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第1章
ならば仇を
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臨時警戒領域に指定されたアザドラニアの南、エウローン。
かつての面影はなく、魔物の領域と化してしまい、多くの村が焼かれ喰われ滅びた。
貴族の住う街などは街壁で魔獣を防ぎ、冒険者や騎士団が奮戦する事で生存を続けてはいたものの、補給が望めない籠城戦など結果は見えていた。
エウローン最大の都市エウロニとて、例外ではなく、中央との連絡がつかない今、高位貴族や次期総括領主候補の2人をどう避難させるか。
それが現在最も懸念されている課題であった。
そこに舞い降りたAランク冒険者パーティーの派遣のしらせは、エウローン作戦参謀部にとってまさに希望の光だった。
それに応えるかの様に、エウローン地方を拠点にしていたAランク冒険者も名乗りをあげた。
彼らとて、故郷が大切なのだ。
魔獣災害や魔獣爆発はその規模によって鎮圧難度が大きく変動する。
例えAランクであっても。
いや、Aランクだからこそ、今回の規模の異常性を見抜いていた。
それでもなお、挫けなかったのはA+冒険者の存在である。
冒険者ギルドの事実上の最高戦力であるA+冒険者。
冒険者としては圧倒的な高みにいるであろう自分たちのさらに高位に位置する存在。
そんな彼らの召集が行われることを知り、エウローン地方のAは団結し、そしてエウロニに集結。
総勢16名、パーティーにして5パーティのAランク冒険者が集まり、エウロニの中等ギルド支部にて、今回の籠城戦の作戦概要を発表した。
作戦は至って単純である。
まず前提に、今回の籠城戦は当然ながら、応援を期待できるものである事、その応援には、複数のAランクパーティが含まれている事、なにより、一連の解決のために動くのはA+冒険者である事。
そして彼らの到着まで、エウローンの人々を守る事が自分たちの役目であること。
自分達は決して、負け戦に挑むわけではない事。
"冒険者"かつての憧れと栄誉を忘れていたものもいただろうが、自分たちの手に故郷の命運がかかっていること、そしてなにより、冒険者の高みが自分たちを助けに来る事。
それがエウローンを守る冒険者達の心に火をつけた。
そして心に炎を灯したのは冒険者だけではなかった。
エウロニの騎士団とて、例外ではなかった。
冒険者ではなかったものの、都市防衛の要になるであろう騎士達も、今回の作戦会議には呼ばれていた。
彼らが目にしたのは、自分たちの故郷を、愛する街と仲間を、命をかけて守ろうとする者達の瞳だった。
そして、自分達の使命を思い出した。
騎士を目指した過去、新兵であった頃の熱量を。
貴族に使え、騎士としての身分を与えられてから、すっかり忘れてしまっていたその心を。
エウロニを中心として、必死の防衛戦が始まった。
エウロニの西側街壁、タレットにて構える魔術師達の顔は強張っていたがしかし、絶望はしていなかった。
負け戦ではない、故郷を守るのだ。
下に構える兵士も覚悟を決めた面構えであった。
そして。
「報告!ヘルタ平原の西より魔獣の群を確認!初期の予定通り、フォーメーション3番にて展開をお願いします!!」
斥候の掛け声に応じて、騎士と冒険者達が陣営を動かす。
そして武器を構える。
「魔獣目視!距離5000、敵推定1000!!」
タレットに構える魔術師が声を張り上げる。
「各員術式用意!!」
声を張る男の手には、巨大な宝珠を包み込むような魔術杖が握られていた、そこに収められる宝珠は、今にも弾けんばかりに光を宿す。
緊張が走る、それでも彼らは決して怖気ない。
その瞳に光るのは先ほどよりも強い覚悟の色。
「距離3000!!」
その声に応えるかのように、騎士や近距離戦闘を得意とする冒険者達が武器を構える。
