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第1章
今この地に降り立つ
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ガロの額に、きっと最後になる口付けをした。
もう二度と触れ合えないだろう、愛しい相方に。
そうしてキャロルの魔力は限界を迎えた、魔力の異常減少にふらつく体で、痺れる腕で、ガロのこめかみを優しく撫でる。
フッ、と。
キャロルの展開していた魔力防壁が消滅する。
無防備な2人に魔人が腕を振り上げる。
その時、終わりを覚悟し、閉ざしていたキャロルの瞼に、強烈な光がもたらされる。
「覚悟しろ、悪鬼よ、貴様らの行いは我が怒りに触れた」
凛々しくも美しい声、再び瞼を持ち上げたキャロルの目に映ったのは、あまりにも美しい少女であった。
その美しさは"可愛い"や"かっこいい"では形容する事すら烏滸がましい、世界を魅了する美しさが、そこにはあった。
その美しい存在を目にした瞬間、魔人は恐ろしい叫び声を上げる。
途端、魔人の魔力が弾ける様に増幅する。
そしてその拳に魔力を込め、降り立った
小さな体など肉片に変えてしまう様な打撃、それが壁に当たったかの様に少女を押し潰す前に止まる。
よく見れば、少女が手を向けていた。
防壁術式の類なのだろうか、その割には魔力を感じない。
「お前では俺を殺せないぞ、耐久戦に持ち込むつもりか、魔人である俺を相手に」
初めて魔人が人語を話した、それは明確な敵意を持って、目の前の少女へ語りかけたものだった。
「黙るがいいさ愚か者、貴様を滅ぼす手段などいくらでもある」
そこから先は、超越者の戦闘が始まった。
魔人の繰り出す魔術や拳での攻撃を、少女は片手で弾き続けた、2.3分ほど過ぎただろうか、少女が足に力を込め、それまでより少し強く、魔人の拳を弾く。
それだけで魔人はバランスを崩しかけ、よろめく。
魔人が体を立てると同時に魔力を練り上げた時、そこに少女はいなかった。
「我は貴様らを滅ぼすため、我が一族の全てを賭けて、因果を超えて今ここに降り立ったのだ、敗北を喫する事などありえない」
そこにいたのは巨大な蛇、白いその体、鎌首をもたげる蛇。
その蛇は素早い動きで魔人へ絡みつく。
魔人の体躯を絞め上げる、辺りに聞こえるのは魔人の唸り声と暴れる魔人が体を地面に叩きつける音だけであった。
「ガロ、、、」
「ああ、とんでもねぇな」
意識を取り戻したガロと、ガロを支えるキャロルと。
2人は先ほどまで空から舞い降りた蛇と魔人が戦闘を繰り広げた場所には、ボロボロになった英雄キハナの遺体と、そして白い縄が落ちていた。
白い縄は初めて見るような元であった。
細い紐を何本も編み込んだ太い縄、それが2本、絡み合う様にしてさらに太い縄になっていた。
一見白い紐で出来ていたそれは、触ってみると木の繊維で出来ている様であった。
その日、エウロニの民と貴族が見たのは。
エウロニの要塞で巨大な爆発が起こり、城壁の西側が崩れ、恐ろしい悪魔咆哮が轟いたのち、空から一筋の光が舞い降りた。
すると、悪魔の様な咆哮は聞こえなくなり、鈍い赤色をしていた空が、壮大なエウローンの大地に、再び青々と光を差し始めた。
そうして、エウローンの災厄は過ぎ去った。
大きな謎と共に。
事件解決から1ヶ月後、未だ復興の最中にあったエウローンに、大きな知らせが走った。
次期領主、ハルト・エウロニアルの着任である。
「我が弟は未だ未熟であり、英雄たる父上の足元にも及ばないだろう、それを皆で支えてほしい、私と共にハルトを支えてほしい、よろしく頼みたい」
そう言って頭を下げたのは、ハルトの兄であり英雄キハナの息子、リヒト。
それを受けたのはエウローンの復興を見てきた貴族達、最早彼らにハルトを否定する心など存在しない。
そこにあるのは、知恵と経験を振るい、恐ろしい程の復興を魅せたハルトに対する敬意の念と、エウロニアルの英雄の血をしっかりと継いだ2人への親心にも似たものであった。
そして貴族だけでなく、エウロニに住まう人々の心の中には、空を覆った暗い雲を貫き、悪魔の様な化け物を討ち、エウローンを救った光の刃の存在が強く残ることになる。
それは信仰を伴うほどに。
王国の高等ギルド支部では、2人のA+ランク冒険者が移籍を申し出た。
元来冒険者とは自由なものであり、ギルドもそこに介入する事など殆どない、とは言え、A+ランクの冒険者が相手となれば話は変わってくる。
それだけで戦況を変えうる戦力なのだから。
しかし2人の意思は固く、王国の高等ギルド支部から、エウローンの中等ギルド支部へと2人の冒険者が移籍した。
曰く、守りたいものが出来た。との事だった。
エウローンの西部、傾斜の高い山々が連なるベルカナ連峰の一角。その麓に建つのは、"天より嘶く光の雫"と、刻み込まれた石碑とそれに隣接して建造された小さくも立派な神殿であった。
それは復興の最中、大きな費用を出すことが出来なかった金銭的な苦しみと、そんな苦難の中にあっても、この神殿とそこに祀られるモノに、どれだけエウローンの人々が感謝していたかを示していた。
