5 / 15
第1章
ならば仇を2
しおりを挟む
Aランクの優秀な冒険者達とB.Cランクの全力のサポートにより、エウロニは大きな被害を出さずにここまで耐えてきた。
一度移動速度の速い魔物に対し、都市内部への侵入を許してしまったこともあったが、応援に来ていたA+ランクの冒険者の察知能力と鋭い判断で難を逃れた。
以降、A+冒険者である、アテリラの蝙蝠"キャロル"と爆拳"ガロ"による今回の異常事態の原因究明が開始された。
難航するかと思われた捜査は、意外にもすぐに終了した。
そしてその夜、次期領主候補である2人と、その他の上位貴族とA.Bランク冒険者達を集めての会議が行われた。
「話を始める前に、今回我らエウローンの危機に駆けつけてくれたAランク冒険者、そしてA+冒険者の2名に、心からの感謝を」
あちこちで話し声が聞こえる会場に、最初に言葉を投げたのは、英雄キハナの2人の息子の内、リヒトの弟にあたる次男"ハルト・エウロニアル"であった。
静まり返った会場を一通り眺め、自身の横に座る兄に目を向けるハルト、彼は促すように口を開く。
「兄さん、準備ができました、始めましょう」
その一言で、エウローンの貴族は全員が立ち上がり最敬礼を示す。
左胸に手を当て、首だけを下げて下を向く。
対する冒険者は、座ったまま一例をするがそれだけだ、若い貴族の中には、無礼を指摘するものもいたが、この場にいる冒険者はみな実力者である、その上冒険者とは自由な者達でもあるのだ、それを理解している上位貴族達は何も言わない。
すでに顔を上げ、リヒトからの着席の許可を待っていた貴族達に、リヒトは口を開く。
「皆、此度の危機にエウロニに集ってくれたこと、大義であった、皆の忠誠を嬉しく思う」
その言葉だけで貴族達の胸は熱くなる。
彼らはリヒトがエウロニアルだから忠誠を尽くすのではない、彼らには忠誠を尽くす理由があった。
だから、彼らはハルトの件を認めることができなかった。
しかし。
「だが、今回の会場、舵を取るのはハルトである。すでに伝えたように、次期当主は我が弟ハルトだから」
この状況でその言葉、いよいよ貴族は我慢ができなかった。
「リヒト様!この私の言葉、もしご不快に思われましたら即座にこの首をはねてください。その上で僭越ながら申し上げます。我らは貴方様に忠誠を尽くしたく思います。それは決してハルト様に不満があるわけではありませぬ、ただ我らエウローンの貴族は貴方の覚悟を見たのです!だからこそ」
「ハルデマン卿、いや、クラウ・ハルデマン伯爵。貴殿の想いを嬉しく思う。しかし貴殿らは勘違いをしているようだ」
一泊置き、リヒトはハルデマン卿だけでなく、集まった貴族をぐるっとひと睨みし、声を張る。
「私はこれからもお前達のリヒトであり続ける、だが領主という地位に着くべきは、私より頭のキレるハルトだ、私の弟は凄いのだ、貴殿らは知らぬだろうが、父上に例の洪水を予言し対策を提言したのもハルトなのだ」
側近の方では無かったのか、、、とどこかの貴族の声が漏れる。
「私の弟は凄まじいぞ、領主になった暁にはこのエウローンはさらに栄えるだろう。だがハルトには経験も無ければ忠誠を捧げる家臣もいないのだ、だからこそ、その先頭に私が立とう、そして、どうか貴殿ら誉れ高いエウローンの貴族についてきて欲しい」
そう言い切ると、リヒトは頭を下げる。深く。
兄のそんな姿を見て、焦って頭を下げるのは、その弟。
緊迫した会議室に、突如、大きな笑い声が響く。
「はっはははは!いやはや参りましたぞリヒト様、そこまで言われてしまっては何も言い返せぬもの、強き気高きエウローン貴族も頷くしかありませぬな」
大胆な態度で声を上げたのは、クアンベル騎士爵。
騎士爵ではありながら、その言葉を軽んじるものは決していない。
"ライオット・クアンベル" エウローン最強の騎士であり、今は亡きキハナの側仕えの1人である。
そしてその言葉に続くのは"テドラ・アッセンシ伯爵"
「クアンベル卿のおっしゃる通り、我らはエウロニアルに忠誠を尽くすと誓ったのだ、ハルト様に足りぬものがあるのなら、我らエウローン貴族が補うのは当然の事!」
そこまで来れば、エウローン貴族の心に、最早迷いはなかった。
リヒトの頬を伝う涙は、未来を憂うものではなく、エウローンの希望を見たが故であった。
