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2章 俺の彼女は壊れかけ
彼女、過去を語る
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「,,,,,,え?」
「......もしかして、ご存じじゃなかったんですか......!? あ、えっとその......。私はこれで......」
看護師は気まずくなったのか、逃げるように病室から出て行った。
俺は驚いた。
そんなこと一回も聞いてこなかった。
燐華さんが隠していたのか、困っているような素振りも見なかった。
だが、今思えば酔った美湖さんを全く運べなかったり、腕相撲であっさり負けてしまったのは、力が弱かったり酔っていたからではない。
腕が使えないのであれば当然だ。
驚いている俺に燐華さんは過去を話してくれた。
「おーい燐華! サッカーしようぜ!」
「いいよー! よーし、今日も私が点数取るぞー!」
男子生徒に声をかけられた燐華は、昼休み開始のチャイムとともに、男子生徒と校庭へ向かった。
燐華が小学生の頃は、男子生徒に混ざり、一緒に遊ぶような活発な子だった。
そして、月日が流れて中学生に入学する。
燐華は小学生の頃ほど活発では無くなったものの、明るさは健在だった。
「燐華、今日飯食いにいかねぇか?」
「いいよー。行こー行こー」
おおらかで明るい性格な燐華に親しく接してくれる男子生徒は多く、かつ見た目も良かったため、男子生徒からの人気は高かった。
しかし、それが女子生徒たちの逆鱗に触れていたのだ。
「なによあの子、気に食わない」
「絶対モテモテになりたいから、わざとあんな振る舞いしてるんだろうね」
女子生徒からの評判は最悪に近かった。
そりゃそうであろう。
思春期で異性を意識する年ごろに、異性の注目をかっさらってしまっているのだから。
女子生徒の中でも、特に夏鈴は燐華を嫌っていた。
そんな夏鈴が取った行動は、悪質ないじめである。
上履きをトイレに捨てたり、ノートを破いたりと、思いつく限りのいたずらをした。
最初は気にしないようにしていたが、いじめはだんだん悪質に、そして高頻度になっていった。
温厚で明るかった燐華はどんどん暗くなり、いじめにおびえるようになった。
そしてある日、燐華の堪忍袋の緒が切れた。
階段の踊り場で、燐華と夏鈴は喧嘩をした。
殴り合い、髪の毛を引っ張り合い、取っ組み合いをした。
周りの生徒は止めず、だんだんとエスカレートしていった。
そして、二人は取っ組み合ったまま階段から落ちたしまったのだ。
燐華は左肩を強く強打し、夏鈴は頭を何度も打った。
周りの生徒は動けない二人を見て事の重大さに気が付き、教師を呼んだ。
二人はすぐさま病院へと運ばれた。
治療と検査の結果、燐華は左腕の麻痺の後遺症が残った。
そんな燐華は、今までの性格を見つめ直し、外部の人間へ完全に心を閉ざした。
そして、今の大学での真面目な燐華が誕生した。
流石に後遺症が残った燐華をいじめるような生徒はいなかったため、燐華はいじめられることはなく中学校を卒業した。
一方夏鈴は症状が重く、中学校に通うことはなかった。
高校では、特に事件は発生せず、平和な三年間を過ごした。
大学でも、一年半は特に何も起こらなかった。
しかし、燐華は偶然夏鈴と再会してしまった。
だが、夏鈴の異変にすぐさま気が付く。
妙に優しいのだ。
まるで、過去のことなど何も知らないかのように。
話を聞くと、過去の記憶が無いとのこと。
燐華のことはざっくりとだけ知っているが、どんな人間だったかは覚えていない。
でも、他の人間よりも優先して燐華のことを覚えていたので、もしかしたら仲が良かったのではないかと発言する。
真面目でいい子を装っていた燐華は、嘘をついた。
仲が良かったと。
それから、二人は大学でたまに会う程度の仲になった。
だが、そんな燐華のストレスはとてつもないものだった。
夏鈴に会うごとに、毎日吐き気や頭痛に襲われる。
家に帰っても、また明日会うことになるのではないか、という恐怖に包まれた。
そして、偶然酒を飲んだこと、そしてタバコを吸ったことで、この二つの現実逃避できる魅力に気が付いてしまった。
それからは、毎日帰ってからは酒とタバコの生活。
両親はそんな娘に嫌気がさし、毎月の食費と家賃の振込を引き換えに家を追い出したのだ。
「......ってことがあったんだ。ただでさえ普段から迷惑をかけてるから、このことは流石に自分でなんとかしようと思ってたんだけど......」
「っ......!」
言葉が出なかった。
今までろくでなしだと思っていた燐華さんが、こんな壮絶な過去を送っていたなんて。
最初はただ見た目や学校での生活態度などの、表面だけしか知らずに告白した。
そして知った燐華さんの堕落した態度。
人の家で酒を飲み、吐き散らかす。
そんな燐華さんにいいところはあるだろう。
