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一日目
3 * 恋人岬と運命の人
しおりを挟む恋人岬。
わたしはひねくれているので、こんな名前の観光地に恋人と行くのは絶対に嫌だと思ってしまう。ほらロマンチックでしょう、さあいちゃいちゃしなさい、というような圧を感じて、いてもたってもいられなくなるのだ。なんなら「恋人」という言葉すらむずがゆい。
が、世の中にはそんな場所でも自然体で仲良く過ごすことのできるカップルが存在する。それが、妹のつぐみとその彼氏だ。
二人は数ヶ月前から一緒に暮らし始めた。様子を見ていると、互いを思いやる小さな言動がとても微笑ましい。つぐみが時折、甘えるように彼のバッグをつかむのもかわいい。
そして、この二人は絵になる。ハート型のベンチに座っても、恋人たちが抱き合う巨像の前に立っても、全くいやみがない。きっとフェイスブックだかインスタだかに載せるんだろうなあ、くっそういいなあ、とハンカチを噛みたい思いで二人の写真を撮る。
しばらくして、つぐみたちの観察ばかりしていたらストーカーじゃないかと我に返り、景色を写真におさめようとカメラを構えなおした。ちょうど海に沈もうとしている夕日や、崖にかかる虹が美しい。走馬燈の中にぜひ出てきてほしい光景だ。
それにしても、ずいぶんと高いところにある展望台だ。柵から身を乗り出し見下ろすと、遥か下に海岸が広がっている。水平線が横に広がっていて、地球のまるさがよくわかる。
と、恋人岬中級者(半年ぶり二度目)の羽斗が話しかけてきた。
「えーこちらは恋人岬ですので、あの岩がですね、波がくると、ハート型になるんですよ」
「ほう、ハートに!(しばらく海を見つめて)……え、どういうこと?」
「だからあ、波しぶきがハートの形に見えるんだよ。前きたときに教えてもらった」
ガイドを気取ったわりにいまいち要領を得ない説明に、半信半疑で海岸を見下ろし、指された岩を見ていると、まあ確かにハートに見えなくもない形に白波が広がるのが見えた。
「え、今のやつ?」
「そうそう、ほらほらまた波が来てー、……はいハート~」
雑だなー、と笑いながらハートの写真を撮っていると、母がやってきて全く同じ話をしようとした。
「中村さんに教えてもらったんだけどー……」
「中村さん誰」
「この前グアム来たときのプランナーさんだよ。あそこの岩ねー……」
「ハートに見えるんでしょ? 羽斗に聞いたよ」
言いながら再び岩を見ると、羽斗がけらけら笑いながらとなりの岩を指さした。
「あっ待って? ごめんこっちの岩だった」
見ると、そちらの岩は、白波による見事なハートを生み出している。
「めちゃめちゃハートじゃん」
「そうだったわー(笑)」
「さっきの全然ハートじゃないじゃん」
「ハートじゃないわ~(笑)」
「はいハート~じゃないよ」
「は~いハート~(笑)」
近頃の大学生はみんなこうなのか、それとも羽斗がこういうやつなのか。少なくとも小さいときは、泣き虫の甘えんぼだった気がするのだが。
ちなみにこのあと、恋人岬が名ばかりでなく、本当に運命の出会いを生み出す場所であることが証明された。タクシーが迎えに来るまで時間を潰している最中、先ほど話題にあがった例の「中村さん」とばったり会ったのである。「中村さん」が、半年前の旅行客であるこちらをきちんと覚えていたかは定かではない。
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