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七章
65話「黄色」
しおりを挟む私は、自分の事を最低な女だと思う。
明人の事を応援しておきながら、自分が龍馬君と結ばれる可能性に賭けようとしていること。夢という共通点に縋っていること。
11月24日というターニングポイントで起こしたあの事。
すべてひっくるめて、私は自分の事を最低な女だと思う。
「確かに、それは…ダメだな」
コーラを机に置き、溜息を吐きながらそう呟く智明君。
今回の私は、人に頼りすぎてるのかもしれない。
何回も同じことを繰り返してるせいで疲れが出て、思考するという行為を放棄したいと思っているのかもしれない。
思っているかもしれない、か。
自分の事すら分からなくなってきた。
「…私、なんか、分かんなくなってきた」
萌奈さんはもう力を使えなくなった。
これが最後で、これで失敗すれば、もう、やり直すことが、できなくて。
出来る事すべてに手を出そうとした。
頭に響く晶ちゃんの声。
『何年も繰り返して…でも、彩ちゃんが病んで…人生を、辞めようと思わなかった理由に…なれないよ、私は。』
私は、そんな役割を、押し付けようとしていたのか。
押し付けているのか。
「…晶はさ、あんま気にしないと思う」
低いけど、優しい声色でそう呟く智明君。
「晶の事とか、彩ちゃんの事、全部理解してるわけでも、能力持ってるわけでも、ないけど」
「…うん」
智明君が大きく息を吐き、力強い口調でこう言ってくれた。
「…両方に非があって、両方が悪い出来事ってあると思うんだ、俺」
「…」
「彩ちゃんの言葉だけを聞いた俺が、善悪とか、損得?とかを判断すんのはおかしいだろうから何も言わないけど…」
「…」
「…善悪の判断を人任せにして、心の片隅で…許してもらおうとしてる彩ちゃんの事はおかしいと思う」
…そう、か。
「…ただのわがままだけど…私、晶ちゃんと友達に戻りたい」
「うん」
「どうすればいいかな」
「じゃあこれからの事をちゃんと話し合った方がいい」
「…」
しばらくの、沈黙。
「わたし」
「うん?」
「龍馬君が好き」
「…うん」
「龍馬君と、一緒になりたい」
「うん」
「…でも明人を、傷つけたくない」
「だからと言って晶を利用すんのは違うな?」
「…誰の事も、傷つけたくない」
「俺もだよ、誰にも傷付いてほしくない」
コーラを飲む智明君。
ガムシロップを山程入れたコーヒーを飲む私。
沈黙。
その時、気まずい沈黙を破る存在が現れた。朱里ちゃんだった。
「彩ちゃん!智明!呼ばれたから来たよ!」
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「呼んでない…なんで来たんだろ」
顔を見合わせ、お互いの耳に囁き合うと、それを見た朱里ちゃんが突然声を荒げた。
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「二人で真剣になんの話してたの?」
「彩ちゃんのBL妄想聞いてた」
「BL妄想!?それは最終的にエッチな展開になりますか!?」
「お前のそんな姿見たくなかったよ」
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