捨てられ第二王子は、神に愛される!

水魔沙希

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グレイシアの自我が確立してから7年の月日が流れ、グレイシアは12歳になった。シュテルツ王国の田舎の街や村では『神の愛し子・グレイシア』の名が定着しつつある。大都市近郊では、『疾風迅雷のシア』の名で知られている。どちらもこの国では影響力が強い人物である。


『神の愛し子・グレイシア』は貴重な治癒魔法が使える存在であると同時に神聖な存在として称えられている。


『疾風迅雷のシア』は10年以上の月日をかけて、SSSランクの冒険者となった。その名は伝説に残り、武勇伝もいくつもある。


どちらも人々の記憶の中で伝説に残っている。もはや普通の12歳の少年とは言えないね。そうさせたのは紛れもない自分なのだが、正直ここまでになるとは思わなかった。まぁ、神が人間の中に入り込んでいるのだ。それくらいになっても疑問を感じる事はない。しかし、グレイシアはそうではないようだ。


動けば動くほど、それが大々的に取り沙汰されて、戸惑っている。まぁ、グレイシア自身は人間だし、人気になっても調子に乗るような少年じゃない。寧ろ、遠慮してしまう。グレイシアは心優しい人間だからこそ、俺もグレイシアの事が大好きなのである。


☆☆☆☆

そんな中で、シュテルツ王国の国王が倒れたらしい、と王都で噂になった。そう言えば、神の力で、グレイシアが12歳の時に亡くなると知った。だから、この噂も本当なんだろうな。


まぁ、『神の愛し子・グレイシア』の力さえあれば、実は、治せるんだけどね。


普通の治癒魔法なら負傷者の傷までしか治す事ができない。それが、世界の理。でも、グレイシアには病人の病すら治せる奇跡の力を持ち合わせている。まぁ、そんな事は口を大きくして言える事ではないけど。


しかし、グレイシアを捨てたのだ。それ相応の対価を頂いてもいいと思うの。グレイシアの存在を認める代わりに病を治す事だって厭わない。


今日も『疾風迅雷のシア』として、クエストに励むぞー!!


☆☆☆☆


「さて、今日はどんなクエストを受けますか。」


『んー?じゃあ・・・ポーション作りのクエストとか?』


それ、ただグレイシアがやりたいだけじゃない?別に、いいんだけどね。


「んじゃあ、薬草採取クエスト!!これにするか!」


『えー?僕に聞いた意味ないじゃないか。』


グレイシアに返事を返そうとした時、ふと思い返す。


そう言えば、国王陛下の病気もどこまで進行しているんだろうな?ちょっと、調べてみようかな?・・・なんて。まぁ、死なれても少々、困るしね。


ギルドから抜け出して、人気がないところまで移動する。スマートフォンでネット・ショッピングにて透明マントを購入し、それを羽織る。


そして、国王陛下のいる場所までテレポートする。


目の前の光景は国王陛下がベッドに横になっている。不規則な呼吸音。息をするのも酷く、体力を使うらしい。これはもう長くないな。


一応、スマートフォンで調べてみる。カメラ機能を使い、写真を撮る。


ステータスには『あと、2週間の命。』と書かれていた。あぁ、病が大分進行しているんだな。ついでだから、王妃様も見てみようか。確か、こちらも神の力で同時期に亡くなると知った。王妃様の部屋にでも行けば分かるかな?


☆☆☆☆


王妃様の命も、僅か1か月の命、とあった。まぁ、こちらは不確定要素が多くて、確実に、1か月の命とは言い切れない。でも、このままだと二人共死んじゃうよねぇ・・・。どうしようか。


『やっぱり、アポロンも国王陛下と、王妃様の事が気になるの?』

『まぁ。でも、正直に言ってどうでも。利用出来るか否か、それしか考えてないけどね。』


そう言うと、グレイシアはため息交じりに呆れる。


『はぁ……。アポロンは心配じゃないの?』


『だって、グレイシアを捨てた親だぞ。恨みこそあれども、心配する事はないかなぁ?グレイシアこそ国王陛下と王妃様、他人行儀な呼び方じゃないか!』


……やめよう。不毛な争いになる。


☆☆☆☆

一旦、人の目に入らないところにテレポートして、透明マントを脱ぐとスマートフォン兼アイテムボックスにしまうと、ギルドに戻る。そこに見慣れない顔があった。どうやら田舎からやってきた新人冒険者のようだ。年齢は15歳くらい。俺はその新人冒険者に声をかける。


「君、ここらで見かけない顔だけど新人冒険者さん?」


新人冒険者は俺の問いに戸惑う。そんなに戸惑う事、あるかなぁ?しばらく待つと、問いに答える。


「は、はい!田舎町から出て来た新人冒険者です!名前をルークと申します!15歳で、ヴァルディの町からやってきました。」


ヴァルディの町かぁ。『神の愛し子・グレイシア』として、行った事があるなぁ。のどかで良い町だよね!ここからは10日間近くかかるかなぁ。


「へー。ヴァルディの町ってこの王都から10日間くらい行ったところにある町だよね?」
「あの……行った事、あるんですか?」


少し、間を開けて答える。


「……話を聞いただけかなぁ?」
「そうなんですか……。良い町なんですが。」
「……冒険者間同士は敬語は付けないのが、暗黙のルールみたいなものだよ?だから、タメ口で話してくれ!」


「えっ?そう言うものなんですか?」


俺は同じように王都で冒険者をしている人に同意を求める。そして、ルークは躊躇いながらも敬語をとる。


「よ、よろしく……な!」


初初しくて世話を焼きたくなる感じ。この王都に新たな風を運ぶか?……なんて。
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