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一.
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待ち合わせ場所を駅前のミスタードーナツに指定された時点で、よくない話であることはわかっていた。
季節の訪れを告げる強い風。雨が降る前の匂いと湿気を感じながら、美雨は電車を待つ。広樹にもらったコートを着てきたのは、あきらかに失敗だった。冬物で少し暑いし、別れ話を察していない馬鹿だと思われてしまうかもしれない。
「しばらくそっとしておいてほしい」というメールを最後に、突然連絡がつかなくなってから二週間。久しぶりにかかってきた電話の声で、広樹の心情は手に取るようにわかった。会って話をしたいと告げられ、電話が切れてからは眠ることもできず、長針と短針が巡るのを一晩中見つめていた。
三年前、夜景で有名なレストランで愛の告白をされた日から、彼はいつも、美雨を大切に扱ってくれた。美雨の好きなテーマパークのホテルで、左手の薬指に指輪をはめてくれたこともあった。家族連れで騒がしいドーナツチェーン店を待ち合わせ場所に指定されたことなんて、今まで一度もなかった。
約束の時間を三十分過ぎ心がいい加減はり裂けそうになった頃、広樹はやっと姿を現した。シャツの色がところどころ濃くなっている。外はいつのまにか、激しい雨になっていた。
「ごめん、遅くなって」
小さなタオルで水滴を拭く広樹に、美雨はにっこり笑ってみせる。いつか美雨があげたミニタオルだった。
「連絡しなかったのも、ごめん。わかってるかもしれないけど、今日は別れ話をしにきた。この気持ちはもう変わらないと思う。本当にごめん」
謝罪の言葉を述べ、頭を下げる広樹を見ると屈辱感で泣きたくなったが、涙は出ない。それどころか、広樹に微笑みかけることをやめられない。ようやく頭を上げた広樹の方が、よっぽど泣きだしそうな顔をしていた。なんなの、自分から言い出しておいて。怒りと悲しみが混ざったような思いになるけれど、自分から発される声は穏やかで優しかった。
「そうなの。何かあった?」
尋ねながら広樹の指に何もはめられていないことに気付き、美雨は自分の左手をそっとひざに置く。
「ちゃんと話を聞かせてほしい、かな」
「俺、美雨が怖い。今まで大切に、本当に大切にしてきたけど、これからどう接していいのかわからなくなっちゃったんだ」
広樹は堰を切ったように話し出す。振る方が涙を浮かべ、振られている方が笑っているなんて、へんなの。そう思いながら、広樹の話に相槌を打つ。攻めも怒りもしない美雨に、広樹は理由と言い訳をひたすら並べていった。
「結婚して、このままずっと美雨と一緒になることが、不安だ。俺はもう美雨を守れない」
本当は泣いて喚いて、いやだ別れたくない、と叫びたかった。広樹がどこかでそれを待っているのも、なんとなくわかった。だけど。
「広樹がそう言うなら、仕方ないのかもね。広樹なら、素敵な人と一緒になれるよ。応援してるね」
言葉は美雨の心を置き去りにして、笑えるほど勝手に飛び出していく。
黙り込んでしまった広樹に、自ら事務的な話をしていく。貯金はちゃんと分けようね。広樹の家にある私の荷物は、捨てていいよ。広樹はどうする? 送ろうか? ……
ばいばい、と言って先に席を立ったのは、美雨の方だった。後ろで広樹が泣いていることを知っていたから、振り返ることはできなかった。これ以上ここにいたら、感情が爆発してしまう。美雨は傘をさし、軽やかな足取りで店外に出た。そして広樹の視界から消えたことを確認すると、あああ、と声を上げて涙を流した。
『みう、別れたって本当? 落ち込んでないか心配だよ~』
