《五鳳繚乱~運命の紅い痣~》

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第三章:偽装された花嫁(赫連翊(かくれん・よく)登場編)

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第三章:偽装された花嫁


雨上がりの庭園に、琥珀色の陽光が差し込んでいた。蘇玲瓏は露台の縁に腰かけ、膝の上に広げた『本草綱目』のページをめくっていた。七日続いた長雨で湿気を含んだ紙は、指にひっつくような感触があった。

「――明日は西陵国の使者様がお見えになるそうですよ」

ふと聞こえた侍女たちの噂話に、銀の剪刀が彼女の指から滑り落ちた。大理石の床に鋭い音を立てて跳ねた刃先が、足元に咲いていた白牡丹の花弁を切り裂く。

「あの赫連翊(かくれん・よく)様が?でも、どうして突然...」

「噂では、婚礼のご挨拶だとか...」

眉間の赤い痣が突然鋭く疼いた。蘇玲瓏は思わず額に手を当てた。目の前がちらつき、見知らぬ記憶が洪水のように押し寄せてくる。

――金の仮面を付けた男が、祭壇の上で赤子の咽喉を掻き切る。
――血に濡れた小さな手が、虚空を掴む。
――赫連翊と名乗る男が、その血を翡翠の杯に受けて...

「気分が悪いのですか?」

冷たい声とともに、白絹のハンカチが視界に現れた。微かに竜涎香の香りがする。振り向くと、裴雲昭が不自然に硬い表情で立っていた。いつもの紫の官服ではなく、深緑の常着をまとっている。腰に下げた玉佩が、不穏なほど静かに揺れていた。

「西陵からの使者について、何かご存知ですか?」

裴雲昭の長い睫毛が僅かに震えた。遠くから、祝賀の太鼓の音が聞こえてくる。不意に宰相の手が蘇玲瓏の腕を捉えた。その指先は、この季節の気温にしては冷たすぎた。

「婚礼の挨拶回りです」

その瞬間、中庭の門が轟音とともに倒れ、木片が四方に飛び散った。侍女たちの悲鳴が上がる中、紅蓮の紋章を掲げた朱塗りの輿が煙塵を蹴立てて現れた。金糸で縁取られた簾が風に翻り、中から颯爽と飛び出したのは、金の鎧甲に身を包んだ長身の男だった。

赫連翊は優雅に輿から降りると、蘇玲瓏の前にひざまずいた。仮面を外したその顔には、鋭い顎線と、左頬に刻まれた奇妙な痣があった――三百年前、蘇玲瓏の首を絞めた西陵国師と全く同じ位置に。

「ついに見つけました。我が花嫁を」

赫連翊の手が差し出された。その掌には、蘇玲瓏の薬指にぴったり合いそうな金の指輪が光っていた。指輪の内側には、鮮やかな赤で「第七番」と記されている。

裴雲昭の手が剣の柄に滑った。その視線の先には、輿の陰に控える十人余りの侍従が、皆同じ金の仮面を付けているのが見えた。仮面の額には、蘇玲瓏の痣と同じ形の赤い宝石が埋め込まれていた。

「この婚礼は認めぬ」

裴雲昭の声は氷のようだった。しかし赫連翊は涼やかな笑みを浮かべたまま、輿の中から真紅の布に包まれた箱を取り出した。

「聘礼(へいれい)を持参しました。宰相閣下もご覧あれ」

箱の蓋が開かれると、中からは生温かい臭いが立ち上った。蘇玲瓏が息を飲む。箱の中には――人間の心臓が七つ、整然と並べられていた。それぞれに銀の札が付けられ、第一から第六までの番号と日付が記されている。

最後の七つ目の札だけが空白だった。

「これは...」

蘇玲瓏の声が震えた。赫連翊は優雅に箱を閉めると、彼女の耳元に唇を寄せた。

「あなたの『姉妹たち』です。第七番目の花嫁様」

その瞬間、蘇玲瓏の眉間の痣が激しく疼き、視界が真っ赤に染まった。六人の女性が、次々と心臓を抉り取られる幻覚が襲ってくる。六人とも、彼女と同じ顔をしていた――

「離れろ!」

裴雲昭の剣が閃き、赫連翊は軽やかに後退した。しかしその目は、蘇玲瓏の痣から滴り落ちた血の一粒を、貪るように見つめていた。

「来月の満月の夜までにお引き取りいただきます。さもなくば...」

赫連翊の視線が、庭園の隅で遊ぶ侍女の子供たちに向かった。

「八番目の花嫁を探さねばなりませんな」

金の仮面をかぶり直すと、赫連翊は輿に戻っていった。輿の扉が閉まる直前、蘇玲瓏ははっきりと見た――輿の内側には、彼女にそっくりの人形が七体、糸で吊るされていたことを。

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(※赫連翊の名前の読み方について)

「赫連」は古代匈奴の姓氏で「かくれん」と読む

「翊」は「よく」と読み、"輔ける"という意味を持つ

作中では「赫連殿下(かくれんでんか)」や「翊様(よくさま)」など敬称で呼ばれることが多い
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