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第1章
混沌のエウローン
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アザドギエル大陸。
アザドラニア王国
南エウローン地方の主要都市、城塞都市エウロニ。
そこからさらに南、歴史に名を残す筈のなかった村。
そこから、物語は始まる。
暗い夜。屍人<アンデット>が犇き、凶悪な魔獣が家畜を喰らう。
そんな夜。
人々は夜に怯え、昼は過ぎゆく安寧に絶望を感じる日々。
かつてのエウローンはこんな有様ではなかった。
人々は、慎ましくも幸せに日々を送り、子供達は今日の遊びの続きを想い、眠っていた。
そんな平穏が崩れたのはおよそ半年前。
エウローンの領主が裏切られ、信頼していた家臣に討たれたその日からであった。
領主の恨みは怨念となり、行き場を失ったその魔力と共にエウローンに災厄をもたらした。
悪しき思惑が交差する都市エウロニ。それは知略と謀略の魔窟、貴族の戦場であったが、貴族もまた、平和な暮らしをしていたわけでは無かった。
誰も信用できない、時には身内にも裏切られる、そんな恐怖と不安が貴族を苦めた。
恐怖と不安に対して、力をもってして向かう事しか知らぬ貴族は、私兵を募り、鍛え上げ、自信を守らせた。しかしその力は、民を守るために振るわれることは無く、領民と貴族との間に修復出来ない亀裂を産んだ。
エウローンは、危機に瀕していた。
"城塞都市エウロニ"
城塞都市の名に相応しい巨大な城壁に、天まで届きそうなタレットは、今なお、軍事的な目的のためにあるのが見てわかる。
見る者を圧倒する壮大な城の側、城壁内の庭にあたる部分には、騎士達が整列していた。
彼らの装備はなかなかに重そうだ、まるで戦時中であるかのように。
よくよく見ればタレットにも魔導士が控えている。
その眼光はそれぞれが担当する方角を睨みつけ、何があっても見逃さない気迫を感じる。
領主の死後1ヶ月、エウロニ含むエウローン地方は混乱と絶望の最中であった。
それも当然の事である。
現領主の子息である2人の男児の弟が成人、そのタイミングで2人の不仲が噂され、更には領主が病に伏してしまう。
当然の如く後継ぎ争いになるかと思われたその時、長男である"リヒト・エウロニアル"は堂々と宣言した。
「次期領主になるべきは我が弟である、我はその側にて弟を支えよう、よって、貴殿ら誉あるエウローンの貴族に命ずるは、我が弟への忠誠である」と
更には、その宣言の1週間後。
アザドラニア王国における大貴族にして、エウローン地方の統括領主、現エウロニアル侯爵家当主。
英雄"キハナ・リーエ・エウロニアル"が、死亡した。
エウローン地方は混乱の渦に包まれた。
領主を殺害した犯人が、忠臣であり側近でもあった家臣である事も、混乱を加速させた。
そしてその1週間後、更なる事件がエウローンを襲った。
領主キハナを殺害し、投獄されていた男。
その者の遺体が獄中で発見された。
ただの遺体ではない、四肢を切り離され、皮を剥かれ、骨を砕かれた遺体。その上その頭部は、男自身の肋骨でもって壁に打ち付けられていたのだ。
エウローン領主キハナが忠臣、"ニール"の異様な死
それは、残されたキハナの2人の息子にとって、重くのしかかった。
ニールにとってキハナは兄の様な存在であったし、キハナにとってもニールは弟のような存在であった。
戦では常に前線で剣を振るうキハナ、その背中を守るのはニールのであった。
そして自然と、2人の息子にとっても、ニールは家族に等しい存在であった。
大貴族でありながら情に熱いキハナは、その性格ゆえに息子達とぶつかる事も多かった、そんな時、3人の間を取り持ったのはいつもニールであった。
キハナの妻が、病を患いながらも2人目の男児を産み、死んでいった時。深い悲しみに沈んでいたキハナを支え、公に出る事の難しかったキハナの代わりを務めたのもニールであった。
故に、2人の息子はニールの犯行を信じておらず、他の貴族にとっても信じられない出来事であった。
そのため、領主の殺害という即刻極刑が命じられる大罪でありながらも、ニールが処刑されることは無かった。
そんな状況での、忠臣ニールの死である。
そして、事態はそこでは終わらなかった。
むしろ、ここからが災厄の始まりであった。
悲しみに暮れる城内、その地下に安置されている領主キハナの遺体。
その管理を任されていた側近の1人がある日、死亡した。
その死に様はまさに、ニール。
先日死亡した、忠臣ニールのような死に様であった。
それから立て続けに関係者が死亡していった。
皆一様に、あまりに惨たらしく異様な死を遂げた。
更に、エウローン地方全域にて、魔獣の活性化が見られ始めた。
最初は南方の冒険者ギルド支部が発見し、討伐。
その後立て続けに凶暴化した魔獣が発見されたため、エウローンギルド支部はアザドラニア王国の高等ギルド支部に対し、支援要請を発信した。
しかし、王国の南部にあたるエウローンと、王国中央部を繋ぐ大動脈である、エウローン大街道はすでに魔物によって麻痺しており、南部への支援どころか、中央部への魔物の侵入を防ぐので精一杯の現状だった。
そうして2週間前、冒険者ギルドアザドラニア指定高等支部は、エウローン地方に対し、臨時警戒領域指定を発令、現状打破のため、2つのAランク冒険者パーティに異常事態の調査を依頼、更にA+冒険者2名の緊急招集を発した。
