太陽に手を伸ばしても

松本まつも

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ふたつの試合

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「めっちゃ盛り上がってたよね!さっきの借り物競争!!」


千夏はいつも以上にハイテンションだ。


「あいかわらずナス志が面白いとこ持ってくよな」


「みんなめっちゃ笑ってたしね。ほんと借り物競争やってよかった!!」


陸のおかげだよ、と笑う千夏にドキッとするような、ホッとするような。

千夏は僕が予想していた以上に元気そうだった。
じゃあ何を予想してたのかって言われるとちょっとよくわかんないんだけど。



クラス対抗リレーに出るのは僕と千夏を含む四人。
リレーのひとつ前の綱引きが終わるまで、僕たちは出番を待つ長い列の中にいた。


昼休みが終わってから運動場は急に暑くなって、ときどき吹き付ける熱風に混じる砂粒が、いちいち首にまとわりつく。





頭にかけたタオル越しに隣の千夏を見ると、千夏は少し目を細めて、白いテントのさらに向こうの方を見ている。




「私さ、頼斗に振られちゃったんだ」



しばらく続いていた沈黙が破られて、一瞬、周りの音が止まったような感じがした。

千夏はまだ遠くの方を見たままだった。
何かをこらえるみたいに、声には少し力が入っているみたいに感じた。
だけどあくまで冷静だった。



「…そ、そっか」


もうさんざん知っていたことのはずなのに、いざ本人の口から知らされると、かける言葉が全然思いつかなくなる。




困った僕が黙っていると、千夏がまた言葉を続ける。


「私はいい仲間だし尊敬してるけど、そういうのじゃないんだって」


「今まで頼斗のことだけ見てきたのに、頼斗につりあう人になりたくてずっと頑張ってきたのに」


「私、最初から全然つりあいとれるような人なんかじゃなかったんだな、って」




「そんなことないよ」




力なく、ただただ自分のことを否定するような千夏を見て、僕の口からひとりでに出てきたのはこんな言葉だった。




言ってみたはいいものの、またもや僕は続ける言葉が見つからない。
どうしていいかわからずに千夏の方を見ると、千夏もはっとしたように目をまんまるに見開いてこっちを見ていた。


だけど、

「そんなことない」



それしか言えなかった。
弱いな、自分。



でも。

今告白したらひょっとしたら千夏は付き合ってくれるのかもしれない。

僕はふと考えた。

この弱気な僕がそう思ったのなら告白するチャンスは今しかないんじゃないか、とも。



だけど、それは違う。



好きだけど、僕は千夏のことが好きなんだけど、千夏は僕にとって大事な友達であり、数少ない大切な幼なじみだった。


告白したら、それが終わってしまうんじゃないか。
付き合えなかったらともかく、仮にもし付き合ってくれたとしても、今の関係は終わってしまうのだ。
どっちにしろ、僕と千夏は両思いじゃないんだから。


だったら、このままでもいい。


智己には悪いけど、リレーでどんな結果になっても千夏には思いは伝えないつもりだ。

ただ、精いっぱい頑張ってるところを千夏に見てもらえればそれでいいや。

幼なじみって、そういうものなんじゃないかな。




係の人から声がかかって、僕たちリレー出場メンバーはトラックの真ん中へと移動した。

僕のスタート地点とちょうど反対側から走り始める千夏とはここで一旦お別れ、だ。



「千夏頑張れよ、第一走者!」

「陸も!転ばないでね~!」

「転ばないってば!千夏も転ぶなよ!」


あははは、とこっちを振り返って笑いながら千夏はスタートラインの方へ歩いていった。



僕も、早く定位置につかなくちゃ。

頭にかけたままのタオルを外して首にかけると、僕も、僕のスタートラインに向かって、千夏とは反対方向へと歩きだした。



そうだ。

このままで、こんな会話を交わす関係のままで、ずっと僕たちいられたら全然いい。

智己もそう思わないだろうか。




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