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最終章

アレクシウス ~ ※

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 暴漢に合った俺は、この世界を放棄しようとしていた。
 望んだ訳でも無いのに持って産まれた闇の力のせいで、俺だけではなく、俺と同じように闇の力を持っているだけで嬲り殺されていく
「アレクシウス様!しっかりして下さい!」
 膨大な治癒の光が注がれていく。


「大丈夫ですか、アレクシウス様!」

 そう言って治癒魔法を傷口に翳してくるのは、光属性の王国ルキウスの第一王子『リシェール・ファルセア・シュゼ・ルキウス』。
 膨大な光の魔力を持ち、神が持つと言われている『金の瞳』、『光の女神ファルセア』の名を持つということで、『光の神の生まれ変わり』とまで言われて民に讃えられている。

 そんな者が、忌避される『闇の皇子』に関わってはならないはずなのに…。
 『属性で差別すること』を反対するリシェール……彼ならばきっと差別のない世界が造れるだろうと…焦がれた。


 その日以来リシェールは頻繁に城を訪れる。
 訪問理由は主に迫害を受けた者の治療だった。
 どんな目に合ったのか調査したりと、この城が一番用事を済ませ易いと言う事だった。


 …リシェールは少々困った所がある子だった。
 誰にでも人懐こいのはいいのだが…。

「アレクシウス様、お仕事終わられたんですか?」
 嬉しそうに駆けてくると至近で足を止め……その笑顔のまま上目遣いで見つめてくる。
 襲っていいのか迷う事が多い。
 俺だけではなく側近までこれにやられているので、問題なのは俺の方じゃない。
 そんな風に考え込んでしまっていると、不思議そうに小首を傾げる仕草を見せる。
 ……他の奴に襲われないように何か対策をしなければならない。


 古来から、闇は光に憧れるという。
 当然俺もリシェールに惚れているのだが……。

 伝えてしまって来なくなってしまったらどうしようか、嫌われてしまったら俺はどうなってしまうのか、と悶々としていた時…油断してしまった。
 リシェールからの提案でこれからは『リシェ』と呼ぶことになった。
 俺だけに呼ばせてくれる愛称……。
 リシェはその事に、何故か頬を染めどことなく嬉しそうな、熱を帯びた眼差しで俺の目を覗き込んでくる。
 後でわかったが、俺の背が高いから上目遣いになっていただけだったのだが、心臓に悪い…。

 とにかくその眼差しに惹きつけられて、気が付けばリシェの唇を奪っていた。
 至近距離で見る、美しい金の瞳……囚えられて目が離せない……。

 下半身に熱が集まりそうになった時、息を飲む声で我に返る。
 だが俺は興奮しかけた勢いで思わず気持ちを告げていた。
 愛おしさの余り頬を撫でていた、尊くて。
「…僕もアレク様が……好きですよ?」
 そしてまた上目遣い。
 告白のせいか頬が染まって、瞳が熱く潤んでいる(ように見えていた)。

 OKされて舞い上がっている気持ちを無理矢理抑え込み、リシェ…俺の恋人を寝室に拐って……結ばれた。
 最中に死ぬほど煽られ捲って、初めてなのに一切手加減が出来ず、かなりハードな責め苦を与えてしまった…。

 賢者タイムに入って、ようやく優しく甘くしてやれると考えていたら、熱を帯びた眼差し、行為で上気した頬で気怠そうにニコッと微笑みかけてきた……理性を総動員して乗り切った。




 ……あの時俺はリシェを連れて行くべきだった。
 リシェがどれだけ闇勢力との矢面に立っていたか。
 それに疲れて我が城に来ていたのだと初めて知る。
 迫害を受けている闇勢力の者を助ける事がどれだけの批判に合うのか…気丈にそれを全く見せなかったリシェ…。

 俺が発って三日後という速さでリシェが廃嫡されたのを知らされる。
 闇勢力に味方するリシェを失脚させようと、盲目的に光の神を敬う輩がその機会を狙っていたのだと……。


 公務を全て投げ出してすぐに俺はリシェを捜した。
 今回の『ライナック王国への訪問』は、闇属性を魔法属性の一つであると言ってくれていたので、話し合いが纏まれば、闇属性への差別の抗議に加わって貰えた筈だった。
 リシェをだいぶ楽にしてやれたはずだった…。
 その公務も途中で投げ捨ててリシェを捜し当てた。


「っ!?」
 血塗れの中で倒れていたリシェ。
 部屋の中に居たゴミを闇の力で消し飛ばす。
 俺が初めて使った闇魔法だった。
『闇魔法って凄いんですよね!』
 笑顔で嬉しそうに俺に向けられる言葉……。
 今初めて見せてやれた。

