ネオンブルーと珊瑚砂

七草すずめ

文字の大きさ
6 / 21
二日目

5 * 七時の市場は雨上がり

しおりを挟む


 ひばりの朝は早い。昨夜ハーゲンダッツを食べホテルに戻ったあとすぐに眠ってしまい、朝風呂に入らなければならないからである。
 すずめの朝は遅い。一人暮らしの家ではがんばって自分で起きるが、母もひばりもいるホテルの部屋の中では誰か起こしてくれるだろうという甘ったれモードに切り替わるからである。
 ただ、遅いといっても五時半だ。仕事の日並みに早い。しかし、これも朝市のため。朝早くなければ朝市ではない。六時にロビーに集合する約束になっていた。
 こんな早朝集合にも関わらず、つぐみと彼氏と両親は昨夜、ハーゲンダッツを食べた後に最上階のラウンジに行き、お酒飲み放題、つまみ食べ放題の贅沢を尽くしてきたらしい。
 JTBのプランで無料で使えるんだよー、なんて言われたけれど、ラウンジが閉まる十五分前であるにも関わらず足を運ぶ元気がわたしにはなかった。ちなみに母は、行くか行かないか部屋でさんざん迷ったあげく、ラウンジが閉まる五分前に到着し、つぐみ曰く「うろうろしている間に閉店になった」らしい。
 父はラウンジから出たさらにそのあと、遅くまでやっているコンビニ的な店に行って酒を買い、ベランダで一人飲みをしたという。ちゃんと起きているかと心配になり、部屋と部屋をつなぐ扉(コネクティングルームというものらしかった)を覗いてみると、父はほぼ支度を終えていた。一方で羽斗はまだ、半分寝ている。父の体力ゲージはどうなっているんだろう。
 朝市へは、リムジンで行くことになっていた。せっかくだから乗ろう、という父の計らいだ。ホテルを出て、停まっているリムジンを見て、わたしは思わず笑ってしまった。異物感がすごい。トリックアート、という言葉が頭上にぷかぷか浮かぶ。前方から写真を撮り、「ここからだと普通の車に見える!」というレベルの低さで一人盛り上がった。運転手さんは優しく日本語も堪能で、リムジンの前でわたしたちを並ばせ写真を撮ってくれた。
 外見もすごいが、車内もおもしろかった。七人が顔を合わせるようにして座り、それでも余裕のある広さ。サイドにはシャンパングラスやワイングラスが並び、青い光がそれを照らしていた。照明や音楽をコントロールすることもできる。高級感あふれるその雰囲気にしばし酔いしれたが、実際その中で交わされた会話は「パリピが乗ってるやつっぽーい」「パリピは乗らなくね?」「ロンハーで淳が乗ってそー」「どっきり~」というようなものだった。
 朝市、といっても正直期待していなかったのだが、到着すると想像の倍以上の規模に驚いた。なんでも売ってると聞いてはいたものの、食べ物や雑貨、野菜や植木、服にアクセサリー、本当になんでも売っていた。そして、ちらりと見ただけで安さに驚く。
 集団行動するような場所ではないので、時間を決めて自由行動をすることになった。つぐみは彼氏と並んで我々の元から立ち去る。英語しか通じなそうだが、彼がいれば大丈夫だろう。
 羽斗の第一声は、「タピオカが飲みたい」だった。タピオカ屋でバイトをしている彼は、さんざん「タピオカはもう下火だ」「売り上げも低下している」などと語っておきながら、でもやっぱりタピオカが飲みたいのだ。店員の鑑だ。
 自由行動と言いながらもなんとなくその場に残っていた、つぐみたち以外の全員で、タピオカを探しつつ食べ物の店舗を見て回ることにした。なんとなく避けてきたが、そんなに言うならわたしもタピオカを飲もうではないか。
 数分後、わたしがタピオカココナッツ、ひばりがタピオカバナナを飲む横で、羽斗は父と焼き鳥を食べていた。何がどうしてこうなったのかよくわからないが、昨日一日で二ハーゲンダッツ食べた彼の舌が、しょっぱさを求めてしまったのなら仕方あるまい。
 ざっと朝市を見てまわり、気になった場所が二つあった。ひとつはかごバッグやピアス、鏡などの雑貨があるテント。もうひとつは、お祭りで売っているようなおもちゃがたくさん置かれたテントだ。
 おもちゃの店では、電池で歩くプラスチックの犬やユニコーンが、サンプルとして足を動かしていた。日本であれば紐でつなぎ、円を描くように歩かせる気がするが、屋台だからかグアムだからか、犬もユニコーンもテントから吊され、ピイピイ言いながらひたすらに宙を搔いていた。なかなかシュールな光景だ。
 ひばりは雑貨の店でかごバッグを買い、わたしも違う形のかごバッグを買うことにした。一ドルや二ドルでピアスが買える店の中で、三十ドルというバッグの値段は高く感じてしまったが、「買う理由が値段なら買うな、悩む理由が値段なら買え」というどこかで聞いた言葉に背中を押された。
 レジのおばちゃんは、一緒にレジに持って行った二ドルのピアスをおまけしてくれ、ポーチもつけてくれた。つたない英語でしか喜びを伝えられないことが悔しかったが、「さんきゅーそーまっち」「あいむべりーはっぴー」の言葉におばちゃんがにこにこしてくれたのがうれしかった。
 その後、集合時間ぎりぎりに「やっぱりほしい!」と母もかごバッグを買いに行き、親子でお揃いになった。同じようにおまけしてもらったポーチを見た父に、「おかあさん、そのおまけがほしくて三十ドル出したんでしょ?」といじられ、母は笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

島猫たちのエピソード2025

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
「Cat nursery Larimar 」は、ひとりでは生きられない仔猫を預かり、保護者&お世話ボランティア達が協力して育てて里親の元へ送り出す「仔猫の保育所」です。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

世界の終わりにキミと

フロイライン
エッセイ・ノンフィクション
毎日を惰性で生きる桐野渚は、高級クラブの黒服を生業としていた。 そんなある日、驚くほどの美女ヒカルが入店してくる。 しかし、ヒカルは影のある女性で、彼女の見た目と内面のギャップに、いつしか桐野は惹かれていくが…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...