縫剣のセネカ

藤花スイ

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第18章:樹龍の愛し子編(2) 龍祀の儀

第268話:葉ミョウ

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 セネカは魔物と戦いながらひたすらに真っ直ぐ進んでいた。伝承ではまず真っ直ぐ進むことになっているらしいので、それを愚直に守っている。

 あれから何種類もの魔物と遭遇した。全てが獣か虫の形をしていたが、実際には植物だった。どの魔物も強くはなくて、無防備にこちらに近づいてくるだけだった。

「ねぇ、この道ってどれだけ続くんだろうね。龍の気配もないし、景色も似たようなものだから進んだ実感がないなぁ」

「生えてる植物の種類とやってくる魔物は違うけれどね。だけど、変わり映えしないのは事実だね」

 ニーナとファビウスの会話が聞こえて来た。いまは少し陣形を変えていて、二人が前衛にいる。

 セネカはその後ろでメネニアやケイトーとプラウティアを守っていた。

「ねぇ、プラウティア。樹龍って植物なのかな? それとも動物なのかな?」

 セネカは浮かんできた疑問をプラウティアに投げかけた。この世界の全てが植物だとしたら樹龍も植物なのかもしれない。動物はセネカ達だけだ。

「どうなんだろうね。樹龍を解体した人はいないだろうし、分からないんじゃないかな」

「そうだよねー」

 セネカは持っていた袋から水を飲んだ。

「そもそも龍にそういう分類を適用していいのか分からないけれどね」

 今度はメネニアが言った。もっともな意見だ。セネカも龍とは何かと言われたら分からないし、極端な話をすれば他の生物とは根本的に違うものかもしれない。

「神の遣いかぁ……。神様のこともよく分からないんだけどなぁ」

 そんな風に呟いてみたら樹龍に伝わるかもしれないと思った。



「あぁ、ハンミョウだ!」

 楽しげで大きな声を出したのはガイアだった。普段は落ち着いているから珍しいけれど、たまにこういうことがある。

 植生は変わるけれど、似たり寄ったりな場所を進み、やって来る魔物を倒すという作業を繰り返していた。ガイアは虫の中でもハンミョウが大好きなので、つい反応したのだろう。

 やって来た魔物はハンミョウにしては大きめだが、少し飛んでちょっと止まる習性はそっくりだ。翅や脚が葉っぱや茎のように見える。

 ガイアは一瞬で冷静になり、いつもの真面目な顔に戻ろうとしているけれど、嬉しさを隠しきれてはいない。普段との差ですごく可愛らしく見える。

 ハンミョウがゆっくりと近づいて来るので、じっとその様子を見る。すると、その動きには何か意図があるのではないかと思えてきた。

「ねぇ、マイオル。あの魔物だったらもう少し近づかせても良いかもしれないよね? みんなの魔法で防御を固めて、少し様子を見ることはできないかな?」

 セネカが言うとマイオルは腕を組んだ。

「……そうね。このままずっと進むしかないかもしれないけれど、安全性を確保しながら試すのは悪くないと思う。プラウティアはどう思う?」

「私も同じかな。『神界』に入ってからはとりあえず前に進めとしか指示がないし、入る世界が変わるみたいだから、今ここで考えていくしかないと思う」

 マイオルは頷いた。そしてプルケルとケイトーの方も見た上で決断した。

「それじゃあ、ルキウスとモフとプルケルでプラウティアの防御をお願い。ケイトーさんはセネカとニーナと前衛になってもらって、あのハンミョウの様子を見ましょう」

「分かった」

「いざとなったらガイアに魔法を使ってもらうわ」

「もちろんだ」

 ガイアがしっかり頷くのが見えた。虫好きだが、敵に容赦をすることはない。

「それじゃあ、準備をお願い。見てて飽きない魔物で良いわね」

 準備を整える間もハンミョウは動いては止まり動いては止まりと繰り返していた。

 ゆっくりと様子を見ながら、ニーナが「葉ミョウ」と名前を付けたりしているうちにかなり距離が近づいて来た。

 そして、これ以上近づいたら攻撃を開始しなければならないと考えていた辺りで、葉ミョウはその場で二回ぴょーんぴょーんと飛び、明後日の方向に進み始めた。

「追ってください」

 プラウティアがそう言った。その口ぶりに力強さがあったので、セネカはすぐにマイオルを見た。

「追うわよ。ガイア、ストロー、今の地点と来た方向が分かるように地面に細工をお願い。セネカもこの辺りに糸を付けておいて」

「分かった」

 セネカは地面に[魔力針]を埋め込み、そこと自分を糸で繋いだ。性質やり方の違う三本を用意した。

「このままの陣形で行きましょう」

 ガイアとストローもすぐに目印をつけたので、セネカ達は葉ミョウを追い始めた。

「言葉にできませんが、近づいたことで分かりました。あの魔物達は私たちに敵意がなさそうです。むしろ、味方というか……そんな気配があります」

 ゆっくりと進む葉ミョウを追いかけながらプラウティアが言った。眉を寄せている。

「念のため、防御に気を使いつつ追うのが良いと思いました。ここでは何故か私も樹龍の気配を薄くしか感じられないので、いまは魔物を手がかりにするしかないかもしれません」

 時間的な余裕はあるけれど、先に進みたいという気持ちがあるのは間違いなかった。みんな冒険者らしく気は長いけれど、何か別の行動を取りたい頃ではあった。

「行動には同意するけれど、俺はあのまま進んでもよかったと思っているよ。そんなに時間が経ったわけじゃないからね」

 ストローがそう言うとマイオルの表情がわずかに緩んだ。こういう時に違う視点で考えてくれる人がいるのは心強い。今言ってくれるのも助かる。

 集中して追いながらもそんな話をしていると、違う魔物がまた近づいて来た。

「見た目は完全にリスだけど、胡桃の殻みたいな質感ね……」

 リスが来たと言ってちょっと嬉しそうだったマイオルは、リスが近づくにつれて微妙そうな顔になった。一応あれでも可愛いとセネカは感じている。

「葉ミョウに合流したわね。同じ方向に進んでいるわ」

 二匹がゆっくりと行進してゆく。相変わらず高山植物がそこいらに生えていて、地面も平らなままだ。

「一応ここもシルバ大森林だと思うけれど、森って感じがしないね」

「確かに」

 話しかけるとニーナが返事をしてくれた。森なのに森林限界を超えたような場所なのは何だかあべこべだ。

「魔物の行進をぞろぞろ追うあたしたちも何だか異質だけどね……」

 マイオルが冷静になってしまったようだ。だが、ここは神界なのだから多少変でも仕方がない。

 葉ミョウの後に胡桃っぽいリス、どんぐりの殻みたいにツヤツヤした被甲種など、進むごとに魔物が増えていく。

 そして、このままどうなってしまうのかとセネカが考え始めた時に、ずっと伸ばしていた糸がプツッと切れた。

 気づけば霧は晴れ、目の前には一本の木があった。
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