暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 薪ストーブの覗き窓から見えるのは、ゆらゆらと揺れるうごめく炎。


 あたたかい。


 それは、ただ単に気温の話だけではなかった。

 土間は、茶色や黒っぽくすすけた壁や家具に囲まれて、時折風で吹き戻される煙がストーブの隙間からもくもくと上がっては、つんと鼻をさした。

 「なんで呼ばれたか分かってるとね?」

 20年やそこら経っても、変わらない口調と顔色。

 昼の12時。
 当然のように腹は減ってはいたが、よそわれた白米と焼き魚やウインナー、サラダ、そして注がれていた暖かい緑茶と、並べられた箸を目の前に、そう切り出された僕は、とても箸に手はつけられなかった。
 そしてその当たり前のように配膳されたお椀やお皿を目の前にして、更に熱く感じられるものも勿論あったし、日頃のうちの家庭の生活をもしも母が知ったなら、発狂に近いそんな事になりはしないかと心配する反面、一方的に悪者にされているこの状況を少しでも押し返せるチャンスである事も分かってはいた。
 しかしながら、それはしまい、できまいと心に決めていた。
 それは本人同士以前に、お家同士の紛争に発展してしまう事が考えられたからだった。いや、紛争というと行き過ぎた表現ではあるが、この、田舎ならではの狭い世界。
 嫁の父親には、家族もろとも大変お世話になっているのである。
 その中で、いざこざとなるとなかなか面倒であって、それは僕単体で済むような話ではなく、もろもろ周りの親族もろとも巻き込んだような話に発展していく、そんな可能性も十二分にあったのである。

 「うん。」

  僕は箸を置いて頷いた。

 高校生の時、何度となくあったこの瞬間、いつだって僕はうつむいて、黙りこくっていた。ひたすらに母の言葉と時折入ってくる父の質問に、頷いたり、首を振ったり、そんな事を繰り返していた記憶が蘇っていた。
 不登校やタバコ、そしてそれ以降も親に迷惑をかける度に、こんな場が設けられた。

 理解を求めよう。

 そんな大層な気持ちはなかったけれども、ここまでの約2時間の道中、自分を庇うわけでもなく、相手を責めるわけでもなく、ただ建設的な意見として、ある程度の筋書き、要点を押さえての話はできるように準備はできていた。

 母はつらつらと僕に疑問を投げかけた。
 何がどうなっているのか。何故そうなるのか。

 高校生の時分ではひたすらに「なんで?」を押し付けられた記憶しか無かったが、当然もう自分の足で歩いているその感覚を強く持っている僕は、回答でもなく、反論でもなく、訴える事、どうしたいか、どう感じるか、どうしていくか、何がベストで何がベターなのか、常々考えているその事を伝える、その事に集中しようと思っていた。
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