薫くんにささぐ

七草すずめ

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縛るならわたしの一生をまるごと縛ってくれよ

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 スマホに触れる指にまで、赤く痕が残っている。乱暴に縛られた証。縛るならわたしの一生をまるごと縛ってくれよ、何も考えなくてすむぐらいまでめちゃくちゃに。誘拐されて監禁された子が、犯人にやさしくされてそいつを好きになってしまったっていう話をなにかで見た。それぐらい狂わせてくれればよかったのに、洗脳してくれればよかったのに。中途半端な薫くんに弄ばれるわたしは、盲目な奴隷になることもできなければ、自分一人で生きることもできない中途半端な女だった。
 いつからこんな、誰かに依存しなければ何もできない人間になっていたんだろう。MINORIのことを知ってしまってから? 籍を入れてから? 薫くんと出会ってから? いや、もっとずっと、最初の最初からそんな人間だったくせに、気付かないふりをしていたのかもしれない。
 ラインを開き、メッセージを打ち込む。大切な三人に同時に送信したら、誰が一番はやく返事をくれるだろう。こんなわたしに。そのひとにすべて賭けてしまおうと思った。わたしがこの先どうしたらいいのか、決めてもらおう。紗奈ちゃんに薫くんと別れろと言われたら離婚届をもらってくる。真野くんに結婚しようと言われたら今度はうなずこう。薫くんの返答次第では首をつるか飛び降りるかの覚悟もできている、愛しているって遺書を残して。
 真野くんは、それから一時間後に、とても丁寧で長い、やさしい文章を送ってくれた。ぼろ雑巾になったわたしをぬいぐるみみたいに抱きしめてくれるような、かみさまみたいな言葉。どうしてこの人じゃだめなんだろう、と自分を責めたくなるくらいに慈愛に満ちた言葉。
 どう考えてもわたしを幸せにしてくれるのに、真野くんのことも真野くんと過ごす時間も真野くんとのセックスもだいすきなのに、それでもたった一人の結婚相手には選べなかったひと。
「俺といっしょになって、ぜんぶやり直そうよ」
 真野くんは長いメッセージの最後にそう書いてくれたけど、やっぱり縁がなかったのだ。真野くんがたっぷり時間をかけてわたしのためにやさしい文章を綴ってくれているあいだに、一等賞は取られてしまった。
 返事はせず、ラインのトークを消す、ブロックする、連絡先もすべて削除する。びっくりするほどあっけなく、真野くんとの縁が切れた。さようなら、真野くん。
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