そう思いながら付き合い続けていた。
だが、そんな毎日が楽しかった。
俺はこの日常を守りたい。
俺は無言で燐華さんを抱きしめる。
「痛っ......!」
「あっ......!」
全身の打撲を忘れて抱きしめた俺は、咄嗟に離れる。
「す、すみません」
「いいよ......」
「燐華さん。言いたくないような過去を話してくれてありがとうございます。......俺、燐華さんを支えます」
「えっ......?」
「俺がずっと支えます。燐華さんが不自由ないように、ちゃんと生きていけるように!」
俺は燐華さんの右手を握る。
「あいたたた......」
「わっ、そうだった......」
咄嗟に手を放す。
「......本当にいいの? 他人のために、こんな重い問題を一緒に背負ってくれるの......?」
「他人じゃありません! 彼女なんですから、お互い支え合いましょうよ! だから、今は俺に頼ってください!」
正直、考えは何もない。
だが、どうしても助けたいという思いが先行し、勢いで言ってしまった。
「し、志永くん......」
燐華さんの目から涙が零れ落ちる。
初めてみた、燐華さんの涙。
燐華さんは、疲れ果てるまで泣き続けた。
「......それで、夏鈴さんのことはどうします?」
十分に泣き、落ち着いたところで今後のことを考えることにした。
「私としては......」
燐華さんはしばらく考える。
「......仲良くなりたい。記憶がない今なら、うまくやれるような気がするの」
いじめてきた相手と仲良くなるという茨の道を進もうとする燐華さん。
俺はそんな強い心の持ち主である燐華さんの意見を尊重することにした。
「......わかりました。俺も協力します」
「......! ありがとう......!」
燐華さんの目から涙が零れ落ちる。
俺はその涙を、優しくそっと拭った。
「あ、そうだ。少し気になったんですが......」
「なぁに?」
「なんで俺には、本当の自分でいてくれたんですか?」
「あー......」
燐華さんはまた少し考える。
「賭け? かな」
「か、賭けですか......?」
燐華さんの回答に戸惑う。
「志永くんのことは告白される前から多少知ってたんだけどね? 勘というか......。信頼してもいいんじゃないかって思ったの」
「......そうですか」
もし、俺が悪い人間だったら、燐華さんの本性はすぐさま噂になっていたであろう。
それなのにも関わらず、燐華さんが俺を信じ、本性を躊躇いなく出してくれたことをとても嬉しく思った。
「......もしかして、ご存じじゃなかったんですか......!? あ、えっとその......。私はこれで......」
看護師は気まずくなったのか、逃げるように病室から出て行った。
俺は驚いた。
そんなこと一回も聞いてこなかった。
燐華さんが隠していたのか、困っているような素振りも見なかった。
だが、今思えば酔った美湖さんを全く運べなかったり、腕相撲であっさり負けてしまったのは、力が弱かったり酔っていたからではない。
腕が使えないのであれば当然だ。
驚いている俺に燐華さんは過去を話してくれた。
「おーい燐華! サッカーしようぜ!」
「いいよー! よーし、今日も私が点数取るぞー!」
男子生徒に声をかけられた燐華は、昼休み開始のチャイムとともに、男子生徒と校庭へ向かった。
燐華が小学生の頃は、男子生徒に混ざり、一緒に遊ぶような活発な子だった。
そして、月日が流れて中学生に入学する。
燐華は小学生の頃ほど活発では無くなったものの、明るさは健在だった。
「燐華、今日飯食いにいかねぇか?」
「いいよー。行こー行こー」
おおらかで明るい性格な燐華に親しく接してくれる男子生徒は多く、かつ見た目も良かったため、男子生徒からの人気は高かった。
しかし、それが女子生徒たちの逆鱗に触れていたのだ。
「なによあの子、気に食わない」
「絶対モテモテになりたいから、わざとあんな振る舞いしてるんだろうね」
女子生徒からの評判は最悪に近かった。
そりゃそうであろう。
思春期で異性を意識する年ごろに、異性の注目をかっさらってしまっているのだから。
女子生徒の中でも、特に夏鈴は燐華を嫌っていた。
そんな夏鈴が取った行動は、悪質ないじめである。
上履きをトイレに捨てたり、ノートを破いたりと、思いつく限りのいたずらをした。
最初は気にしないようにしていたが、いじめはだんだん悪質に、そして高頻度になっていった。
温厚で明るかった燐華はどんどん暗くなり、いじめにおびえるようになった。
そしてある日、燐華の堪忍袋の緒が切れた。
階段の踊り場で、燐華と夏鈴は喧嘩をした。
殴り合い、髪の毛を引っ張り合い、取っ組み合いをした。
周りの生徒は止めず、だんだんとエスカレートしていった。
そして、二人は取っ組み合ったまま階段から落ちたしまったのだ。
燐華は左肩を強く強打し、夏鈴は頭を何度も打った。