「距離2000!!」
冒険者の中には自らの武器に魔力を注ぎ込む者もいる、所謂魔導剣と呼ばれる魔力武器の一種である。
そして
「距離1000!!!」
「遠隔魔術!放てッ‼︎」
男の一言で辺りは光の雨に塗れる。
その数秒後、凄まじい爆音と、魔獣の先頭を走る汚れた獣を焼き尽くす。それでも尚、その暴走は当然止まらない。
「我に続け!エウロニを守るのだ!!」
魔導剣に赤の揺らめきを宿した男、エウロニのAランク冒険者の1人の掛け声に合わせ、騎士が、冒険者が、魔術師が、その力を振るう。
彼らの作戦は至って単純だ。
強力な近距離戦闘能力を持つものが最前線に立ち、敵を蹂躙する。
そのうち漏らしを彼らに続くもの達が屠っていく。
後ろに構える魔術師達は、敵の後方を焼き尽くす。
至って単純、それでいて知性の弱い魔獣相手には強力な作戦である。
しかし、彼らはただの兵士でも無ければ、農民でもない。
騎士はともかく、冒険者とは常より魔獣や猛獣を相手に戦闘経験を積んでいるのだ。
そんな彼らの作戦は素晴らしい効果を発揮した。
「今だ!」
先ほどの素晴らしい魔術杖を持った男がそう言うと、隣にいた男は小さく頷き、手のひらを合わせ何かを唱える。
その瞬間。
噴火のような轟音、魔獣の後方を粉微塵にする爆発。
まさに出来レースであった、魔獣がヘルタ平原に集まったのは偶然ではない、もしそうだとすれば、戦力を分散させていただろうエウロニは、甚大な被害を被っていたはずだ。
ヘルタ平原、魔術の使いやすい平原、人間の戦いやすい平原、そして。
知性の弱い魔獣を引っ掛ける罠を作るには素晴らしい平原。
ヘルタ平原の中腹には、遠隔機動の可能な魔石爆弾が山程埋められていた。
エウロニの勝利である。
もとより統制などない魔獣の群、一度散り散りになればその殲滅は彼らにとって困難ではない。
その夜はまさに宴であった。
エウロニ西側街壁の防衛戦に勝利した、それだけではなかった。
勝利を喜び街へ帰った彼らを待っていたのは、高等ギルド支部からの応援の到着であった。
かつての面影はなく、魔物の領域と化してしまい、多くの村が焼かれ喰われ滅びた。
貴族の住う街などは街壁で魔獣を防ぎ、冒険者や騎士団が奮戦する事で生存を続けてはいたものの、補給が望めない籠城戦など結果は見えていた。
エウローン最大の都市エウロニとて、例外ではなく、中央との連絡がつかない今、高位貴族や次期総括領主候補の2人をどう避難させるか。
それが現在最も懸念されている課題であった。
そこに舞い降りたAランク冒険者パーティーの派遣のしらせは、エウローン作戦参謀部にとってまさに希望の光だった。
それに応えるかの様に、エウローン地方を拠点にしていたAランク冒険者も名乗りをあげた。
彼らとて、故郷が大切なのだ。
魔獣災害や魔獣爆発はその規模によって鎮圧難度が大きく変動する。
例えAランクであっても。
いや、Aランクだからこそ、今回の規模の異常性を見抜いていた。
それでもなお、挫けなかったのはA+冒険者の存在である。
冒険者ギルドの事実上の最高戦力であるA+冒険者。
冒険者としては圧倒的な高みにいるであろう自分たちのさらに高位に位置する存在。
そんな彼らの召集が行われることを知り、エウローン地方のAは団結し、そしてエウロニに集結。
総勢16名、パーティーにして5パーティのAランク冒険者が集まり、エウロニの中等ギルド支部にて、今回の籠城戦の作戦概要を発表した。
作戦は至って単純である。
まず前提に、今回の籠城戦は当然ながら、応援を期待できるものである事、その応援には、複数のAランクパーティが含まれている事、なにより、一連の解決のために動くのはA+冒険者である事。
そして彼らの到着まで、エウローンの人々を守る事が自分たちの役目であること。
自分達は決して、負け戦に挑むわけではない事。
