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再会

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卒業してしまうと王宮勤め以外の貴族は、外出はお茶会や夜会がメインになってしまう。朝から師匠と身体を鍛え、食後は各地からの情報の整理をして過ごす。お父様は、さらに伯爵領地経営の仕事もあり大変だなぁと思う。伯爵領地には、普通の職業訓練学校に擬装した影の訓練学校もあり、そこの運営もお父様の仕事だ。
女性の私は、結婚したら伯爵領地経営は旦那様がするので仕事は、お父様にくらべたら少ない。次代を生み育てるという男性にできない仕事があるから仕方ないが。

「お嬢様。王宮から夜会の招待状が届いております。」
「ありがとう。」
侍女から渡された招待状にはシェルト王女歓迎と書かれている。王妃様直々の招待を断る貴族はいない。
「ドレスで行かないとまずいわよね。」
「はい。すでにいくつかご用意しております。」
「早いわね。」
「ニーナからすでに連絡が来ていましたので。」
王宮から手紙が来るより王妃様付き侍女のニーナから直接の連絡が早いって、影の凄いところだなぁ。
シェルト王女についての情報を確認するため報告書を広げる。
シェルト王女アイナは、15歳。1年間、学園で学ぶために来る。栗色の髪に翠の瞳。大人しめな印象を与える容姿をしている。性格は温厚だが芯は強い。レイモンドとは、大使就任後、何回か夜会で会っている。
レイモンドはゲーナットの姫の時と同じように礼節を守り、大使として接しているが、王女の方は、かなり惹かれているようだ。
元々、猫被りのときは優秀な王子様だったレイモンドなので、素のレイモンドを知らない人からモテるのは、当たり前だろう。
素を知ってなお好きになった私は変わり者かもしれないけれど。

藍色のドレスに同色のリボンという少し大人しめな物を来て、夜会に向かう。王女が主役であるし、レイモンドが来るなら目立ちたくないのもあった。
会場に着くとすぐに顔見知りの令嬢たちがやって来た。
「ミリアリア様。今日はシックなんですね。」
「主役は王女様ですもの。」
話をしていると国王陛下と王妃様が入場し、その後ろからレイモンドのエスコートでアイナ王女が入場してきた。
レイモンドは、線の細さがすっかりなくなり大人の男性になっていた。優しくアイナ王女を気遣っている。横のアイナ王女は、美しいその頰を少し赤らめて楽しそうにしていた。
私だってラルフ様と噂になるくらいには夜会に出ていたのに、2人の姿に心が乱されるなんて、自分の事が嫌になる。
国王夫妻と一緒に出て来るのは、留学とはいえ国賓扱いだからと言えるが、普通の貴族はレイモンドとアイナ王女の婚約も近いのではと話している。

アイナ王女は、ファーストダンスをレイモンドと踊り、その後何人かに申し込まれて踊っている。
その様子をボーっと見ていたら、背後から声がした。
「ミリアリアは踊らないのか?」
少し声も低くなって落ち着いた感じだけど、振り向かなくてもわかる。レイモンドだ。
「お父様しか相手がいないから。」
「あの…」
何か言いたげなレイモンドの言葉を遮るように話し出す。
「アイナ王女、綺麗な方ね。良かったじゃない。お幸せにね。」
「ミリアリア。それが人を祝っている顔なのか?」
「顔?」
私は影を使うものとして感情を悟らせないことも学んでいる。作り笑顔を気づかせないことだって。
「他のやつは知らないが、ミリアリアの顔を見れば心からの笑顔かどうかなんてすぐ分かる。」
レイモンドの言葉で勝手に涙が溢れてくる。そんな私の涙をそっとすくい、庭にエスコートしてくれた。
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