「リシェェッ!!」
 慌てて身体を抱き寄せるとまだ温かかった。
 だが、生命の息吹を感じないし、何より魂の存在が無い。
「…っ…っ!」
 人間であった時の最後の涙をリシェの顔へと落とすと、リシェの身体を修復し、保存する魔法を掛けた。
 俺の闇魔法では、死体しか癒せない。
 リシェの光は瀕死の者すら生き返らせたというのに……。


 城にリシェを連れて戻ると、地下の祭壇の前にリシェの身体を埋めた。
 棺には、リシェの『清い心』を表す白い薔薇、そして俺の『永遠の愛』を表す黒薔薇を、リシェの髪へ一本ずつ飾り付ける。
 全部で999本の薔薇である『何度生まれ変わってもあなたを愛する』を棺に敷き詰めて…。



 俺はすぐに自分に魔石を埋め込み、神としての力を手に入れた。

 ルキウスとライナック以外の国を従属させる。

 ライナックは争う理由もない、魔法知識は役に立つ故放置。

 ルキウスは簡単に落としたりしない!
 徹底的に苦しめる!
 それにリシェがまた生まれ変わって来る可能性もある。

「必ず見つける…我が花嫁。」

 我の行動に異を唱える父帝を殺しても何の感情も湧かなかった。
 魔石が闇の力を我に与える。
 闇に心が浸り、力の代わりに心を失った。

 問題無い、リシェ以外の事は忘れても問題は無いのだから…。


 皇帝となってから、リシェへの不当な行為に対しルキウス国を抗議した。
 その代償として『光属性を一番強く持つ者』を我が国に嫁として捧げさせる事にした。
 リシェの名誉を回復させるため、リシェは『最初の花嫁』として我に嫁いだことにさせた。
 リシェの身が滅ぶまでリシェのお陰で『帝国』が侵攻しなかったと代々伝えさせる。

 ルキウスから届けられた花嫁は、リシェで無いと判断したら即殺した。
『リシェを間接的に殺したルキウスの血を殺す!』
 その時は楽しくて仕方が無かった。


 ルキウスは愚かにも『聖属性』などという言葉を作り、『光属性ではない』と言い放ち、一番強い者を寄越さなくなった。
 どちらとて関係無い。
 リシェが生まれ変わって来たとしたら、きっとわかる筈なのだから…。



 そうしているとある時好機が訪れた。
 ルキウスに『リシェール』と名付けられた子が産まれた。
 リシェと同じ黄金の髪を持つ。
 だが瞳は金ではなく紫だった。
 神の祝福が無いゆえの瞳の色なのだろう。
 魔力も弱く、俺の花嫁には茶番である聖属性の人間が選ばれて送られた。
 くだらない……神の身であった我には聖属性と言えど矮小過ぎた。
 聖属性のガキに闇を植え付けてやる。
 名前はナザリとか言ったか。
 ナザリはいつも通り『生贄の花嫁』として我が元に来たが、育った闇を確認すると、国へ返却した。


 『リシェール』のことは暫く放置する。
 リシェと同じ年齢にならないと恐らくわからない、そんな気がしたからだ…。


 やがてリシェールがリシェと同じ歳になった時にちょっかいを出した。
 疫病を世界中に発生させてやる。

 蔓延を止められないままで国中が滅んでいった。
 ああ、うっかりリシェールも死んでしまった。
 『次』はもう少し加減してやらねば……。
 闇魔法で時を戻す。

 同じ顔、同じ髪の色、同じ名前のリシェールを殺してしまったのに、感情は動くことが無かった。
 我は神だから…我は金の瞳を持って、神の身となっていた。

 ……リシェと同じ瞳の色の……。


「離せ!!」
 弟を助けに来たリシェールを捕まえてベッドに組み敷いてみた。
  ……何も感じない……全く別の物なのか、闇により何も感じなくなっているのか、判断も出来ない。
 同じ名前、そっくりな顔なのに……。
「私はたとえ何をされようと屈しない!」
 言い放つリシェールを眺める…。
 リシェはこんな口調ではない。
「くっ……ああっっ!」
 慣らしもせずに挿入する。
 待ってやる必要性を感じずすぐに動いてやる。
「く……痛……!」
 ボロボロ涙を流しながら赤い顔で睨むリシェール。
 全く同じ表情をリシェがしたら……。
 我は何も感じないのだろうか……。
 リシェールの中に出すとすぐに首を絞めて殺した。
 光の無くなった紫の瞳を眺めて待つが、いつまで経ってもリシェールにリシェが移るような事は起こらなかった。
 また闇の魔法で時を戻す。


 リシェールは何度時を戻しても、弟を助けにやって来る。
 これが必然ならば、何度殺しても結果は同じ。
 あと一度だけ戻して……このリシェールは諦める。

 その時妙な気配を感じた。
 何だかわからないが……別の世界への道が出来ている。
 その世界に手を伸ばすと……見つけた、リシェ!
 だが何処なのかわからない。
 恐らく我でも干渉出来ない世界。
 ならば道に落としてやろう!