"冒険者"かつての憧れと栄誉を忘れていたものもいただろうが、自分たちの手に故郷の命運がかかっていること、そしてなにより、冒険者の高みが自分たちを助けに来る事。
それがエウローンを守る冒険者達の心に火をつけた。
そして心に炎を灯したのは冒険者だけではなかった。
エウロニの騎士団とて、例外ではなかった。
冒険者ではなかったものの、都市防衛の要になるであろう騎士達も、今回の作戦会議には呼ばれていた。
彼らが目にしたのは、自分たちの故郷を、愛する街と仲間を、命をかけて守ろうとする者達の瞳だった。
そして、自分達の使命を思い出した。
騎士を目指した過去、新兵であった頃の熱量を。
貴族に使え、騎士としての身分を与えられてから、すっかり忘れてしまっていたその心を。
エウロニを中心として、必死の防衛戦が始まった。
エウロニの西側街壁、タレットにて構える魔術師達の顔は強張っていたがしかし、絶望はしていなかった。
負け戦ではない、故郷を守るのだ。
下に構える兵士も覚悟を決めた面構えであった。
そして。
「報告!ヘルタ平原の西より魔獣の群を確認!初期の予定通り、フォーメーション3番にて展開をお願いします!!」
斥候の掛け声に応じて、騎士と冒険者達が陣営を動かす。
そして武器を構える。
「魔獣目視!距離5000、敵推定1000!!」
タレットに構える魔術師が声を張り上げる。
「各員術式用意!!」
声を張る男の手には、巨大な宝珠を包み込むような魔術杖が握られていた、そこに収められる宝珠は、今にも弾けんばかりに光を宿す。
緊張が走る、それでも彼らは決して怖気ない。
その瞳に光るのは先ほどよりも強い覚悟の色。
「距離3000!!」
その声に応えるかのように、騎士や近距離戦闘を得意とする冒険者達が武器を構える。
「距離2000!!」
冒険者の中には自らの武器に魔力を注ぎ込む者もいる、所謂魔導剣と呼ばれる魔力武器の一種である。
そして
「距離1000!!!」
「遠隔魔術!放てッ‼︎」
男の一言で辺りは光の雨に塗れる。
その数秒後、凄まじい爆音と、魔獣の先頭を走る汚れた獣を焼き尽くす。それでも尚、その暴走は当然止まらない。
「我に続け!エウロニを守るのだ!!」
魔導剣に赤の揺らめきを宿した男、エウロニのAランク冒険者の1人の掛け声に合わせ、騎士が、冒険者が、魔術師が、その力を振るう。
彼らの作戦は至って単純だ。
強力な近距離戦闘能力を持つものが最前線に立ち、敵を蹂躙する。
そのうち漏らしを彼らに続くもの達が屠っていく。
後ろに構える魔術師達は、敵の後方を焼き尽くす。
至って単純、それでいて知性の弱い魔獣相手には強力な作戦である。
しかし、彼らはただの兵士でも無ければ、農民でもない。
騎士はともかく、冒険者とは常より魔獣や猛獣を相手に戦闘経験を積んでいるのだ。
そんな彼らの作戦は素晴らしい効果を発揮した。
「今だ!」
先ほどの素晴らしい魔術杖を持った男がそう言うと、隣にいた男は小さく頷き、手のひらを合わせ何かを唱える。
その瞬間。
噴火のような轟音、魔獣の後方を粉微塵にする爆発。
まさに出来レースであった、魔獣がヘルタ平原に集まったのは偶然ではない、もしそうだとすれば、戦力を分散させていただろうエウロニは、甚大な被害を被っていたはずだ。
ヘルタ平原、魔術の使いやすい平原、人間の戦いやすい平原、そして。
知性の弱い魔獣を引っ掛ける罠を作るには素晴らしい平原。
ヘルタ平原の中腹には、遠隔機動の可能な魔石爆弾が山程埋められていた。
エウロニの勝利である。
もとより統制などない魔獣の群、一度散り散りになればその殲滅は彼らにとって困難ではない。
その夜はまさに宴であった。
エウロニ西側街壁の防衛戦に勝利した、それだけではなかった。
勝利を喜び街へ帰った彼らを待っていたのは、高等ギルド支部からの応援の到着であった。
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