美雨が婚約者と別れたことを知ると、友達はメールやグループトーク、SNSのコメント欄で声をかけてくれた。美雨は自分に非があったと答え、周りはその言葉を聞いて『こんないい子を振るなんてほんと見る目ない!』『そんな人とは別れて正解じゃない?』などと励ましてくれた。
何が悪かったのよ! と泣きごとを言えるのは、二十年来の友達の前でだけだ。
「ついに彼の前でヒステリー起こした?」
にやりと笑う琴子は背が高いので、向かい合って座ると少し見上げるような姿勢になる。
「そんなわけないよ。彼の前では一回もそんなことなかったし、ぜーったい完璧だったもん」
ふてくされて返すと、いつものようにくつくつと笑われた。
「美雨、怒ってる姿だけは、私にも見せてくれないもんね」
アイスコーヒーをストローでかきまぜる琴子と、暖かいカフェオレで手を温める美雨。正反対なのに姉妹のように見えるのは、幼い頃から一緒に育ってきたからだろうか。ふたつ年上の琴子は、美雨を甘やかしてくれる。
「なにが悪かったのかな」
「だって美雨、結局、彼に笑っているところしか見せてないんでしょう? それはやっぱり、相手にとっては寂しいし、不安だよ」
「でも……」
美雨は、周りの人たちが悲しんだり、憎んだり、嫉妬したりする姿を平気でさらけだしていることが、どうしても理解できなかった。
「やっぱり無理。なんでこっちゃんには見せられるのかが、むしろわかんない」
「じゃ、まずは私の前でヒステリー起こしてみる? すっきりして全部どうでもよくなるかもよ」
「それほんとやめて、笑えない」
冗談を言ってひとしきり笑い一息つくと、急に寂しさがおしよせてきた。琴子たちのような素敵な夫婦になるという夢がついえたことを思い、大きくため息をついた。
「理由もはっきり言わない男なんて、結婚しなくて正解じゃない? 次探しなさい、次」
「別にだれでもいいわけじゃないもん」
機嫌を損ねた美雨は、顔をしかめ、唇をとがらせる。自分が一番かわいく見える仕草は知っているが、琴子の前ではそんなことを考えなくて済む。不細工な表情を見せる美雨に、琴子はまた笑った。
「縁がなかったんだよ、きっと。ほら、これも美月ちゃんのしわざじゃない?」
―美月。
「美月ちゃんが別れるように仕向けたのかもよ? 美雨にはもっといい人がいる! とか言ってさ」
いたずらな顔をする琴子に、美雨は笑い返すことができなかった。
あの頃、美雨は四人家族だった。父と母、美雨、それから美月。はす向かいに住む琴子の家族と七人でピクニックに行ったり、遊園地に行ったりした。そんな幸せな日々を、美雨は今でも時々夢に見る。
「こっちゃんは、なんでも美月のせいにするよね?」
琴子は冗談とも本気ともつかない目で美雨を見つめている。ああ、こっちゃんは美月に会いたいんだ。美雨は静かに目を伏せた。
「だって、そうじゃなきゃ寂しいじゃない。私にとっては二人とも、妹みたいなもんだったから」
美雨が小学生になった頃に突然始まった、母との二人暮らし。家も一軒家から小さなアパートに変わって、毎晩「いつ、もとのおうちに戻るの?」と聞いたことを覚えている。離婚なんて言葉は知らなかったあの頃。
父とも美月とも、あれから一度も会っていない。
私鉄の小さな駅で降り、夜の春風の強さに怯む。家に着くまでに、髪の毛も服もぐちゃぐちゃになるだろう。
琴子との食事は楽しかったけれど、駅近の綺麗なマンションに住む琴子とその帰りを待つ夫のことを想像すると、胸がちくりと痛む。本当だったらもうすぐ二人の新居も決まって、新しい生活が始まるはずだった。
からまった髪先に苛立ちながら鍵を開け、ドアポケットから出した郵便物をダイニングテーブルに散らした。新聞の勧誘、地域新聞、新しい美容院のチラシ。ぺらぺらの紙が多い中、高級感のある白い封筒はひときわ目を引いた。。以前資料を請求した、結婚式場のものだった。
半年前、美雨はいくつかの結婚式場のパンフレットを取り寄せ、そこに繰り広げられる夢のような風景に自分の姿を重ね心を躍らせていた。特別気に入った式場は広樹に見せ、ここは候補に入れよう、と真剣に話し合った。