「エウローン貴族の気合十分、それじゃ本題に入っても?」
想いの重なりを感じていたエウローン貴族達を現実に引き戻したのはA+冒険者の"ガロ"であった。
ガロはスッと立ち上がると集まった者を一望して話し出す。
「結果から話そう、此度の異常事態の原因は、先代領主であるキハナ殿の怨念だ」
その言葉にざわつくのはエウローン貴族。
それを諌めるのはリヒト。
「皆静かに、ガロ殿、その根拠と出来れば原因を伺いたい」
小さく頷きガロが続ける。
「人の持つ魔力は感情によってその性質を変えたりする事も、稀にある。魔力によって魔獣や空間に異常をきたすこともごく稀にある。それに、死人の怨霊によって魔力が膨大に膨れ上がる事も極めて珍しい例だが起こる」
部屋は静まり返り、ガロの言葉を待つ。
「出来すぎているんだ、今回の事件は。間違いなく何者かの意図的な関与が考えられる、ニールの死に様も見させてもらったが、あれは魔界に関連する儀式のようだったぞ、そうだろ?」
そう問いかけられて答えるのは、もう1人のA+冒険者である"キャロル"だ。
「ええ、魔界というより悪魔が行うものね、ここで大事なのは、悪魔を召喚する物ではないってことよ、あれは悪魔が行使していたものよ」
その言葉に違和感を覚えたリヒトがふと尋ねる。
「していた、とは?今は使っていないのか?」
少し眉を顰め、キャロルが答える。
「正直言って分からないわ、魔界の事なんてわからないことの方が多いもの、だけどね、私達にはいろんなツテがあるのよ、魔界に詳しいヤツも中に入るってわけ、それで分かったことによると、このタイプの儀式は相当古い物みたいなの、それでね、この儀式の意味するところ、それはね、"大いなる痛みよ大いなる絶望に"て所かしら。キハナが受けた苦しみや悲しみをエウローンに災害としてもたらし、ニールにも主人を殺した罪を植え付け儀式の一環として捧げる、凄まじい悪意の行為よ、私には思いつかないわ」
一通り話し終えると、キャロルは再び椅子に腰を落とす、その瞬間、椅子の軋む音が聞こえる。
それくらい、会議室は静まり返っていた。
静かな会議室に、少し遅れて響くのは、啜り泣く声と歯軋りの音であった。
一度移動速度の速い魔物に対し、都市内部への侵入を許してしまったこともあったが、応援に来ていたA+ランクの冒険者の察知能力と鋭い判断で難を逃れた。
以降、A+冒険者である、アテリラの蝙蝠"キャロル"と爆拳"ガロ"による今回の異常事態の原因究明が開始された。
難航するかと思われた捜査は、意外にもすぐに終了した。
そしてその夜、次期領主候補である2人と、その他の上位貴族とA.Bランク冒険者達を集めての会議が行われた。
「話を始める前に、今回我らエウローンの危機に駆けつけてくれたAランク冒険者、そしてA+冒険者の2名に、心からの感謝を」
あちこちで話し声が聞こえる会場に、最初に言葉を投げたのは、英雄キハナの2人の息子の内、リヒトの弟にあたる次男"ハルト・エウロニアル"であった。
静まり返った会場を一通り眺め、自身の横に座る兄に目を向けるハルト、彼は促すように口を開く。
「兄さん、準備ができました、始めましょう」
その一言で、エウローンの貴族は全員が立ち上がり最敬礼を示す。
左胸に手を当て、首だけを下げて下を向く。
対する冒険者は、座ったまま一例をするがそれだけだ、若い貴族の中には、無礼を指摘するものもいたが、この場にいる冒険者はみな実力者である、その上冒険者とは自由な者達でもあるのだ、それを理解している上位貴族達は何も言わない。
すでに顔を上げ、リヒトからの着席の許可を待っていた貴族達に、リヒトは口を開く。
「皆、此度の危機にエウロニに集ってくれたこと、大義であった、皆の忠誠を嬉しく思う」
その言葉だけで貴族達の胸は熱くなる。
彼らはリヒトがエウロニアルだから忠誠を尽くすのではない、彼らには忠誠を尽くす理由があった。
だから、彼らはハルトの件を認めることができなかった。
しかし。
「だが、今回の会場、舵を取るのはハルトである。すでに伝えたように、次期当主は我が弟ハルトだから」
この状況でその言葉、いよいよ貴族は我慢ができなかった。
