁は会議を開き、数人の賢者が嘔吐し、魔導測定塔が崩壊した。
世界各国の諜報機関は一斉に動き出し、「朝霧アサギ」という異邦人に、新たな名称が与えられた。
──“観測不能の特異点”──
本人は、その呼称を知らない。
「今日も土がいい匂いだなー。なんかこっちの世界のジャガイモ、ぬるぬるしてるけど」
畑を耕すアサギの後方、やや遠巻きに、《ケト=エナ》が静かに佇んでいる。
昼も夜も、食事の時も、寝ている時も、必ず一定距離を保ち続ける。
危害を加える様子は一切ないが、見ようとする者は皆、精神を壊す。
だから誰も近寄れない。
それでもアサギは、恐れない。
「綺麗だよな、お前。ほら、その背中のところ、鱗がきらきらしててさ。……って言っても、通じてるかは分かんないけど」
すると、《ケト=エナ》は、わずかに光を揺らした。
あれは、返事だったのだろうか。
──世界で、たったひとりだけ。
“異形”の本当の姿を、そのままに見てしまった者は、今日も呑気に畑を耕す。
※※※
その夜も、《ケト=エナ》は静かに歩いていた。
月は雲に隠れ、村はひっそりと眠っている。
だがアサギは、寝付けずにいた。
土の匂い。風の音。虫の羽音。
馴染みはじめた異世界の夜が、今日は妙に落ち着かなかった。
村の外れ。少し高い丘へと、アサギは歩いた。
畑からは見えなかった、森の全貌を見下ろす場所。
彼のすぐ後ろに、いつものように《ケト=エナ》がついてきていた。
この存在が「なぜ」自分にだけついてくるのか、理由は分からない。
けれど、恐怖はなかった。
丘の上に立ったとき、アサギはふと振り返った。
──そして、初めて真正面から、《ケト=エナ》を見た。
それは、「形」ではなかった。
人でもなく、獣でもなく、物でもない。
色彩も輪郭も定まらず、仮面のようなものが浮かんでいるようで、
それでいてどこか、誰かが「望んだもの」の残像のようだった。
夜の闇に融け、星明かりを通して浮かぶその姿は──
まるで、宇宙(そら)そのものだった。
深く、限りなく、寂しげで、美しかった。
渦巻く銀河のように、あるいは万華鏡の断片のように、
その存在は、ただ“そこに在る”ということが、奇跡のようだった。
アサギの胸の奥が、ふ、と音を立てて揺れた。
「──なあ、ケト」
名前が本当にそうなのかも、知らない。
でも、アサギはそう呼んだ。
「お前、ひとりなんだな」
《ケト=エナ》は動かない。音もない。
ただ、風がそっと吹く。
「誰にも触れられなくて、喋れなくて、見られるたびに怖がられて──」
ふいに、アサギは笑った。自嘲のように。
「……まるで、俺みたいじゃん」
沈黙が降りる。
夜風が草を揺らし、遠くでフクロウが鳴いた。
そして──
《ケト=エナ》が、仮面のような表層を、そっとほどいた。
その瞬間。
アサギの目に、“それ”の本当の姿が映った。
透き通った羽のような構造。
万物を記録した書物の頁にも似た、幾重にも重なる結晶体。
無数の瞳があって、どれも寂しそうで、優しくて、遥かに昔を見つめているようだった。
ひとつの命でありながら、無数の意志が響き合っている。
その姿を見て、アサギはただ──
「……やっぱり、綺麗だな」
呟いた。
※※※
その夜、各国の観測塔が同時に“共鳴”現象を記録した。
幾つかの古文書が勝手に頁をめくり、
幾つかの神殿では、聖火が燃え上がったという。
翌日、アサギの住む村では、森の木々が一斉に花を咲かせた。
けれど当の本人は──
「……やべっ、昨日水くみに行くの忘れてた」
畑のジャガイモを掘り起こしながら、苦笑していた。
《ケト=エナ》は、その背後に静かに佇んでいる。
昨日よりも、ほんの少しだけ距離が近い。
※※※
それからの話を、世界はあちこちで語り継ぐことになる。
「異邦の少年が、災厄の神に“名”を与えた」と。
「禁忌が花を咲かせた」と。
「ある者は“それ”を愛した」と。
けれどアサギは、今もこの異世界の片隅で、静かに暮らしている。
畑に花が咲いた日も。
森に誰かが訪れた日も。
空に月が二重に昇った日も。
彼はただ、土に触れ、《ケト=エナ》に話しかける。
たとえ、返事が返ってこなくても。
「……今日も、綺麗だよ」
※※※
■禁忌存在《ケト=エナ》
【名の由来】
“ケト(Keto)”は、古代語で「結び目」あるいは「海の深淵」を意味し、
“エナ(Ena)”は「歌」「共鳴」「核」といった概念を含む語根です。
全体では「世界の縫い目に住まう、共鳴するもの」という意味を持ちます。
【存在の本質】
《ケト=エナ》はこの世界の情報基盤そのものに干渉できる存在であり、いわば「世界のバグチェックツール」のようなものです。
その役割は、物語上の時間線や記録の“歪み”を検知し、静かに修正すること。
しかしその「修正」の対象が人間や文明、歴史であろうと容赦なく、たとえば“ありえない幸福”や“生まれてこないはずの命”すら削除してしまうため、太古の時代に「災厄」として封印されました。
【外見と知覚のズレ】
《ケト=エナ》は見る者の「魔力フィルター」を通して初めて形を取ります。
つまり、世界に生きる者すべてが「それを理解できる範囲でしか認識できない」。
その結果として、多くの者には「仮面」「刃」「毒々しい装飾」など“恐怖”に基づいたイメージで投影されてしまいます。
しかしアサギは、魔力を持たない「異世界人」であり、同時に“それを恐れなかった”ただ一人の存在であったため、《ケト=エナ》の本来の姿──世界の断片でできた透明な構造体を視認できたのです。
【禁忌指定の理由】
数千年前、ケト=エナが「存在に触れた」都市が、
一夜で記録ごと消滅したという歴史があります。
当時、その都市には“世界最初の大罪”とされる技術──「人造魂(ソウル・エミュレーション)」が研究されていたとの噂がありました。
ケト=エナはその技術を“誤った逸脱”として検出し、都市そのものを巻き戻し、何もなかったことにしたとされます。
それゆえ、宗教・学問・政治すべての分野において
「接触禁止」「視認禁止」「記述禁止」とされ、以後は“名も姿も記録に残せぬもの”として【禁忌指定】を受けたのです。
【孤独】
そうして数千年、誰からも触れられず、恐れられ、
それでも《ケト=エナ》は“正しさ”のためだけに在りつづけました。
けれど、アサギだけが言葉を与えた。
《ケト=エナ》にとっては、それが最初で最後の「名前」だったのかもしれません。
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