こんなものが今さら届くとは。腹立たしいことに、それは美雨がネットで見て一番気に入っていた、レトロでかわいらしいチャペルが売りの式場だった。なんで今ごろ、どうして。
目の前のダイニングテーブルが、自身の手でひっくり返された。心のどこかでは、冷静にあーあ、と思っているのだが、感情に全て委ねた自分の手は止まらない。今度はイスを倒したが、思ったより派手な音がしなかった。
「……今ごろ届けやがって」
一度倒したイスを今度は両手でつかむ。放り投げようとするが、重くて引きずってしまう。なんとか叩きつけると鈍い振動が床に広がった。全て上手くいかない。ストレスの発散すら上手くいかない。
「今さら送ってくるなよ! 死ね! 死ね!」
死ね、という言葉といっしょに、胸の中の汚物が吐き出されるようだった。だけど吐き出しても吐き出しても、きりなくそれは腹の底から生み出されていく。処理が追いつかなくなった口から出るのは、悲鳴とも叫びともつかない、言葉にならない声だけだった。
這うようにして携帯電話を手にとって、封筒に書かれた番号を打ち込む。プルルルルルル。頭の後ろがひんやりするのを感じる。血が抜かれたみたいだ。なのに、体中の温度が上昇していくのがわかる。プルルルルルル。
「でろよ、でろよ、でろよ出ろよ出ろよ」
コール音を聞きながら呟きつづけていた言葉は、気がつくと目眩を起こすくらいの大声になっていた。
『ご連絡、誠にありがとうございます。申し訳ございませんが、本日の営業は終了いたしました。恐れ入りますが、営業時間内にご連絡をいただけますよう、お願いいたします。営業時間は―
「死ね、今更送ってきやがって! 遅いんだよ! もっと早く届いてたら……お前らのせいだ、返せ! 幸せを返せ、死ね!」
散々叫んで、声を枯らして、我に返ると電話はとっくに切れていた。携帯電話を押し付けていた左耳が痛む。足元には割れたグラスが散らばっていた。ちくりと痛む足を見ると、ぱっくりと切れた傷口から血が滴っている。
我に返った瞬間はいつも、怒りの数十倍もの虚しさに襲われる。
式場のパンフレットは、びりびりに破いてコンロで燃やした。だけど気持ちはおさまりきらない。何かに怒りをぶつけたいし、誰かにこの虚しさを理解してほしい。
そこで、はっと思い出した。今日は三月十七日……あれから三週間が経った。再開できる!
美雨は慌ててパソコンの電源を入れた。
琴子の前で感情を表に出すことと、一人の時にヒステリーを起こすこと。溜め込んだ感情をリセットする方法がそれしかなかった頃は辛かった。今は、人前で気持ちよくヒステリーを起こすことができるので、少しだけ気持ちが楽だ。
インターネットは、夢のようなところ。ここには、どんな自分も肯定してくれる人たちが、たくさん住んでいる。
『お久しぶりです!』『わ、ミュウちゃんだ! ずっと待ってました! かわらないかわいさ~』
念入りにシャワーを浴び、薄い化粧をした美雨が配信開始のボタンをクリックしたら、一分ほどして画面にいくつかのコメントが現れた。
「みんな、久しぶりですー! お騒がせしてごめんね、やっと配信再開できるよ! 今日はね、幼なじみとごはん行ってきたの」
ちょっとした変装のつもりでかけている伊達眼鏡のフレームにそっと手で触れ、そのまま頬杖をつく。
「最近ちょっと嫌なことがあったんだけど、その子の前では子どもみたいになれちゃうから、いろいろ話してすっきりしちゃった」
開始数分で、視聴人数は四十人を超えた。美雨は画面に目をやり、自分の映り具合を確かめた。大丈夫、かわいい。
「お酒飲んだから、ちょっと顔赤いかな~? あんまり強くないから、すぐに赤くなっちゃうの」