アザドラニア王国
南エウローン地方の主要都市、城塞都市エウロニ。
そこからさらに南、歴史に名を残す筈のなかった村。
そこから、物語は始まる。
暗い夜。屍人<アンデット>が犇き、凶悪な魔獣が家畜を喰らう。
そんな夜。
人々は夜に怯え、昼は過ぎゆく安寧に絶望を感じる日々。
かつてのエウローンはこんな有様ではなかった。
人々は、慎ましくも幸せに日々を送り、子供達は今日の遊びの続きを想い、眠っていた。
そんな平穏が崩れたのはおよそ半年前。
エウローンの領主が裏切られ、信頼していた家臣に討たれたその日からであった。
領主の恨みは怨念となり、行き場を失ったその魔力と共にエウローンに災厄をもたらした。
悪しき思惑が交差する都市エウロニ。それは知略と謀略の魔窟、貴族の戦場であったが、貴族もまた、平和な暮らしをしていたわけでは無かった。
誰も信用できない、時には身内にも裏切られる、そんな恐怖と不安が貴族を苦めた。
恐怖と不安に対して、力をもってして向かう事しか知らぬ貴族は、私兵を募り、鍛え上げ、自信を守らせた。しかしその力は、民を守るために振るわれることは無く、領民と貴族との間に修復出来ない亀裂を産んだ。
エウローンは、危機に瀕していた。
"城塞都市エウロニ"
城塞都市の名に相応しい巨大な城壁に、天まで届きそうなタレットは、今なお、軍事的な目的のためにあるのが見てわかる。
見る者を圧倒する壮大な城の側、城壁内の庭にあたる部分には、騎士達が整列していた。
彼らの装備はなかなかに重そうだ、まるで戦時中であるかのように。
よくよく見ればタレットにも魔導士が控えている。
その眼光はそれぞれが担当する方角を睨みつけ、何があっても見逃さない気迫を感じる。
領主の死後1ヶ月、エウロニ含むエウローン地方は混乱と絶望の最中であった。
それも当然の事である。
現領主の子息である2人の男児の弟が成人、そのタイミングで2人の不仲が噂され、更には領主が病に伏してしまう。
当然の如く後継ぎ争いになるかと思われたその時、長男である"リヒト・エウロニアル"は堂々と宣言した。
「次期領主になるべきは我が弟である、我はその側にて弟を支えよう、よって、貴殿ら誉あるエウローンの貴族に命ずるは、我が弟への忠誠である」と
更には、その宣言の1週間後。
アザドラニア王国における大貴族にして、エウローン地方の統括領主、現エウロニアル侯爵家当主。
英雄"キハナ・リーエ・エウロニアル"が、死亡した。
エウローン地方は混乱の渦に包まれた。
領主を殺害した犯人が、忠臣であり側近でもあった家臣である事も、混乱を加速させた。
そしてその1週間後、更なる事件がエウローンを襲った。
領主キハナを殺害し、投獄されていた男。
その者の遺体が獄中で発見された。
ただの遺体ではない、四肢を切り離され、皮を剥かれ、骨を砕かれた遺体。その上その頭部は、男自身の肋骨でもって壁に打ち付けられていたのだ。
エウローン領主キハナが忠臣、"ニール"の異様な死
それは、残されたキハナの2人の息子にとって、重くのしかかった。
ニールにとってキハナは兄の様な存在であったし、キハナにとってもニールは弟のような存在であった。
戦では常に前線で剣を振るうキハナ、その背中を守るのはニールのであった。
そして自然と、2人の息子にとっても、ニールは家族に等しい存在であった。
大貴族でありながら情に熱いキハナは、その性格ゆえに息子達とぶつかる事も多かった、そんな時、3人の間を取り持ったのはいつもニールであった。
キハナの妻が、病を患いながらも2人目の男児を産み、死んでいった時。深い悲しみに沈んでいたキハナを支え、公に出る事の難しかったキハナの代わりを務めたのもニールであった。
故に、2人の息子はニールの犯行を信じておらず、他の貴族にとっても信じられない出来事であった。
そのため、領主の殺害という即刻極刑が命じられる大罪でありながらも、ニールが処刑されることは無かった。
そんな状況での、忠臣ニールの死である。
そして、事態はそこでは終わらなかった。
むしろ、ここからが災厄の始まりであった。
悲しみに暮れる城内、その地下に安置されている領主キハナの遺体。
その管理を任されていた側近の1人がある日、死亡した。
その死に様はまさに、ニール。
先日死亡した、忠臣ニールのような死に様であった。
それから立て続けに関係者が死亡していった。
皆一様に、あまりに惨たらしく異様な死を遂げた。
更に、エウローン地方全域にて、魔獣の活性化が見られ始めた。
最初は南方の冒険者ギルド支部が発見し、討伐。
その後立て続けに凶暴化した魔獣が発見されたため、エウローンギルド支部はアザドラニア王国の高等ギルド支部に対し、支援要請を発信した。
しかし、王国の南部にあたるエウローンと、王国中央部を繋ぐ大動脈である、エウローン大街道はすでに魔物によって麻痺しており、南部への支援どころか、中央部への魔物の侵入を防ぐので精一杯の現状だった。
そうして2週間前、冒険者ギルドアザドラニア指定高等支部は、エウローン地方に対し、臨時警戒領域指定を発令、現状打破のため、2つのAランク冒険者パーティに異常事態の調査を依頼、更にA+冒険者2名の緊急招集を発した。
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