薫くんにささぐ

七草すずめ

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その絵のタイトルは「かぜかおる」

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「あけるよ」
 一生懸命ぎゅっと結んだゴミ袋も、やぶられてしまえばあっけなく中身をあらわにする。中から出てきたスーパーの袋もやぶられて、さらに中から出てくるバスタオル。
「へんなにおいがするね、これなに?」
 薫くんの左手がわたしの後頭部を支え、右手がバスタオルを鼻と口におしつける。へんなにおい、と思う余裕もなかった、息を吸うことも吐くこともできない。手で引きはがそうとするけれど、男の力には敵うはずがない。あ、今日こそ死ぬかも、と頭の奥でちかちか警告ランプが光りだす。薫くんがいないところでひとりさみしくしぬのと、薫くんに叱られてしんじゃうのどっちが幸せだろう。真野くんならなんて答えるかな。
 気を失う直前にバスタオルが離され、ぐったりしたまま、引きずられるように寝室へ連れていかれた。ベッドに放り投げられ、ジェットコースターが上昇するような恐怖を感じる。この先のレールはあるのだろうか。
 そこから何時間も、愛されているんだか憎まれてるんだかわからないようなセックスをした。待ち望んでいた、と思うことができないような乱暴な性交。薫くんが果ててしまうとそこらじゅうの物をなんでもつっこまれて、生理の血なのか擦り切れて出た血なのかわからなくなったけどやめてとは言えなかった。口にはタオルが詰め込まれて、テープで塞がれていた。
 目の前の薫くんの、怒りやら悲しみやらをごった煮にしたような目を見ながら、わたしの意識の半分くらいがそこにいて、残りの半分はノイズがかった宇宙みたいなところにいるのを感じていた。
 ふと、紗奈ちゃんがどす黒くてきもちの悪い絵を描いていたことを思い出す。これなに、と指さしたら「それは内蔵」と、じゃあこれは、と指を動かしたら「それはめだまだよ」と答えてくれた紗奈ちゃん。
 その絵のタイトルは、「かぜかおる」で、紗奈ちゃんには薫くんがこんなふうに見えているのかあ、と妙に納得してしまった。薫くんの狂ったような様子は、あの絵そのものだ。
「存在そのものががうそっぽいよね」
 その絵に吐瀉物のような色の絵の具をぶちまげながら、紗奈ちゃんは言った。
「なにがほんとうかわからない。遊びに行ったら紅茶を淹れてくれるけど、コンピュータで制御されてるみたい」
「コンピュータ?」
「狂いがなさすぎて狂ってる。人間の顔じゃない」
「紗奈ちゃん、薫くんのこと嫌いなの?」
「別に好きでも嫌いでもないよ。でもああいうタイプって、なぜか人がよってくるからこわい。自分が狂えないから、狂った人を求めちゃうタイプの人ってよくいるでしょ。まあ、自分が狂ってるタイプの人にもモテると思うけど」
「わたしはどっちのタイプ?」
「そんなこともわからないの?」
 そのあと紗奈ちゃんはにやりとして、わたしになんと言ったんだっけ。
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