骸の守神

東方守人

文字の大きさ
6 / 15
第1章

ならば仇を3

しおりを挟む
「誰がそんなことを、そんな事をしたんだ」

涙を押し殺して呟いたリヒトの言葉は、エウローン貴族の心を代弁していた。

「ごめんなさい、儀式魔術のなかでも魔界のそれは相当高度なの、残念ながら術者の追跡はできなかったわ」

キャロルは申し訳なさそうにそう答える。

「兄さん、まずは解決が先です。犯人を探すのはその後にしましょう、あんな事をやらかす相手です、きっと見つけ出すのは至難の業ですよ」

情の無いハルトの発言に、眉を顰める者も多かったが、充血したハルトの瞳を見れば、自らの愚かさに気づかずにはいられなかった。


「とにかく、原因は分かったんだ、あとはその原因をぶっ潰す、王国のギルド高等支部も今回の件は本気で重く捉えてる、犯人このままにはしねぇさ」

静まり返った会議室で、またも響くのはガロの声であった。
そして彼はこう続けた。

「英雄キハナの遺体を、封印するぞ」








それは唐突に起こった。


キャロルとガロは素早く封印の準備を終え、エウロニア城塞の地下へと侵入し、遺体を目にしたその時、キャロルが叫んだ。


「伏せてっ!!」


突如


エウロニア城塞の西側半分が崩壊、城壁を1/3ほど巻き込み、地中から抉り返すような大爆発が発生した。

事実、この爆発は城塞の地下部分から、と言うより、キハナの遺体が爆発していたものだった。





「逃げろッお前ら!」

A+冒険者の本気の叫びともなれば、ほとんどの人間は生物的な恐怖を覚える。

だんだんと薄くなる砂塵の中見えたのは、溶岩のように赤々と熱を持ち巨大化した腕を大きく構えるガロ、そしてその斜め後ろには元は黄土色の瞳を金色に輝かせ、腕や足の至る所に禍々しい魔紋を這わせたキャロル。

先ほどまでとは全く違う2人の姿に、周りの者は息を呑む。

如何に人間のフリをしていても、Aランク冒険者とA+ランク冒険者の間には、決して容易くは超えられない壁がある、それはつまり人外の壁。通常の人間では到達できない事を示す圧倒的な力。


だが、本性を見せたガロとキャロルの対峙していた相手もまた、人間などではなかった。

それどころか、とてもこの世のものではなかった。


"それ"はまるで地面から上半身のみが生えてきたような外見をしていた。逆三角形のような胴体に、異様に大きな腕を生やし、その面はまさに悪魔。

しかし、禍々しく黒紫に脈動する体からはその苦痛がつたわってくるようだった。英雄キハナの苦痛、忠臣ニールの苦痛、主人を想い死んでいった、すべての者たちの苦痛。


ガロと"それ"とがほとんど同時に動き出す、予備動作のないパンチを繰り出す、そのパンチが互いに当たるかどうかのタイミングでキャロルが動く。

音は出さずに口元が動く、極めて高度な技術である無音魔術の行使である。"それ"の肩に当たる部分で突如爆発が起こる。
爆発で体型を崩したところに、ガロの拳が炸裂し、さらに大きく体制を崩す。

お互いに言葉を交わさずとも、相手のしたいことを理解して、相手のする事を信じる。まさにA+ランクの冒険者に相応しい連携。


しかし、一見優勢にも見えるその状況で、ただ、キャロルとガロだけが険しい顔をしていた。

そしてガロが声を張る。

「俺が王国の高等支部に頼まれたのは異変の原因調査だ、変異魔人の討伐じゃねえ、だからさっさと逃げろA+冒険者としてお前たちを見捨てることは出来ねぇ、だから戦ってるだけだ、お前たちが逃げたら、俺たちも逃げる」

「なんだと!エウローンを見捨てろと言うのか!」

怒りを込めた貴族の声に、ガロは低く唸るような声で返す。

「こんなとこでキャロルを失うわけねぇだろ、手前等が逃げねぇなら俺とキャロルは2人で逃げる」

そんな事を話している間にも体勢を立て直した"それ"、もとい変異魔人は再び拳を振り上げる。

しかしその拳は、その黒い瞳はガロを見据えていなかった、その眼が捉えたのはキャロル。

黒い波動を纏った拳がキャロルに襲いかかる、しかし。

A+ランク冒険者がそんな事でひるむ訳もなく、魔力を推進力に、キャロルが10メートル程後ろへ飛ぶ、そしてキャロルが居た場所には、すでにガロが構えていた。

再び拳がぶつかり合う、キャロルの目が鋭く光り魔力が紡がれる。

キャロルが紡いだ魔力は、青白く光る水晶となって変異魔人に突き刺さる。

途端、魔人の凄まじい咆哮と同時にガロの拳が追い打ちをかける。
やはり優勢な2人に、貴族達は声を上げる。

「かてるのではないか!」

「そうだ!人類の守護者の実力を見せてやれ!」

希望を感じた貴族達と対照的に、険しい顔をするのは冒険者達。
それに違和感を感じたハルトはAランク冒険者に問う。

「彼らなら勝てるのではないか、あんなにも優勢だぞ」

ビクリとハルトを見る冒険者、その目は怯えに包まれら今にも泣き出しそうな物だ。

冒険の中でも聡いものが声を振るわせながら答える。

「ガロさんとキャロルさんなら、普通の魔物になんて負ける訳ないんです、でもあれは違う、あれは、、、魔人は訳が違うんです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...