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夕方4時になると終業の鐘が、トウェンテ商会に鳴り、みんな片付けを始める。
隣の席のアマリアが、書類をまとめながらこちらを覗き込んだ。

「エミ!仕事慣れた?」
「まあね。」
「今日は、一緒にごはん食べていく?」
「ごめん。ちょっと用事があるの。また誘って。」
「分かった。お疲れ様。」
「お疲れ様。」

 
私はギルフォード公爵領内の一番大きな街、ナラテアに着いて、庶民の服を買い、数日仕事を探していた私は、偶然見つけた事務員募集の貼り紙に飛びついて、試験を受けた。

あれから1ヶ月たった今、経済の勉強をしていて商会の仕事の流れがわかっていた事と前世のOL経験が役に立って、ナラテアの中堅商会トゥエンテに経理見習い、エミ・マーモットとして働き始めていた。

書類を片付けて、バッグを手に商会を出ると近くのパン屋で特売品のパンを買い、アパートに帰る。
アマリアのお誘いは、嬉しいけれど節約生活なので、何度もごはんには行けない。
小さなキッチンとベッドとテーブル、椅子が1つの部屋に入るとホッとする。前世のOL時代とあまり生活が変わらないなと思いながら、野菜スープを作りパンを皿に出して慎ましく夕食を済ませた。

前世との違いと言えば、娯楽がないことかな。ゲームもないし…
今は本を買って読む余裕もない。
前世の記憶があるおかげで、この生活にさほど抵抗がないけれど、ただの公爵令嬢だったら、庶民の生活無理だったかも。

そんな事を考えながら、ベッドに横になる。
アーノルドのおかげで、横になって眠れるようになれた事に思いが至ると心の隅がチクリと痛む。
行方不明の婚約者なんて忘れて、キャンベルに帰ったのかなぁ。新しい婚約者、見つけてくれているといいけど。


それから数日後、トゥエンテ商会の仕事と並行して、字の書けない近所の人に頼まれて代書や他国からの手紙の翻訳、通訳をして働いていた私は、働きすぎだったのか、せっかくの休日体調不良で起き上がるのも辛かった。

こういう時、一人暮らしの心細さが身に染みるわ。
何か食べて、体力つけないとと思うが胃がムカついて、やっと水を飲むが戻してしまった。

こういう時、ドラマとかだと『まさか』とか言って、妊娠疑ったりするのよね…
そこで、はたと気づいた。
あんな事があって、生活が変わって忙しくて忘れていたけどあれから来てない!
ま、まさか⁈
と、とりあえず様子見よう。
ただの体調不良かもしれないし、違ったら恥ずかしいし…
とりあえず寝よう。

私は現実逃避する事を決めた。
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