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30話 魔界

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⸺⸺魔王アビスの深淵しんえん⸺⸺

 ここはどうやら、地上界と魔界の境目に俺様が無意識に創り出した空間であるらしい。

 初めは何もない真っ暗な空間で、俺様の使うかまが浮かんでいるだけだったようだ。
 
 猫の下僕しもべたちはこの空間内で自由にクラフトができるらしく、この石の壁も部屋に設置されている家具も全て猫下僕が1から創り出したらしい。

 ご丁寧に俺様の玉座の間まであり、俺様はここに足を組んで座り、今日もはぐれ魔族らと契約を結んでいく。


 一体どのくらいの魔族を使い魔にしただろうか。そろそろ飽きてきたなと思って来たとき、猫下僕のコモリィが俺の所へとやってきた。

「魔王アビス様! ついに魔界への扉が開きました!」
 コモリィはそう報告をする。

「何で!?」
 俺様は思わずそう問い返す。

「アビス様が使い魔をどんどん増やしていって力をつけたからですよ! 早速行ってみましょうよ!」

「む、そうなのか。よし、パーティを編成する。俺様と、貴様小悪魔のコモリィと、堕天使のセラ、魔族のスラぴょんだ。急いで召集しろ」
 
 俺様がそう言うとコモリィは言いづらそうにこう返した。
「すみません、アビス様。恐らくアビス様が召喚した方が早いかと……」

「む、そうか!」

 俺様は慌てて召喚を発動する。すると、黒いドロドロの中からセラとスラぴょんが現れた。

「アビス様、セラ、只今参りましたわ」
 セラは堕天使のメス猫だ。
 堕天使は回復系の技に優れている。

「スラぴょん、只今参りました」
 スラぴょんは初めに魔族を代表して色々教えてくれたスライムだ。
 まぁ、ぷにぷにしててふみふみし心地がいいから連れていく。あ、あと魔界の案内もしてもらえるしな。

 そしてコモリィは俺様の1番のパシリ役。何でもほいほいやってくれるし、何でも報告してくれる良き下僕だ。

「うむ、お前らよく来てくれた。これから魔界へと進出する。俺様のお供をせよ」

「「はい! 喜んで!」」


 こうして俺様は3匹の下僕を連れて、魔界への扉が現れたフロアへと移動をした。


⸺⸺魔界への扉⸺⸺

「で、デカイな……」

 そこには圧倒的な大きさの扉がそびえ立っていた。

「ええ、本当に……」
 と、セラが相槌あいづちを打つ。

⸺⸺キィィィッ⸺⸺

 俺様が近付くと扉は勝手に開き、意を決してその中へと飛び込んだ。


⸺⸺魔界 ヤマネコ座の領域 大平原⸺⸺

 漆黒しっこくの霧が辺りを包み、カオスキングダムのように真っ暗である。

 入ってきた扉は既になくなっていた。帰りは何処どこにいても扉を召喚すれば帰れるらしい。
 
 そんな暗い平原を俺様たちは真っ直ぐに進んでいく。
 そこら辺を歩いている魔族らは、俺様たちには特に見向きもせず、魔物のように襲ってきたりもしない。
 パラディース島の裏にこんなものがあったとは……。いや、そもそも裏って何? って話だが……。


 しばらく何もない平原を歩いていると、不意に目の前にデーモン族のオスが現れる。
 地面の黒いドロドロから出てきたそいつは、悪魔の角に悪魔の翼を持ち、まさに今の人の姿である俺様と近い見た目であった。

「お前たち、今地上界の扉を開けてきたのか?」
 そのデーモン族のオスはそう聞いてくる。

「そうだ。何か問題でもあるのか?」
 ごうに入っては郷に従えと言うしな。一応聞いておこう。

「いや、問題はない。サタン様から召喚状を預かってきている。そちらの用事が済んでからで構わない。その召喚に応じてほしい」
 そのオスはそう言って1枚のカードのようなものを手渡してきた。

 何だこれは、とも思ったが、同時に召喚に応じる手順が脳内に思い浮かんでいた。

「特に用事はない。今すぐに召喚に応じよう」
 俺様がそう答えると、そのオスは深くお辞儀をして俺様の持っているカードに触れた。

「感謝する。では、共に参ろう」

「お前らもこのカードに触れていろ」
 俺様が下僕しもべらにそう指示を出すと、下僕らはすぐにカードに触れた。

 そして俺様が少し念じると、カードが黒く光り俺様たちを包み込んで転送させた。


⸺⸺サタン城 玉座の間⸺⸺

「ふむ、意外に早かったな」

 転送先は、玉座に足を組んで座っているデーモン族のオスの目の前だった。
 俺様を迎えに来たオスよりは遥かに角が大きく、底知れぬ漆黒の気配を感じた。

「お前がサタンとやらか」
 俺様は物怖じせずに問いかける。

「そうだ。貴様は?」
 サタンは無表情で返してくる。ちょっと怖い。

「俺様は深淵の魔王アビスだ。使い魔を増やしまくっていたらここへの扉が開いたため、調査にやって来た」

「魔王……? ふむ、どうやらその素質はあるようだな。なんとも面白い気配の奴よ。に地上での話を聞かせてみろ」
 サタンはそう偉そうに言う。

「き、貴様何故なぜそんな偉そうなんだ……」

「ほう、余に興味があるか? いいだろう、特別に答えてやろう。余は、この魔界の魔王らを統べるもの、“大魔王サタン”である」

「だ、大魔王!?」
 俺様はその言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴った。

 魔界の魔王を統べるもの、大魔王サタン……。

 か、かっこいぃぃぃぃぃ!




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