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第1章
ならば仇を5
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「キャロルッ!」
戦闘が始まって初めての事だ、相手が魔術を使いキャロルを攻撃した。
拳のみを使っていた相手に、決して油断していたわけでは無いが、キャロルは驚き、体制を崩してしまう。
防御魔術の発動が間に合わないことを察知したガロは、体を縦にキャロルを守る。
まさにキャロルを襲わんとする魔力の塊に対し、体に魔力を纏わせ真っ向から受ける。
ゴウッと重たいものが空気を切る音が聞こえ、キャロルは伏せていた顔をあげる。
そこには、体の半分を黒い魔力に侵食されたガロの姿があった。
すぐさま回復魔術を行使する。
同時に複数の魔力弾を生成し、魔人に向かい弾く。
「ガロ!しっかりして!」
2人で何度も死線を潜ってきた。
ギルドの調査依頼で赴いただけの案件だ、自分を庇って傷を負った相方を、こんな所で失いたく無い。
「ガロ!さあ立って!」
最早冒険者も貴族も残っていない、領主の息子2人を庇いながらすでに皆ここを離れている。
残って戦う理由も無い、あとはここから逃げてギルド本部に報告をすれば、自分達の仕事は終わりだ。
こんな危険な魔人はA+複数パーティかオーバーランクの化け物に任せるのが普通だ。
早く逃げたい、それなのに。
相方が立ち上がってくれない。
膨大な量の魔力を限界出力で放出し、敵をとどめている。
しかし、いくら多量の魔力を持つキャロルとて、この様な使い方をしていればそう長くは持たない。
実際、キャロルの体内魔力量を考えれば持って残り十数秒といった所だろうか。
「逃げろよ、キャロル」
涙で視界が歪み始めていたキャロルに、掠れた声が聞こえる。
歯を食いしばる。
「嫌よッ!あなたと一緒でないと嫌、嫌なの、もう失いたく無いの」
相方の顔を最後に目に焼き付けまいと涙を拭うキャロル、しかしその想いとは裏腹に、涙は2人に最後の時を許してはくれない。
夢を見ていた様な気がする。
まさか、夢では無いのだろうが。
そうか、そんな事だったのか。
自分の生まれた意味を、存在し続ける意味を、失いかけていた。
こんな事だったのか。
だが、そうか、あれが私の母だったか。
だからだろうか、眼下に広がる広大な地に。
私の身にはハッキリ見える。
黒ずんだ穢らわしい体躯の巨人の様な化け物が。
なるほど"あれ"が我が母の敵か。
そして我が母を滅ぼした存在か。
母に思い出などは無い、かつての記憶などほとんど残ってすらいない。
それでも、彼女の想いは私の中に残っている。
それを無下にしようとは思えなかった。
ああ、きっとこれが"悲しみ"なのだろう。
皆が感じてきた感情とはこんなものなのだろう。
そうか、
であるならば、打とうではないか。
ならば仇を
打とうではないか。
戦闘が始まって初めての事だ、相手が魔術を使いキャロルを攻撃した。
拳のみを使っていた相手に、決して油断していたわけでは無いが、キャロルは驚き、体制を崩してしまう。
防御魔術の発動が間に合わないことを察知したガロは、体を縦にキャロルを守る。
まさにキャロルを襲わんとする魔力の塊に対し、体に魔力を纏わせ真っ向から受ける。
ゴウッと重たいものが空気を切る音が聞こえ、キャロルは伏せていた顔をあげる。
そこには、体の半分を黒い魔力に侵食されたガロの姿があった。
すぐさま回復魔術を行使する。
同時に複数の魔力弾を生成し、魔人に向かい弾く。
「ガロ!しっかりして!」
2人で何度も死線を潜ってきた。
ギルドの調査依頼で赴いただけの案件だ、自分を庇って傷を負った相方を、こんな所で失いたく無い。
「ガロ!さあ立って!」
最早冒険者も貴族も残っていない、領主の息子2人を庇いながらすでに皆ここを離れている。
残って戦う理由も無い、あとはここから逃げてギルド本部に報告をすれば、自分達の仕事は終わりだ。
こんな危険な魔人はA+複数パーティかオーバーランクの化け物に任せるのが普通だ。
早く逃げたい、それなのに。
相方が立ち上がってくれない。
膨大な量の魔力を限界出力で放出し、敵をとどめている。
しかし、いくら多量の魔力を持つキャロルとて、この様な使い方をしていればそう長くは持たない。
実際、キャロルの体内魔力量を考えれば持って残り十数秒といった所だろうか。
「逃げろよ、キャロル」
涙で視界が歪み始めていたキャロルに、掠れた声が聞こえる。
歯を食いしばる。
「嫌よッ!あなたと一緒でないと嫌、嫌なの、もう失いたく無いの」
相方の顔を最後に目に焼き付けまいと涙を拭うキャロル、しかしその想いとは裏腹に、涙は2人に最後の時を許してはくれない。
夢を見ていた様な気がする。
まさか、夢では無いのだろうが。
そうか、そんな事だったのか。
自分の生まれた意味を、存在し続ける意味を、失いかけていた。
こんな事だったのか。
だが、そうか、あれが私の母だったか。
だからだろうか、眼下に広がる広大な地に。
私の身にはハッキリ見える。
黒ずんだ穢らわしい体躯の巨人の様な化け物が。
なるほど"あれ"が我が母の敵か。
そして我が母を滅ぼした存在か。
母に思い出などは無い、かつての記憶などほとんど残ってすらいない。
それでも、彼女の想いは私の中に残っている。
それを無下にしようとは思えなかった。
ああ、きっとこれが"悲しみ"なのだろう。
皆が感じてきた感情とはこんなものなのだろう。
そうか、
であるならば、打とうではないか。
ならば仇を
打とうではないか。
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