うるんだ瞳で舌ったらずに話すと、コメントの数が増した。好意的なものだけを選んで読み上げる。ミュウちゃんかわいいとか、一緒にお酒のんでみたいですとか。……でも。
『友達に教えてもらって、話題の放送見てファンになりました! またあんな放送してくださいね!』『ミュウちゃんこの前みたいな放送はもうやらないの?^^』
そんなコメントには、反応しないわけにいかない。確かにこのあいだの放送はすごかった。もう二度とできないと自分では思うけれど、それを言うと視聴者が減りそうなので、笑いながらごまかす。
「またアカウントロックされちゃうから、しばらくはやめとこうかな~」
三回規制がかかるとアカウントが復活しなくなるとか、普通なら知らなくてもいいようなことを、この二週間の間にたくさん学んだ。
「さーて、明日は仕事なんだけど、あんまり眠くないんだよね。何かしよっか!」
そうしている間にも視聴者数は、少しずつ増えていた。六十人、八十人。すごい、今までと全然違う。
「久しぶりにお絵かきでもしようかな? ミュウの絵、なかなかだよ!」
『ミュウ画伯の絵最高』『見たことない! 描いて!』『前かいてたミュウさんの絵、待ち受けにしてます』
配信を見ている人たちがどこの誰なのかはわからないけれど、ちっともかまわなかった。不特定多数の人間にもてはやされる快感に、自然と口角が上がる。まるでお姫様だ。
描いて描いて、と何人かに囃され、もったいぶりながら紙とペンを手に取る。難しい顔をしながら、あえて雑な線でペンギンを描いていく。みんなが笑ってくれるように。
以前は好きな芸能人の配信を見ているだけの一視聴者だったけれど、一人ぼっちで寂しい夜、誰かに存在を認めてもらいたくて、気付けば自分が配信を始めていた。初めての配信を見てくれたのは、三人だけだった。
だけどたった三人の言葉は、美雨を変えた。。『かわいい』『また絶対配信して!』 そんなふうに言われたら、一度きりでやめられるはずがない。
不思議なもので、最初に自分を見てくれる人が三人いたのなら、次はそれ以上を目指したくなる。四人、五人。十人、二十人。何度か配信を繰り返して気付いたのは、人を惹きつける配信者には何か武器があるということ。絵が上手かったり、弾き語りができたり、危険を冒すことができたり。それから女なら、きわどいところまで肌を見せることも武器になる。美雨は最初のうち、自分の武器を探すことに必死だった。
美雨がペンギンの絵をカメラに向けると、コメントが同じ文字で埋まった。『wwwwwww』、wの一文字で「笑い」を表すネットスラング。自分の行動でたくさんの人を笑わせることができたと思うと、していることを肯定されているような気持ちになる。
ふと、ひとつのコメントに目が留まった。
『ぶりっこしてんじゃねぇよブス』
今まで反応せずにいた、誹謗中傷のコメント。今だ、と美雨は思う。
「……は?」
低く感情の死んだような声で言うと、何もかもがしんと静まり返ったように感じる。じわりじわりと、胸の中から黒いものがこみあげる。美雨はカメラに向かって中指を立てた。
「うるせえよばーか、死ね!」
右手に持っていたペンをカメラめがけて投げつけると、コメントの量が倍増した。
『でた! 怒りのミュウちゃん!』『二週間ぶりだけどキレッキレですね』『ギャップがたまらない』『~録画中~』
見る人ひとりひとりが顔を持たない世界。私はここでなら、感情を思い切り解放できる。琴子にも言えない、私だけの時間。
「コメントするしかできないカスのくせに。失せろクズ!」
棚にあるウサギのぬいぐるみを左腕で抱え、引きちぎる勢いで耳を引っ張る。やわらかい手ざわりの顔をかきむしると、丸いボタンの目が取れそうになる。
乱暴な行動を繰り返すと、演技に感情が追いついて、先ほどの中傷が本気で許せなくなる。今すぐさっきの奴の住所をつきとめて殺してやりたいとまで思う。
『泣いてるww』『そろそろやめないとまた警察呼ばれちゃうよ~!』『誰がなんて言おうとミュウちゃんは可愛いよ:)』
