ネオンブルーと珊瑚砂

七草すずめ

文字の大きさ
20 / 21
四日目

19 * ネオンブルーと珊瑚砂

しおりを挟む
 日本だ!
 別に何を見たわけでもないけれど、飛行機を降りてまず思った。それから突然、旅行中はちっとも感じなかった、何かに急かされる感覚に襲われる。
 明日は会議と研修だ、はやく帰って寝なくては……。
 日本には日本語があって美味しいお米があって最愛のペットがいて、それから目先のやらなければいけないことがたくさんある。
 降りてから入国審査の場所まで、わりと距離があった。こんなに長い距離を、預けた荷物はどうやって移動するのだろうか。空港は未知すぎておもしろい、そしてその仕組みを作った人たちはえらい。
 無事日本に入国すると、成田空港の広さを改めて実感させられた。預けたキャリーケースがぐるぐる回るあれが、たくさんある。回転寿司ー、と思って動画を撮っていたら、わたしと羽斗の荷物だけなかなか見当たらず焦った。
 税関を抜け、入国のあれこれが終わり、無事日本に帰ってきたことに安堵する。が、ここからがまた大変だ。空港=ゴールではない。
 電車で帰るチームのわたしとひばりは、一足先にみんなに別れを告げ、空港第二ビル駅に向かった。彼女はこれからゼミの合宿に行くのだという。日暮里で拾ってもらい、軽井沢まで向かうらしい。なんというバイタリティ。
 つぐみと彼氏はバスで東京駅へ向かい、両親と羽斗は来たとき同様、車で帰る。明日になれば、仕事に行ったり昼まで眠ったり、犬を迎えに行ったり勉強に精を出したり、それぞれの違う日常に戻る。だけど、グアムで共有した四日間はひとりひとりの中に残っていて、それがきっと何かへの活力になるのだろう。
 旅は終わりがあるから楽しくて、旅先は帰る場所があるから美しい。見慣れた地名へ向かう電車に、一人で乗り込んだ。ちょっと寂しさを感じるけれど、日常に戻っただけだと自分に言い聞かせる。
 家に帰ったら、まず写真を整理しよう。それから、思い出を何かに記録しておこう。日本には、やらなければいけないこともたくさんあるけれど、やりたいこともたくさんある。
 窓の外には、静かで暗く、湿った夏の夜が広がっていた。二十一階から見た光の川を思い出す。珊瑚たちが生んだ白い砂浜を思う。全く違う、だけど同じ世界にある景色。
 あの海だって、この瞬間もきっと、ネオンブルーに輝いている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...