骸の守神

東方守人

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第1章

ならば仇を2

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Aランクの優秀な冒険者達とB.Cランクの全力のサポートにより、エウロニは大きな被害を出さずにここまで耐えてきた。

一度移動速度の速い魔物に対し、都市内部への侵入を許してしまったこともあったが、応援に来ていたA+ランクの冒険者の察知能力と鋭い判断で難を逃れた。

以降、A+冒険者である、アテリラの蝙蝠"キャロル"と爆拳"ガロ"による今回の異常事態の原因究明が開始された。

難航するかと思われた捜査は、意外にもすぐに終了した。

そしてその夜、次期領主候補である2人と、その他の上位貴族とA.Bランク冒険者達を集めての会議が行われた。





「話を始める前に、今回我らエウローンの危機に駆けつけてくれたAランク冒険者、そしてA+冒険者の2名に、心からの感謝を」

あちこちで話し声が聞こえる会場に、最初に言葉を投げたのは、英雄キハナの2人の息子の内、リヒトの弟にあたる次男"ハルト・エウロニアル"であった。

静まり返った会場を一通り眺め、自身の横に座る兄に目を向けるハルト、彼は促すように口を開く。

「兄さん、準備ができました、始めましょう」

その一言で、エウローンの貴族は全員が立ち上がり最敬礼を示す。
左胸に手を当て、首だけを下げて下を向く。

対する冒険者は、座ったまま一例をするがそれだけだ、若い貴族の中には、無礼を指摘するものもいたが、この場にいる冒険者はみな実力者である、その上冒険者とは自由な者達でもあるのだ、それを理解している上位貴族達は何も言わない。


すでに顔を上げ、リヒトからの着席の許可を待っていた貴族達に、リヒトは口を開く。

「皆、此度の危機にエウロニに集ってくれたこと、大義であった、皆の忠誠を嬉しく思う」

その言葉だけで貴族達の胸は熱くなる。

彼らはリヒトがエウロニアルだから忠誠を尽くすのではない、彼らには忠誠を尽くす理由があった。

だから、彼らはハルトの件を認めることができなかった。

しかし。

「だが、今回の会場、舵を取るのはハルトである。すでに伝えたように、次期当主は我が弟ハルトだから」

この状況でその言葉、いよいよ貴族は我慢ができなかった。

「リヒト様!この私の言葉、もしご不快に思われましたら即座にこの首をはねてください。その上で僭越ながら申し上げます。我らは貴方様に忠誠を尽くしたく思います。それは決してハルト様に不満があるわけではありませぬ、ただ我らエウローンの貴族は貴方の覚悟を見たのです!だからこそ」

「ハルデマン卿、いや、クラウ・ハルデマン伯爵。貴殿の想いを嬉しく思う。しかし貴殿らは勘違いをしているようだ」

一泊置き、リヒトはハルデマン卿だけでなく、集まった貴族をぐるっとひと睨みし、声を張る。

「私はこれからもお前達のリヒトであり続ける、だが領主という地位に着くべきは、私より頭のキレるハルトだ、私の弟は凄いのだ、貴殿らは知らぬだろうが、父上に例の洪水を予言し対策を提言したのもハルトなのだ」

側近の方では無かったのか、、、とどこかの貴族の声が漏れる。

「私の弟は凄まじいぞ、領主になった暁にはこのエウローンはさらに栄えるだろう。だがハルトには経験も無ければ忠誠を捧げる家臣もいないのだ、だからこそ、その先頭に私が立とう、そして、どうか貴殿ら誉れ高いエウローンの貴族についてきて欲しい」

そう言い切ると、リヒトは頭を下げる。深く。
兄のそんな姿を見て、焦って頭を下げるのは、その弟。

緊迫した会議室に、突如、大きな笑い声が響く。

「はっはははは!いやはや参りましたぞリヒト様、そこまで言われてしまっては何も言い返せぬもの、強き気高きエウローン貴族も頷くしかありませぬな」

大胆な態度で声を上げたのは、クアンベル騎士爵。
騎士爵ではありながら、その言葉を軽んじるものは決していない。
"ライオット・クアンベル" エウローン最強の騎士であり、今は亡きキハナの側仕えの1人である。

そしてその言葉に続くのは"テドラ・アッセンシ伯爵"

「クアンベル卿のおっしゃる通り、我らはエウロニアルに忠誠を尽くすと誓ったのだ、ハルト様に足りぬものがあるのなら、我らエウローン貴族が補うのは当然の事!」

そこまで来れば、エウローン貴族の心に、最早迷いはなかった。

リヒトの頬を伝う涙は、未来を憂うものではなく、エウローンの希望を見たが故であった。


「エウローン貴族の気合十分、それじゃ本題に入っても?」

想いの重なりを感じていたエウローン貴族達を現実に引き戻したのはA+冒険者の"ガロ"であった。
ガロはスッと立ち上がると集まった者を一望して話し出す。

「結果から話そう、此度の異常事態の原因は、先代領主であるキハナ殿の怨念だ」

その言葉にざわつくのはエウローン貴族。
それを諌めるのはリヒト。

「皆静かに、ガロ殿、その根拠と出来れば原因を伺いたい」

小さく頷きガロが続ける。

「人の持つ魔力は感情によってその性質を変えたりする事も、稀にある。魔力によって魔獣や空間に異常をきたすこともごく稀にある。それに、死人の怨霊によって魔力が膨大に膨れ上がる事も極めて珍しい例だが起こる」

部屋は静まり返り、ガロの言葉を待つ。

「出来すぎているんだ、今回の事件は。間違いなく何者かの意図的な関与が考えられる、ニールの死に様も見させてもらったが、あれは魔界に関連する儀式のようだったぞ、そうだろ?」

そう問いかけられて答えるのは、もう1人のA+冒険者である"キャロル"だ。

「ええ、魔界というより悪魔が行うものね、ここで大事なのは、悪魔を召喚する物ではないってことよ、あれは悪魔が行使していたものよ」

その言葉に違和感を覚えたリヒトがふと尋ねる。

「していた、とは?今は使っていないのか?」

少し眉を顰め、キャロルが答える。

「正直言って分からないわ、魔界の事なんてわからないことの方が多いもの、だけどね、私達にはいろんなツテがあるのよ、魔界に詳しいヤツも中に入るってわけ、それで分かったことによると、このタイプの儀式は相当古い物みたいなの、それでね、この儀式の意味するところ、それはね、"大いなる痛みよ大いなる絶望に"て所かしら。キハナが受けた苦しみや悲しみをエウローンに災害としてもたらし、ニールにも主人を殺した罪を植え付け儀式の一環として捧げる、凄まじい悪意の行為よ、私には思いつかないわ」

一通り話し終えると、キャロルは再び椅子に腰を落とす、その瞬間、椅子の軋む音が聞こえる。
それくらい、会議室は静まり返っていた。

静かな会議室に、少し遅れて響くのは、啜り泣く声と歯軋りの音であった。
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