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ルークくんは新人冒険者さんという事で、僕が最初指導する事になった。本来はこんな大サービスな事はしないんだけどね。でも、僕と本来の年齢が近いという事で割と仲良くやらせてもらっている。見た目年齢は倍くらい違うんだけど。まぁ、それは置いておくとして、ルークくんは意外と知らない事が多くて、世話が焼ける。
ルークくんと初めて会ってからもう1週間になる。・・・こう、している間にも国王陛下は死の淵に立たされていると言うのに、何も出来ないもどかしさに苛立ちだけが募る。僕は・・・治癒魔法を使えるのになぁ・・・。
ルークくんと王都を練り歩いていると、市場をアディエル王子が視察に来ているのが目に見えた。ルークくんはその姿に大きな声をあげた。
「あっ。グレイシア様!」
思わず、その場が静まり返ってしまった。僕は、咄嗟に小声で答える。
「あのお方はこの国の第一王子、アディエル王子だよ。」
「えっ。そうなのですか?それは、大変申し訳ない事をしました!」
アディエル王子はこちらを見て、様子を窺う。そして、こちらに近寄って話しかける。
「僕を、誰かと見間違えたのかな?」
その言葉にルークくんは声と表情を強張らせる。
「えっ。あの・・・本当に、申し訳ございませんでした!!」
頭を高速で下げる姿に、思わず、どことなくシュールさを感じるも、僕も久しぶりにアディエル王子と会うなぁと緊張が高まってくる。こういう時に限って、アポロンが主導じゃないなんて・・・僕がどうにかしないといけないの?
アディエル王子は気さくに問う。
「それで、君が見間違えた人物ってどんな人なのかな?聞いてもいいかい?」
「あっ・・・。ぐ、グレイシア様は神の愛し子でありまして、どんな病でも治してしまうお方なのです。だから、とても神聖なお方で、俺が到底近寄れない人物・・・。でも、とても尊敬しているんです!!」
「「えっ・・・?どんな病でも治す・・・?」」
思わぬ言葉にアディエル王子と僕は声が被ってしまうが、それよりもルークくんが発した言葉にただ驚いていた。治癒魔法は傷を治す事までしか出来ないはずだよ?それなのに、病を治すだって?そんな、事って・・・!
アディエル王子は問う。
「その話、詳しく聞いても?とても、興味深いんでね。」
「は、はい!」
「あれは、今から5年前の出来事です。
安息日にばあちゃんと教会に行く約束をしていたのですが、
ばあちゃんは体調を崩してしまって。
ばあちゃんはその時、余命1年と医者に言われていたんです。
でも、最後の1年だからと無理してでも、教会でお祈りを捧げたいと言ったのです。
俺達、家族はばあちゃんの意志の強さにどうする事も出来ず、教会に連れていったんです。
教会には珍しく賑わっていたんです。
だって、『神の愛し子・グレイシア』様がいたのですから。」
「ふーん?それで?その後はどうなったんだ?」
アディエル王子は急かすように言った。僕もその続きが気になる。
「『神の愛し子・グレイシア』様は怪我をしていた者に治癒の魔法を・・・歌をうたっていました。
その声は教会内に響き、まるで、天使がやってきたかのように、怪我を治していきました。
でも、それだけではなかったのです。
その時、俺の隣にいたばあちゃんが・・・ばあちゃんの体調は悪かったはずなのに、心なしか良くなっていったんです。
そして、額に触れてみると、熱があったはずなのに、熱が引いていったんです。
グレイシア様は怪我だけではなく、ばあちゃんの病までも治していったのです。
今では、ばあちゃんは健康になり、畑仕事に精を出しています。これが、『神の愛し子・グレイシア』様の話です。グレイシア様は週末に、田舎町によくいらっしゃるとうかがいます。そして、今でも人々の怪我や病を治しているのだとか。」
アディエル王子は手を顎に置き、考え込む。僕も正直、アディエル王子がいなければ、その場で驚いていた。僕は人々の病までも治していたなんて。そんな、奇跡に近い能力を秘めていたなんて!
