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ふたつの試合
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生まれてこのかた千夏にしか恋したことのない僕は、当然、他の誰にも告白なんてしたことないし、
「誰でもいいから彼女が欲しい、」
なんて思ったことも一度なくて、特にモテようとしたりとかもしないから、いわゆる「種まき」もしたことも一切、無い。
かと言って自分で言うのもなんだけど、性格だっていわゆる男前なんかじゃないから、努力をしなかったらひとりでにモテたりすることなんてまず絶対にあり得ないわけで。
要するに、僕はつい今の今まで誰かに告白される、という経験を一度もしたことがなかったのだ。
だからこそ、栗本さんのその言葉には、ほんとうに言葉を失ってしまった。
結局あの後、リレーもまずまずの結果に終わり(最初からコクるつもりなんか無かったから結果なんて別にどうでもいいんだけど)、千夏はまた、あの白いテントへ戻っていった。
僕の方はと言うと、その後は特に出番とかもなかったし、転校生ってそんなに知り合いもいないから応援する人もみんなほどはいないしで運動場をぶらついていた。
で、途中、この前のバンドのみんなで一緒に写真撮ろうとかいうことになって、その時も特にこれといった変化もなく、みんなでワイワイしながら時が過ぎていった。
ああ、幸せだなあ、と思った。
転校生の僕に、こんな仲間ができて嬉しいなあ、って思った。
こんなことでもないと集まらなかったはずの、本来なら接点もなく終わっていったかもしれないメンバーが、こうして騒いでいられるのだから。
でも、そんな漠然とした気持ちだったからこそ、心の準備ができていなかったんだ。
いや、心の準備なんていうレベルの話じゃない。
僕は、栗本さんに告白された。
千夏を好きな僕の背中を押してくれた、
あの優しい栗本さんに告白された。
写真を撮り終わって、喉が渇いてきたから自販機にお茶を買いに行こうと校舎に入ったときのことだった。
「り、陸くん!!」
と、後ろから声がした。
振り返ると、息を切らした栗本さんが昇降口を背にして立っている。
「あのね、陸くん、聞いてくれるかな?」
走ってきたのか、汗びっしょりだ。
「、うん」
「本当に突然になっちゃうんだけど………、私、…、陸くんが、好きです」
僕は驚きのあまり、言葉を失ってしまった。
こっちを真っ直ぐに見てくる栗本さんの目には、今までの栗本さんにはない意思の強さと、ほんの少しの寂しさがあった。
「く、栗本さん」
「いいの、何も言わなくて」
「僕さ、」
「わかってる、大丈夫」
栗本さんは僕にしゃべらせようとしない。
何かの言葉を聞かないようにするみたいに。
栗本さんは僕にとって大事な友達で、仲間だ。
確かに僕がそういう意味で好きなのは栗本さんじゃない。
でも、まず僕はただ栗本さんにお礼を言いたかった。
あの時、騒ぐことも、はやし立てることも全くしないで、静かに僕の恋を応援してくれたことを。
僕の…
恋を。
千夏が振り向いてくれない。
僕のことをただの友達としか思ってくれてなくて、僕には頼斗の話ばっかりしてくるんだ。
こっちの気持ちにも気づかずに。
だけどさ、友達として、だとしても話せることだけで十分幸せだから、今はあえて告白なんてしない。
って、あの時の僕は栗本さんに話した。
その時の栗本さんは、
「たとえ叶わなくても」
たしかそんなことを言っていた。
たとえ叶わなくても、告白してみてよ、 って。
そんな栗本さんを、僕はなんでも話せるいい友達だな、としか思っていなかった。
まさか、今までずっと、自分と同じ気持ちを味わわせていたなんて、これっぽっちも気づいていなかった。
「ご、ごめん…」
頭の中がごちゃごちゃしてきて、謝ることしかできない。
水分不足だからなのか、それ以外のせいなのか、頭がくらくらとしてくる。
体のどこに力が入ってるのかもよくわからなくて、僕は膝に手をついたままの変な姿勢で謝った。
「栗本さんにも、つらい思いさせてたんだな」
「私はそんなことなかったよ」
「え」
「うん、ほんとに。だから、気にしないで。私、陸くんに悪がってほしくないの」
そして栗本さんは、顔いっぱいに笑みを浮かべてこう言った。
「片思いしてるもんどうし、仲間じゃん。私も陸くんも。ただ、私の好きな人がたまたま陸くんだっただけ」
栗本さんの立つ昇降口の方から、秋らしい、涼しげな風がふわりとそよいできた。
ふっ、と僕の頭も軽くなる。
「ありがとう」
自然にそんな言葉が出てきていた。
どうして、栗本さんにはいつも何かと勇気づけられてしまうのだろう。
練習のときも、本番前も、栗本さんはいつも僕の背中をそっと、押してくれていた。
だから、栗本さんのためにも、やっぱり僕は千夏に思いを伝えようと思う。
伝えて、フラれて、自分の思いに区切りをつけよう。
それで、区切りがついたって栗本さんに報告しよう。
片思いしてる者どうし、僕たちは仲間なのだから。
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