薫くんにささぐ

七草すずめ

文字の大きさ
14 / 30

真野くんが、おれ、と言う

しおりを挟む
 真野くんは小説を読まないひとだから、わたしが書いているものをみるといつも、「へえ、すごいね」と言ってくれる。
「こんなに書けるなんて、それだけですごいよ。俺、仕事のメール書くだけでたいへん」
 仕事をしているときは「僕」とか「私」って言っていた真野くんが、おれ、と言うだけで、わたしは未だにどきりとしてしまう。
「えらいよ、自分のやりたいこと見つけて、悩みながらこうやって続けてるの」
 もぐもぐとほおばっていたカステラをのみこんで、真野くんはまた笑う。胸がいっぱいになって、ソファに横たわっているその体にしがみつく。
 カンジョウイニュウガデキナイ、なんていう呪いの言葉をしらない真野くん。真野くんの前では天才小説家でいられるから、わたしは安心してその肌に舌を這わせることができる。真野くんはわたしの舌をつかまえて、カステラ味でいっぱいにする。
 生理中のセックスはちょっといやだけど、血がたくさん出るのは真野くんがわたしの中からいなくなってからだから、入っている限りはなんにも気にせず溺れていればいい。ずっとそこにいてよ、血なんてあふれないように塞いでいてよと思う。
 覆い被さる真野くんの顔はかっこいい。伏し目がちになった一重まぶた。たくさん出したあとのくせに、これから捕食するみたいな目でわたしをみる。
 しいておいた白いバスタオルには、赤茶色のしみがたくさんついてしまった。真野くんがなんども出したり入れたりするからだよ、と言うと、わたしなら恥ずかしくて言えないようなことを耳元で言われ、顔が真っ赤になってしまった。
 後始末はどんなときでも、ふたりでする約束になっている。
 真野くんが買ってきた缶コーヒーが入っていたミニストップの袋に、よごれてしまったバスタオルをつめこんでぎゅっと結ぶ。それを燃えるごみの袋につめこんでぎゅぎゅっと結び、ゴミ捨て場にぽいとすれば完了。真野くんとのセックスもすべてなかったことになる。だからこれは薫くんへの裏切りなんかじゃないのだ、だいじょうぶだよ薫くん。
 なにかあったらまた呼んでね。ゴミ捨て場で別れるとき、真野くんはそう言ってくれた。ありがとう。朝の落ち込みが嘘みたいに、素直に笑うことができた。真野くんの声は薫くんよりも低い。真野くんの手は薫くんよりも大きい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...