「リヒト様!この私の言葉、もしご不快に思われましたら即座にこの首をはねてください。その上で僭越ながら申し上げます。我らは貴方様に忠誠を尽くしたく思います。それは決してハルト様に不満があるわけではありませぬ、ただ我らエウローンの貴族は貴方の覚悟を見たのです!だからこそ」
「ハルデマン卿、いや、クラウ・ハルデマン伯爵。貴殿の想いを嬉しく思う。しかし貴殿らは勘違いをしているようだ」
一泊置き、リヒトはハルデマン卿だけでなく、集まった貴族をぐるっとひと睨みし、声を張る。
「私はこれからもお前達のリヒトであり続ける、だが領主という地位に着くべきは、私より頭のキレるハルトだ、私の弟は凄いのだ、貴殿らは知らぬだろうが、父上に例の洪水を予言し対策を提言したのもハルトなのだ」
側近の方では無かったのか、、、とどこかの貴族の声が漏れる。
「私の弟は凄まじいぞ、領主になった暁にはこのエウローンはさらに栄えるだろう。だがハルトには経験も無ければ忠誠を捧げる家臣もいないのだ、だからこそ、その先頭に私が立とう、そして、どうか貴殿ら誉れ高いエウローンの貴族についてきて欲しい」
そう言い切ると、リヒトは頭を下げる。深く。
兄のそんな姿を見て、焦って頭を下げるのは、その弟。
緊迫した会議室に、突如、大きな笑い声が響く。
「はっはははは!いやはや参りましたぞリヒト様、そこまで言われてしまっては何も言い返せぬもの、強き気高きエウローン貴族も頷くしかありませぬな」
大胆な態度で声を上げたのは、クアンベル騎士爵。
騎士爵ではありながら、その言葉を軽んじるものは決していない。
"ライオット・クアンベル" エウローン最強の騎士であり、今は亡きキハナの側仕えの1人である。
そしてその言葉に続くのは"テドラ・アッセンシ伯爵"
「クアンベル卿のおっしゃる通り、我らはエウロニアルに忠誠を尽くすと誓ったのだ、ハルト様に足りぬものがあるのなら、我らエウローン貴族が補うのは当然の事!」
そこまで来れば、エウローン貴族の心に、最早迷いはなかった。
リヒトの頬を伝う涙は、未来を憂うものではなく、エウローンの希望を見たが故であった。
「エウローン貴族の気合十分、それじゃ本題に入っても?」
想いの重なりを感じていたエウローン貴族達を現実に引き戻したのはA+冒険者の"ガロ"であった。
ガロはスッと立ち上がると集まった者を一望して話し出す。
「結果から話そう、此度の異常事態の原因は、先代領主であるキハナ殿の怨念だ」
その言葉にざわつくのはエウローン貴族。
それを諌めるのはリヒト。
「皆静かに、ガロ殿、その根拠と出来れば原因を伺いたい」
小さく頷きガロが続ける。
「人の持つ魔力は感情によってその性質を変えたりする事も、稀にある。魔力によって魔獣や空間に異常をきたすこともごく稀にある。それに、死人の怨霊によって魔力が膨大に膨れ上がる事も極めて珍しい例だが起こる」
部屋は静まり返り、ガロの言葉を待つ。
「出来すぎているんだ、今回の事件は。間違いなく何者かの意図的な関与が考えられる、ニールの死に様も見させてもらったが、あれは魔界に関連する儀式のようだったぞ、そうだろ?」
そう問いかけられて答えるのは、もう1人のA+冒険者である"キャロル"だ。
「ええ、魔界というより悪魔が行うものね、ここで大事なのは、悪魔を召喚する物ではないってことよ、あれは悪魔が行使していたものよ」
その言葉に違和感を覚えたリヒトがふと尋ねる。
「していた、とは?今は使っていないのか?」
少し眉を顰め、キャロルが答える。
「正直言って分からないわ、魔界の事なんてわからないことの方が多いもの、だけどね、私達にはいろんなツテがあるのよ、魔界に詳しいヤツも中に入るってわけ、それで分かったことによると、このタイプの儀式は相当古い物みたいなの、それでね、この儀式の意味するところ、それはね、"大いなる痛みよ大いなる絶望に"て所かしら。キハナが受けた苦しみや悲しみをエウローンに災害としてもたらし、ニールにも主人を殺した罪を植え付け儀式の一環として捧げる、凄まじい悪意の行為よ、私には思いつかないわ」
一通り話し終えると、キャロルは再び椅子に腰を落とす、その瞬間、椅子の軋む音が聞こえる。
それくらい、会議室は静まり返っていた。
静かな会議室に、少し遅れて響くのは、啜り泣く声と歯軋りの音であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる