からかぜ

七草すずめ

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14.人としての何か

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 もう十二月になるというのに、桃葉は今でも、そのときの興奮が忘れられないでいた。観客の中に、普段学食で見かける人や、同じ講義を取っている人を見つけたことが、やけに印象に残っている。そのくせダンスしているときのことはさっぱりで、気がついたら汗だくになって、拍手よりも大きな歓声を受けていた。
 桃葉は自分の記憶から抜け落ちた、ステージ上で踊るさまを、記録用に撮られていた動画で、くり返し見た。固定カメラの、客観的な視点。四人のダンスからは、練習の成果が十分に感じられると、桃葉は自分で思う。去年の、子供の学芸会のようなダンスではない。先輩には及ばなくとも、見劣りすることはないと思えた。
 そう、それは完璧だったと言ってよかったはずだ。動画を何度も見返しながら、桃葉は何度も頭を抱える。それでも、楓くんは関心を持ってくれなかった。
 学祭、がんばったんです。桃葉は初めて、SNSで彼宛てにメッセージを送った。ダイレクトメールと呼ばれる秘密裏なそれではなく、リプライと呼ばれる、もっと気軽で、オープンな方法で。
 当たり前かもしれないが、返事は来なかった。それは別に、桃葉が無視されたからではないはずだった。自分なりのルールを持ってファンに接する――誰かを特別扱いしない。楓には一万人のファンがいるのだから――という、彼らしい考え方であり、桃葉はそれを十分わかっていた。だけど考えてしまう。
 楓くんが褒めてくれないのに、わたしはどうして、ダンスを成功させたんだろう。
 ご丁寧に、桃葉は楓へのメッセージに、動画も添付していた。桃葉の揺るぎないシナリオでは、こうなるはずだった。うまく踊れた自分たちの動画を楓が見て、ああ、これは上手なダンスだと思う。返信、とまではいかなくとも、いいねをくれる。楓にいいねをされて初めて、自分の発表は大成功を収める。そういう筋書きだった。
 発表を終えたときの観客の歓声は、まだ耳に残っていた。そのときの高揚感だって、ありありと思い出せた。それでも、それだけでは足りなかった。いや、足りない、という言葉は正確ではない。たとえば、キャベツだけ大量に食べたって、満足はできない。楓に褒められて初めて、満足した状態でごちそうさまができる。有象無象の賞賛と楓のひとことには、雲泥の差があるではないか。
 桃葉は知っていた。楓と出会って三ヶ月ほどにしかならない桃葉でも、じゃあどうしたら楓から一言をもらえるかということは、わかりすぎていた。
 だけどぎりぎりのところで、人としての何かが、それをおさえていた。投げ銭をして褒め言葉をもらったって、虚しいだけなのだ。
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