周りの生徒は動けない二人を見て事の重大さに気が付き、教師を呼んだ。
二人はすぐさま病院へと運ばれた。
治療と検査の結果、燐華は左腕の麻痺の後遺症が残った。
そんな燐華は、今までの性格を見つめ直し、外部の人間へ完全に心を閉ざした。
そして、今の大学での真面目な燐華が誕生した。
流石に後遺症が残った燐華をいじめるような生徒はいなかったため、燐華はいじめられることはなく中学校を卒業した。
一方夏鈴は症状が重く、中学校に通うことはなかった。
高校では、特に事件は発生せず、平和な三年間を過ごした。
大学でも、一年半は特に何も起こらなかった。
しかし、燐華は偶然夏鈴と再会してしまった。
だが、夏鈴の異変にすぐさま気が付く。
妙に優しいのだ。
まるで、過去のことなど何も知らないかのように。
話を聞くと、過去の記憶が無いとのこと。
燐華のことはざっくりとだけ知っているが、どんな人間だったかは覚えていない。
でも、他の人間よりも優先して燐華のことを覚えていたので、もしかしたら仲が良かったのではないかと発言する。
真面目でいい子を装っていた燐華は、嘘をついた。
仲が良かったと。
それから、二人は大学でたまに会う程度の仲になった。
だが、そんな燐華のストレスはとてつもないものだった。
夏鈴に会うごとに、毎日吐き気や頭痛に襲われる。
家に帰っても、また明日会うことになるのではないか、という恐怖に包まれた。
そして、偶然酒を飲んだこと、そしてタバコを吸ったことで、この二つの現実逃避できる魅力に気が付いてしまった。
それからは、毎日帰ってからは酒とタバコの生活。
両親はそんな娘に嫌気がさし、毎月の食費と家賃の振込を引き換えに家を追い出したのだ。
「......ってことがあったんだ。ただでさえ普段から迷惑をかけてるから、このことは流石に自分でなんとかしようと思ってたんだけど......」
「っ......!」
言葉が出なかった。
今までろくでなしだと思っていた燐華さんが、こんな壮絶な過去を送っていたなんて。
最初はただ見た目や学校での生活態度などの、表面だけしか知らずに告白した。
そして知った燐華さんの堕落した態度。
人の家で酒を飲み、吐き散らかす。
そんな燐華さんにいいところはあるだろう。
そう思いながら付き合い続けていた。
だが、そんな毎日が楽しかった。
俺はこの日常を守りたい。
俺は無言で燐華さんを抱きしめる。
「痛っ......!」
「あっ......!」
全身の打撲を忘れて抱きしめた俺は、咄嗟に離れる。
「す、すみません」
「いいよ......」
「燐華さん。言いたくないような過去を話してくれてありがとうございます。......俺、燐華さんを支えます」
「えっ......?」
「俺がずっと支えます。燐華さんが不自由ないように、ちゃんと生きていけるように!」
俺は燐華さんの右手を握る。
「あいたたた......」
「わっ、そうだった......」
咄嗟に手を放す。
「......本当にいいの? 他人のために、こんな重い問題を一緒に背負ってくれるの......?」
「他人じゃありません! 彼女なんですから、お互い支え合いましょうよ! だから、今は俺に頼ってください!」
正直、考えは何もない。
だが、どうしても助けたいという思いが先行し、勢いで言ってしまった。
「し、志永くん......」
燐華さんの目から涙が零れ落ちる。
初めてみた、燐華さんの涙。
燐華さんは、疲れ果てるまで泣き続けた。
「......それで、夏鈴さんのことはどうします?」
十分に泣き、落ち着いたところで今後のことを考えることにした。
「私としては......」
燐華さんはしばらく考える。
「......仲良くなりたい。記憶がない今なら、うまくやれるような気がするの」
いじめてきた相手と仲良くなるという茨の道を進もうとする燐華さん。
俺はそんな強い心の持ち主である燐華さんの意見を尊重することにした。
「......わかりました。俺も協力します」
「......! ありがとう......!」
燐華さんの目から涙が零れ落ちる。
俺はその涙を、優しくそっと拭った。
「あ、そうだ。少し気になったんですが......」
「なぁに?」
「なんで俺には、本当の自分でいてくれたんですか?」
「あー......」
燐華さんはまた少し考える。
「賭け? かな」
「か、賭けですか......?」
燐華さんの回答に戸惑う。
「志永くんのことは告白される前から多少知ってたんだけどね? 勘というか......。信頼してもいいんじゃないかって思ったの」
「......そうですか」
もし、俺が悪い人間だったら、燐華さんの本性はすぐさま噂になっていたであろう。
それなのにも関わらず、燐華さんが俺を信じ、本性を躊躇いなく出してくれたことをとても嬉しく思った。
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