 リシェールを絶望させて、ようやく『別な場所』に逃亡させる事に成功した!
 いつもと違う展開。

 リシェ……今度こそ!!


 リシェールの運命はやはり定められていた!
 弟を助けに我の所へ向かって来るリシェール。

 バルコニーに出ると、滅茶苦茶な光魔法を暴走させて使っているリシェールの姿。
 笑いが浮かびそうだった。
 いつもと違う!と…。

「止まれ、リシェール王子。」
 それでは魔力が枯渇して、死んでしまう。
 また死んでしまう……。
 心はそう言いたいのに、その言葉は闇の中に消える。
「ウェルナート様を何処にやったんですか?」
 リシェと同じ口調。
 心があったなら泣いていただろう。

 だが、何かの干渉があったのか、ウェルナートなる男が消えた原因は我にもわからなかった。

 早く我のリシェだと確定させたい…。

 リシェールにキスをしてみる。
 唇を噛んで来たが、血を見ると一瞬動揺して申し訳無さそうな表情が浮かんだのを見た。
 間違いなかった……我の……リシェ!

 だが、一つだけ問題がある。
『リシェの時の記憶』が戻らない…。

 我は考えた。
 輪姦された時がリシェの最後の記憶の筈、そこを狙ってやろうと。

 今の我はただ『リシェを取り戻す』だけに囚われていた。
 例え、記憶が戻るまでのリシェを苦しませても…。

 記憶が戻らなくても、リシェの魂だけを掴まえれば良いだけの事だ、と。



 我のベッドの上に転がされているリシェール……前回はどう嬲り殺したのだったか。
 最後は必ず殺さねばならない。
 リシェールを使ってリシェを復活させるまで…。


 我は気付いてなかった…無意識に今回のリシェールにはきちんと愛撫を施していた事。
 『アレク』と呼ばせた事。
 このリシェールに対し子供を産ませたくなったこと。
 リシェールが達するたびに愛おしさを感じていたこと。

「あれく……さまぁっ…!くる……ちゃぅ…っ!」
「っ!?」

 殆ど意識が無くなった様子のリシェールが不意に漏らした喘ぎ…リシェとの情事がダブる。
 正気を失ったリシェールが薄っすら微笑む。

「リシェ…リシェなのか!?教えてくれ!!」

 リシェールは何か言おうとして意識を失ってしまった。
 それから凌辱の限りを尽くしたが、一度もリシェと触れ合う事は無かった。


 リシェールを自由にする為だけに捕えていた弟のサフィーニが、リシェールに好意を寄せている事に我は気付く。
サフィーニのどす黒い欲望を闇の力で増幅させてやり、望みであったろうリシェールの身体を与えてやると、サフィーニはますます兄に溺れていった。
もう用は無いあの忌まわしいルキウスの血は、これで根絶やしになる。


 同時にリシェールの中の何者かが日に日に精神を擦り減らせているのを感じる。
 我が仕組んだ通りに…。


 リシェが眠る祭壇にリシェールの身体を横たえさせる。
 リシェの遺体には保存の魔法が掛けてある。
 死んだ時と全く変わらずに在る闇魔法。
 そちらに中身を移せば恐らく記憶は蘇る。


 最後の確認として試しに契約でリシェールを縛ってみたが、発動しない!
 間違い無く今のリシェールの中には『違う人間が居る』と断定した!
 ゾクゾクする…久しぶりに感情が芽生えた。
「あれく…さま…熱いっ!」
 この表情……間違いなく…『俺のリシェ!』


 そして我はとうとう手に入れた!『柚希』!

 後は柚希の魂をリシェの身体に移すだけだった。
 意識を失ったリシェールの身体はもう不要……と抱き寄せた時、我を黄金が貫いた………。
 迂闊だった…いや、我はリシェに、柚希に負けたのだ……。


 『俺』の目的はいつの間にか変化して、リシェを傷つけていたから……。

 リシェールの治癒はあの時のリシェの治癒と全く同じで温かい……心が戻るような気がした。
 リシェールの……リシェの光の治癒に導かれる。


 柚希……リシェ、最愛の……逢えたら……俺の…。


 遠い意識の中でリシェが俺の頭を抱き締めたように感じた……。



 『お休みなさい、アレク様……きっともうすぐ…。』



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