『へー?王都にグレイシアの事を知っている人がいるなんて、思わなかった。しかも、病を治す力を秘めているなんて、事まで知っているとは・・・。』
ん?その言葉から察するに、病までも治している事は知っていたのか!!なんで、アポロンは黙っていたのかな!まぁ、国王陛下にあまり良い感情を抱いていないのは知っていたけど。
アディエル王子はようやく口を開いた。
「その『神の愛し子・グレイシア』に、僕はよく似ているのだな?」
「はい!ですから、本当に、驚いたのです。グレイシア様がいらっしゃるのかと。」
「僕とよく似ていて、奇跡の力を持ち合わせている・・・。そんな人物、存在するのか?いや、可能性は一つだけだ。・・・第二王子、その人だけが、希望だ!」
「第二王子、ですか?アディエル様の双子であらせられるという?」
「えっと、そなたの名を聞いてもいいか?」
「ルークと申します。」
「ルークはグレイシアの顔を知っているのだな?だったら、力を貸してくれ!今、第二王子は王城のとある場所で休んでいるはずだ。そこまで、ついてきてもらえないだろうか!!」
あぁ、やっと心につっかえていた気持ちが晴れる。
ルークくんと初めて会ってからもう1週間になる。・・・こう、している間にも国王陛下は死の淵に立たされていると言うのに、何も出来ないもどかしさに苛立ちだけが募る。僕は・・・治癒魔法を使えるのになぁ・・・。
ルークくんと王都を練り歩いていると、市場をアディエル王子が視察に来ているのが目に見えた。ルークくんはその姿に大きな声をあげた。
「あっ。グレイシア様!」
思わず、その場が静まり返ってしまった。僕は、咄嗟に小声で答える。
「あのお方はこの国の第一王子、アディエル王子だよ。」
「えっ。そうなのですか?それは、大変申し訳ない事をしました!」
アディエル王子はこちらを見て、様子を窺う。そして、こちらに近寄って話しかける。
「僕を、誰かと見間違えたのかな?」
その言葉にルークくんは声と表情を強張らせる。
「えっ。あの・・・本当に、申し訳ございませんでした!!」
頭を高速で下げる姿に、思わず、どことなくシュールさを感じるも、僕も久しぶりにアディエル王子と会うなぁと緊張が高まってくる。こういう時に限って、アポロンが主導じゃないなんて・・・僕がどうにかしないといけないの?
アディエル王子は気さくに問う。
「それで、君が見間違えた人物ってどんな人なのかな?聞いてもいいかい?」
「あっ・・・。ぐ、グレイシア様は神の愛し子でありまして、どんな病でも治してしまうお方なのです。だから、とても神聖なお方で、俺が到底近寄れない人物・・・。でも、とても尊敬しているんです!!」
「「えっ・・・?どんな病でも治す・・・?」」
思わぬ言葉にアディエル王子と僕は声が被ってしまうが、それよりもルークくんが発した言葉にただ驚いていた。治癒魔法は傷を治す事までしか出来ないはずだよ?それなのに、病を治すだって?そんな、事って・・・!
アディエル王子は問う。
「その話、詳しく聞いても?とても、興味深いんでね。」
「は、はい!」
「あれは、今から5年前の出来事です。
安息日にばあちゃんと教会に行く約束をしていたのですが、
ばあちゃんは体調を崩してしまって。
ばあちゃんはその時、余命1年と医者に言われていたんです。
でも、最後の1年だからと無理してでも、教会でお祈りを捧げたいと言ったのです。
俺達、家族はばあちゃんの意志の強さにどうする事も出来ず、教会に連れていったんです。
教会には珍しく賑わっていたんです。
だって、『神の愛し子・グレイシア』様がいたのですから。」
「ふーん?それで?その後はどうなったんだ?」
アディエル王子は急かすように言った。僕もその続きが気になる。
「『神の愛し子・グレイシア』様は怪我をしていた者に治癒の魔法を・・・歌をうたっていました。
その声は教会内に響き、まるで、天使がやってきたかのように、怪我を治していきました。
でも、それだけではなかったのです。
その時、俺の隣にいたばあちゃんが・・・ばあちゃんの体調は悪かったはずなのに、心なしか良くなっていったんです。
そして、額に触れてみると、熱があったはずなのに、熱が引いていったんです。
グレイシア様は怪我だけではなく、ばあちゃんの病までも治していったのです。
今では、ばあちゃんは健康になり、畑仕事に精を出しています。これが、『神の愛し子・グレイシア』様の話です。グレイシア様は週末に、田舎町によくいらっしゃるとうかがいます。そして、今でも人々の怪我や病を治しているのだとか。」
アディエル王子は手を顎に置き、考え込む。僕も正直、アディエル王子がいなければ、その場で驚いていた。僕は人々の病までも治していたなんて。そんな、奇跡に近い能力を秘めていたなんて!
『へー?王都にグレイシアの事を知っている人がいるなんて、思わなかった。しかも、病を治す力を秘めているなんて、事まで知っているとは・・・。』
ん?その言葉から察するに、病までも治している事は知っていたのか!!なんで、アポロンは黙っていたのかな!まぁ、国王陛下にあまり良い感情を抱いていないのは知っていたけど。
アディエル王子はようやく口を開いた。
「その『神の愛し子・グレイシア』に、僕はよく似ているのだな?」
「はい!ですから、本当に、驚いたのです。グレイシア様がいらっしゃるのかと。」
「僕とよく似ていて、奇跡の力を持ち合わせている・・・。そんな人物、存在するのか?いや、可能性は一つだけだ。・・・第二王子、その人だけが、希望だ!」
「第二王子、ですか?アディエル様の双子であらせられるという?」
「えっと、そなたの名を聞いてもいいか?」
「ルークと申します。」
「ルークはグレイシアの顔を知っているのだな?だったら、力を貸してくれ!今、第二王子は王城のとある場所で休んでいるはずだ。そこまで、ついてきてもらえないだろうか!!」
あぁ、やっと心につっかえていた気持ちが晴れる。
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