宝かごみかは、君しだい

七草すずめ

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すべて見ていたおさかなは

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 あいだのこいだの、の言葉を紡げず
 途方にくれているさかながひとり
 おなじところをくるくる回っては
 かつての栄華をしのんでる、らしい

 はっぱもひかりも降る水面の
 波紋の行方を一日追っても
 まだまだ時間はたっぷり余るから
 いっそこの世の真理をさがしに
 旅に出ようか迷ってる、らしい


   *


 よく、思考に旅してもらっている。自転車に乗って、「涼しい→季節の変わり目は切ない→なぜ夏から冬、冬から夏の空気は懐かしい匂いなのか→この懐かしさの正体は具体的になんだ→特に思い出は別にない→金木犀も懐かしく感じるけど何が懐かしいのかわからない→人間の脳ってふしぎ→帰ってNHKのモーガンフリーマン見よ~」というように。
 旅に出た思考は、大抵プチ哲学にたどりつく。自分の理解を超えたことを考えるときの、すべてがつながっていくような感覚や心地よい孤独感、凪のような穏やかさが好きなのだ。人間の脳は、とか宇宙って、とか、こういうことは意図的に考えようと思っても思考が広がっていかないから、こうして泳がせて、尻尾をつかんでやらなくてはいけない。
 プチ哲学以外で好きなのは、自分の感情をじーっと観察することだ。あ、わたし今すごく嫌な気持ちになってる、この人のこういうところが羨ましいから攻撃的な気持ちになってるのかも、というふうに。イライラに全力を注いでしまうと、感情の逃げ場がなくなって嫌な気持ちは増殖する。だけどイライラを紐といて言葉にしてやれば、不思議と気持ちが落ち着く。そうかわたしは羨ましいのか、と思えば、ちょっとだけ自分に優しくなれる。
 偉そうに書いたけど、感情を観察しても消せないイライラだってある。嫌な飲み会とかがそれ。無駄な時間を過ごすことへの嫌悪感を紐とくことが、今後の課題だ。
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