捨てられ第二王子は、神に愛される!

水魔沙希

文字の大きさ
10 / 12

10.

しおりを挟む
ルークくんは新人冒険者さんという事で、僕が最初指導する事になった。本来はこんな大サービスな事はしないんだけどね。でも、僕と本来の年齢が近いという事で割と仲良くやらせてもらっている。見た目年齢は倍くらい違うんだけど。まぁ、それは置いておくとして、ルークくんは意外と知らない事が多くて、世話が焼ける。



ルークくんと初めて会ってからもう1週間になる。・・・こう、している間にも国王陛下は死の淵に立たされていると言うのに、何も出来ないもどかしさに苛立ちだけが募る。僕は・・・治癒魔法を使えるのになぁ・・・。


ルークくんと王都を練り歩いていると、市場をアディエル王子が視察に来ているのが目に見えた。ルークくんはその姿に大きな声をあげた。


「あっ。グレイシア様!」


思わず、その場が静まり返ってしまった。僕は、咄嗟に小声で答える。


「あのお方はこの国の第一王子、アディエル王子だよ。」
「えっ。そうなのですか?それは、大変申し訳ない事をしました!」


アディエル王子はこちらを見て、様子を窺う。そして、こちらに近寄って話しかける。



「僕を、誰かと見間違えたのかな?」



その言葉にルークくんは声と表情を強張らせる。


「えっ。あの・・・本当に、申し訳ございませんでした!!」


頭を高速で下げる姿に、思わず、どことなくシュールさを感じるも、僕も久しぶりにアディエル王子と会うなぁと緊張が高まってくる。こういう時に限って、アポロンが主導じゃないなんて・・・僕がどうにかしないといけないの?


アディエル王子は気さくに問う。


「それで、君が見間違えた人物ってどんな人なのかな?聞いてもいいかい?」
「あっ・・・。ぐ、グレイシア様は神の愛し子でありまして、どんな病でも治してしまうお方なのです。だから、とても神聖なお方で、俺が到底近寄れない人物・・・。でも、とても尊敬しているんです!!」


「「えっ・・・?どんな病でも治す・・・?」」


思わぬ言葉にアディエル王子と僕は声が被ってしまうが、それよりもルークくんが発した言葉にただ驚いていた。治癒魔法は傷を治す事までしか出来ないはずだよ?それなのに、病を治すだって?そんな、事って・・・!


アディエル王子は問う。


「その話、詳しく聞いても?とても、興味深いんでね。」
「は、はい!」


「あれは、今から5年前の出来事です。
安息日にばあちゃんと教会に行く約束をしていたのですが、
ばあちゃんは体調を崩してしまって。
ばあちゃんはその時、余命1年と医者に言われていたんです。
でも、最後の1年だからと無理してでも、教会でお祈りを捧げたいと言ったのです。
俺達、家族はばあちゃんの意志の強さにどうする事も出来ず、教会に連れていったんです。
教会には珍しく賑わっていたんです。
だって、『神の愛し子・グレイシア』様がいたのですから。」



「ふーん?それで?その後はどうなったんだ?」



アディエル王子は急かすように言った。僕もその続きが気になる。


「『神の愛し子・グレイシア』様は怪我をしていた者に治癒の魔法を・・・歌をうたっていました。
その声は教会内に響き、まるで、天使がやってきたかのように、怪我を治していきました。
でも、それだけではなかったのです。


その時、俺の隣にいたばあちゃんが・・・ばあちゃんの体調は悪かったはずなのに、心なしか良くなっていったんです。


そして、額に触れてみると、熱があったはずなのに、熱が引いていったんです。


グレイシア様は怪我だけではなく、ばあちゃんの病までも治していったのです。


今では、ばあちゃんは健康になり、畑仕事に精を出しています。これが、『神の愛し子・グレイシア』様の話です。グレイシア様は週末に、田舎町によくいらっしゃるとうかがいます。そして、今でも人々の怪我や病を治しているのだとか。」


アディエル王子は手を顎に置き、考え込む。僕も正直、アディエル王子がいなければ、その場で驚いていた。僕は人々の病までも治していたなんて。そんな、奇跡に近い能力を秘めていたなんて!


『へー?王都にグレイシアの事を知っている人がいるなんて、思わなかった。しかも、病を治す力を秘めているなんて、事まで知っているとは・・・。』


ん?その言葉から察するに、病までも治している事は知っていたのか!!なんで、アポロンは黙っていたのかな!まぁ、国王陛下にあまり良い感情を抱いていないのは知っていたけど。


アディエル王子はようやく口を開いた。


「その『神の愛し子・グレイシア』に、僕はよく似ているのだな?」
「はい!ですから、本当に、驚いたのです。グレイシア様がいらっしゃるのかと。」


「僕とよく似ていて、奇跡の力を持ち合わせている・・・。そんな人物、存在するのか?いや、可能性は一つだけだ。・・・第二王子、その人だけが、希望だ!」
「第二王子、ですか?アディエル様の双子であらせられるという?」
「えっと、そなたの名を聞いてもいいか?」

「ルークと申します。」
「ルークはグレイシアの顔を知っているのだな?だったら、力を貸してくれ!今、第二王子は王城のとある場所で休んでいるはずだ。そこまで、ついてきてもらえないだろうか!!」


あぁ、やっと心につっかえていた気持ちが晴れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...