【完結済】俺の彼女が人として終わっているんだが

Melon

文字の大きさ
21 / 35
3章 俺の彼女は仲良くなりたい

彼女、楽しむ

しおりを挟む
 夏鈴に率先されながらついて行った先は、今流行りのブランドのショップだった。
 店頭には、ネットニュースなどで見かけたことがある服を着たマネキンが並べられていた。

「今日はね。燐華ちゃんをコーデしてあげる!」

「私を......? でも、なんで......?」

「だって彼氏さんにいい所見せたいでしょ? ほら、行こ」

 燐華は夏鈴に手を引かれ、お店に入っていく。

 燐華は普段美しく見せるために、最低限の流行や知識は頭に入れてあるだけなので、ファッションについて特段詳しいわけではなかった。

「うーん......。燐華ちゃんは黒髪で、かっこいい雰囲気もあるから......。寒色系:とかの方が似合うかな......?」

 夏鈴がブツブツと呟きながら、店内を散策する。
 燐華は特に口を出すこともなくついて行く。
 そして、インナーのコーナーにたどり着いた。
 展示されている服をじっくりと眺める夏鈴。

「紺とかそういうのにする?」

 突然夏鈴に聞かれ、焦る燐華。

「か、夏鈴ちゃんのセンスにお任せするよ! わ、私より詳しそうだし......」

「うーん......。じゃあね......」

 夏鈴は黒いインナーを手に取る。

「燐華ちゃんは大人っぽくてかっこいいから、黒が引き締まって見えるかな......?」

 燐華とインナーを重ね合わせ、似合っているかどうか確認する夏鈴。

「......うん! 黒に決定!」

「ず、随分早いね......」

「実は私ファッションあんまり詳しくないんだよねー。いつも人と服を重ね合わせて直感で決めてたりして......」

 少し恥ずかしがりながら言う夏鈴。

「まぁとりあえずインナーを黒にして......。次はアウター見ようか」

 片手に黒のアウターを持った夏鈴は燐華の手を握る。
 そして、アウターのコーナーへ向かっていった。

 それから、夏鈴によるコーディネートは二時間ほど続いた。
 だが、燐華は明らかに体調が悪そうとわかる表情を見せることはなかった。

 店から出ると、風が少し穏やかになっていた。
 燐華は店を出た瞬間、ポケットから包装紙に包まれたガムを取り出した。

「ごめん夏鈴ちゃん。ガム食べてもいい?」

 念のため、夏鈴に断りを入れる。

「いいよいいよガムくらい。気にしないで」

「ありがと」

 燐華はガムの包装紙を解き、口に入れる。
 今日は夏鈴と一緒にいるので、印象を気にしてタバコが吸えない。
 このガムは、そんなタバコを吸いたい欲を抑えるために用意したニコチンガムだ。

「じゃあ、次行こっか。次はねー」


 それから、雑貨屋、スイーツショップなどの店を二人で廻った。
 様々な場所を周り、既に日は沈んでいたが、燐華の調子が悪くなることはなかった。
 むしろ、一緒にいて楽しいとまで思っていた。


 そして、夜の八時。
 あまり夜遅いと危ないということもあり、今日は解散することにした。

「燐華ちゃん! 今日は楽しかったね!」

「うん。そうだね」

 この返事は、燐華の嘘偽りのない本心だった。

「また一緒に出掛けようね! それじゃ、大学で! じゃあねー!」

「うん」

 夏鈴は大きく手を振り、家へ帰っていった。
 そんな夏鈴を、燐華は笑顔で見送った。

 住宅街を歩きながら今日を振り返る夏鈴。
 だが、夏鈴には楽しかったという思いの他に、何か別の思いがあった。

 その頃燐華は、駅の中を歩きながら考え事をしていた。
 よくここまで仲良くなれたなぁ、と。
 少し前までは想像もしなかっただろう。

 燐華は乗り越えたのだ。
 過去のいじめを乗り越え、しかもいじめた人間を許し、完全に仲良くなることができたのだ。

 そう思いながら、燐華は家へと帰っていった。


 夜九時。
 俺は心配で仕方がなかった。
 また倒れてしまっているのではないかという不安で、夕食も喉を通らなかった。

 そんな俺に電話がかかってきた。

「燐華さん!」

 スマホに映し出された燐華の名を見て、即座に電話に出る。

「燐華さん! 無事ですか!?」

 俺は大声で燐華さんの安否を確認する。

「おぉ......。すごい勢いだ......。安心して。問題なかったから」

「よ、良かったぁ......!」

 俺は大きく一息ついた。
 そして、全身から力が抜け、ソファに倒れ込んだ。

「むしろ、すっごく楽しかったよ。服見たりね......それでね......」

 燐華さんがとても楽しそうに話す。
 少し前まであんなに怯えていた燐華さんからは想像もできない。

「それでね......。あ、あれ......?」

 突然、スマホの向こうからすすり泣くような音が聞こえてきた。

「志永くん......! 涙が、涙が止まらなくて......。ごめん......」

「燐華さん......」

 辛いトラウマを乗り越え、仲良くなった。
 その実感が今頃湧いてきて、感極まってしまったのだろう。

「嬉しくて......! 嬉しくて涙が......!」

「......今日はいっぱい泣いてください」

「ご、ごめ......。うわあぁぁぁぁぁん!!!」

 燐華さんの大きな泣き声が、電話越しに伝わってくる。
 その声を聞き、俺の目からも涙が零れ落ちた。


 一方その頃、夏鈴の家にて。

「なんでだろう。なんで......?」

 夏鈴はベッドに座り、思い詰めていた。
 今日は二人で一緒に出掛け、すごく楽しかった。
 それは紛れもない事実だ。

 だが、それを否定しようとしている何かがいる。

「なんでなんでなんでなんでなんで!」

 夏鈴は頭を抱え、叫ぶ。

 そして、次の瞬間。
 夏鈴は突如にやけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...