可愛い、という言葉が目に入り、美雨の動きが止まる。かわいい。言われて嬉しい言葉は、怒りに狂っているときにも届くものだ。一瞬にして理性を取り戻し、慌てて状況を確かめる。熱くなって、とんでもないことをしていないかどうか。
「……あれ、ミュウ、ちょっとやりすぎちゃった? わ~どうしよう、怖くてアーカイブ観られない~」
両手で顔を隠して下を向きつつ、こっそり惨状の確認。ぬいぐるみやペンが壊れたが、この前に比べたらかわいいものなので一安心する。。
『ミュウちゃんそろそろ時間~』
視聴者に教えられ、ようやく終了時刻が迫っていることに気付く。この配信サイトでは、最大三十分までしか連続で配信できない。もっと続けたければまた新しく配信の枠を取らなければいけないのだ。
『今日は次ある?』という視聴者の質問に、美雨ははにかんで「恥ずかしいからもうやらない!」と答え、配信を終了させた。最終的な視聴者数は、以前から目標にしていた二百人を優に超えていた。
*
「こっちゃーん!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をうずめられても、琴子は嫌な顔一つしない。みゅーちゃんどうしたの、と頭をぽんぽんしてやる。
「美月とまたけんかしたの」
「そうなの。今日はどうして?」
「みゅーもハートのクッキーがいいって言ったのに、美月が先に食べちゃった」
涙はとっくに止まっていたが、美雨はしゃくりあげるようにして訴えた。小学生になったばかりの琴子は、妹のようなその子をなぐさめようと、話を聞きながらベンチまで手を引き歩く。
「あー! 美雨、ずるい! またこっちゃんに言いつけてる!」
公園の入り口でそう叫んだ美月に目をやると、すでに泣きそうな顔で美雨を指差していた。ずるいずるい、と言いながらこちらに向かって走ってくるが、途中で砂場に足をとられ転んでしまう。一瞬静まったのち、大きな泣き声が公園中に響いた。
「美月ちゃん、痛くない? 泣かない泣かない」
泣き叫ぶ美月のもとへ足を向けると、背後で美雨も声を張り上げた。
「やだー! こっちゃん行かないでー!」
涙の合唱に挟まれた琴子は、しかし慌てることなく、順番に二人の元へ行って一つのベンチに座らせた。
「あのね、みゅーちゃんも美月ちゃんも、せっかく二人いっしょに生まれたんだから、仲良くしないとだめなんだよ」
泣き始めると幼稚園の先生の話も届かなくなる二人だが、不思議なことに琴子の言葉には耳を傾ける。
「ハートのクッキーも、二人で半分こしたら、もっとおいしくなるんだよ。半分にしたのに、うれしい気持ちは、一人のときよりたくさんになるんだよ。ふしぎだね、やさしいってだいじだね」
にっこり笑ってみせると、美雨と美月ははっとしたように、顔を見合わせた。
「そういえば、いつものクッキーなのに、一人でかってに食べたらぜんぜんおいしくなかった」
「みゅーはこの前、ようちえんのお友だちにやさしくしてあげたら、そのあとのおやつがとってもおいしかったよ」
気がつくと、目の前の二人は座りながら互いの手を握っている。琴子は微笑む。
「ほらね。だからいっぱいやさしくして、たくさんうれしい気持ちになろうね」
すごーい、だいはっけん、と、さっきまでの涙が嘘のように、美雨と美月はきゃあきゃあ笑いあった。仲直りした二人を見て、琴子はどこか誇らしい気持ちになる。
目を覚ましても、懐かしさと物悲しさにしばらく身動きが取れなかった。昨日の美雨との食事がこんな夢を見せたのだろうとぼんやり思う。やさしくしてあげようね、と教えてあげた、かつての自分。
美月ちゃん、本当にごめんね。
日曜の日差しがこぼれる寝室で、琴子は静かに涙を流した。
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