かくして、因果を超えて世界を渡った妖異は、エウローンの地に、アザドギエルの地に、今、舞い降りた。
もう二度と触れ合えないだろう、愛しい相方に。
そうしてキャロルの魔力は限界を迎えた、魔力の異常減少にふらつく体で、痺れる腕で、ガロのこめかみを優しく撫でる。
フッ、と。
キャロルの展開していた魔力防壁が消滅する。
無防備な2人に魔人が腕を振り上げる。
その時、終わりを覚悟し、閉ざしていたキャロルの瞼に、強烈な光がもたらされる。
「覚悟しろ、悪鬼よ、貴様らの行いは我が怒りに触れた」
凛々しくも美しい声、再び瞼を持ち上げたキャロルの目に映ったのは、あまりにも美しい少女であった。
その美しさは"可愛い"や"かっこいい"では形容する事すら烏滸がましい、世界を魅了する美しさが、そこにはあった。
その美しい存在を目にした瞬間、魔人は恐ろしい叫び声を上げる。
途端、魔人の魔力が弾ける様に増幅する。
そしてその拳に魔力を込め、降り立った
小さな体など肉片に変えてしまう様な打撃、それが壁に当たったかの様に少女を押し潰す前に止まる。
よく見れば、少女が手を向けていた。
防壁術式の類なのだろうか、その割には魔力を感じない。
「お前では俺を殺せないぞ、耐久戦に持ち込むつもりか、魔人である俺を相手に」
初めて魔人が人語を話した、それは明確な敵意を持って、目の前の少女へ語りかけたものだった。
「黙るがいいさ愚か者、貴様を滅ぼす手段などいくらでもある」
そこから先は、超越者の戦闘が始まった。
魔人の繰り出す魔術や拳での攻撃を、少女は片手で弾き続けた、2.3分ほど過ぎただろうか、少女が足に力を込め、それまでより少し強く、魔人の拳を弾く。
それだけで魔人はバランスを崩しかけ、よろめく。
魔人が体を立てると同時に魔力を練り上げた時、そこに少女はいなかった。
「我は貴様らを滅ぼすため、我が一族の全てを賭けて、因果を超えて今ここに降り立ったのだ、敗北を喫する事などありえない」
そこにいたのは巨大な蛇、白いその体、鎌首をもたげる蛇。
その蛇は素早い動きで魔人へ絡みつく。
魔人の体躯を絞め上げる、辺りに聞こえるのは魔人の唸り声と暴れる魔人が体を地面に叩きつける音だけであった。
「ガロ、、、」
「ああ、とんでもねぇな」
意識を取り戻したガロと、ガロを支えるキャロルと。
2人は先ほどまで空から舞い降りた蛇と魔人が戦闘を繰り広げた場所には、ボロボロになった英雄キハナの遺体と、そして白い縄が落ちていた。
白い縄は初めて見るような元であった。
細い紐を何本も編み込んだ太い縄、それが2本、絡み合う様にしてさらに太い縄になっていた。
一見白い紐で出来ていたそれは、触ってみると木の繊維で出来ている様であった。
その日、エウロニの民と貴族が見たのは。
エウロニの要塞で巨大な爆発が起こり、城壁の西側が崩れ、恐ろしい悪魔咆哮が轟いたのち、空から一筋の光が舞い降りた。
すると、悪魔の様な咆哮は聞こえなくなり、鈍い赤色をしていた空が、壮大なエウローンの大地に、再び青々と光を差し始めた。
そうして、エウローンの災厄は過ぎ去った。
大きな謎と共に。
事件解決から1ヶ月後、未だ復興の最中にあったエウローンに、大きな知らせが走った。
次期領主、ハルト・エウロニアルの着任である。
「我が弟は未だ未熟であり、英雄たる父上の足元にも及ばないだろう、それを皆で支えてほしい、私と共にハルトを支えてほしい、よろしく頼みたい」
そう言って頭を下げたのは、ハルトの兄であり英雄キハナの息子、リヒト。
それを受けたのはエウローンの復興を見てきた貴族達、最早彼らにハルトを否定する心など存在しない。
そこにあるのは、知恵と経験を振るい、恐ろしい程の復興を魅せたハルトに対する敬意の念と、エウロニアルの英雄の血をしっかりと継いだ2人への親心にも似たものであった。
そして貴族だけでなく、エウロニに住まう人々の心の中には、空を覆った暗い雲を貫き、悪魔の様な化け物を討ち、エウローンを救った光の刃の存在が強く残ることになる。
それは信仰を伴うほどに。
王国の高等ギルド支部では、2人のA+ランク冒険者が移籍を申し出た。
元来冒険者とは自由なものであり、ギルドもそこに介入する事など殆どない、とは言え、A+ランクの冒険者が相手となれば話は変わってくる。
それだけで戦況を変えうる戦力なのだから。
しかし2人の意思は固く、王国の高等ギルド支部から、エウローンの中等ギルド支部へと2人の冒険者が移籍した。
曰く、守りたいものが出来た。との事だった。
エウローンの西部、傾斜の高い山々が連なるベルカナ連峰の一角。その麓に建つのは、"天より嘶く光の雫"と、刻み込まれた石碑とそれに隣接して建造された小さくも立派な神殿であった。
それは復興の最中、大きな費用を出すことが出来なかった金銭的な苦しみと、そんな苦難の中にあっても、この神殿とそこに祀られるモノに、どれだけエウローンの人々が感謝していたかを示していた。
かくして、因果を超えて世界を渡った妖異は、エウローンの地に、アザドギエルの地に、今、舞い降りた。
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