ネットの友達に会いに行ったら、間違ってべつの美少女と仲良くなった俺のラブコメ

扇 多門丸

文字の大きさ
30 / 39

30話 満腹と幸せの余韻

しおりを挟む
 足取りの重い3人で焼肉屋を出た。
「やばい、やばい。ひさしぶりに、食べ過ぎたよー。スカートきつい」
 雪姫はスカートを直しながら言う。
「わたしも、おなかいっぱい。歩けないわよ。でも、幸せー」
「うん、うん。だなー」
 仲が良さげに、ふたりは肩を寄せ合って歩いていた。
 帰り道、雪姫は駅から電車なので見送って行こうと思った。
 駅の近くにある喫煙所、そこから本日、何度も見た顔があらわれる。
「なんだ、天宮。帰りか?」
 ポケットに携帯の充電器のような丸みを帯びた四角の箱をいれながら、九鬼先生が歩いてくる。喫煙所から出てきたってことは、あれが電子タバコってやつだろう。
「おっす」
「なーにが、おっすだ。見るからに満足した顔をしおって。帰りは電車か?」
「いや、ちかくなんで歩いて帰ります」
「皇樹と奏は?」
 雪姫は話さず、駅を指さすだけだった。
「わたしも近くなので、歩いて帰ります」
「ふむ。遠くなら送ってやろうと思ったんだが……邪魔するのも無粋というやつだろう。歩いて帰れ。じゃあな」
「あっ、九鬼先生。歩くの面倒くさいんで乗っていいですか」
 俺がそういうと、先生は笑いながら下を向く。「まったく、いい度胸だ」と嫌味なく言いながら車のカギを手に見せてくる。
「そこの駐車場から車を持ってくる。乗りたいやつは乗れ。わかっていると思うが助手席は座るなよ」
 そう言い残すと、先生はゆっくりと歩き去る。
 教師と生徒のいらない勘違いを避けろと言われた。俺のいたずら心がうずいた。
「雪姫、また明日な」
「おー、おー。またな雑音。また、あとで」
 雪姫は美月にも手を振って、駅へと歩いて行った。ポニーテールの髪からゴムを引き抜いて歩いていた。ふわりと黒髪が舞うように落ちてきて風に煽られる。後姿も綺麗だと思った。けれど、いつもより重そうな足取りだった。
 あれ、またあとで? なにかチャットでも来るんだろうか。
「奏さん、とっても恰好良いわ。知ってる? 彼女のピアノを弾いてる姿、とっても綺麗なの」
「最近、音楽室に遊びにいってるから知ってる。真剣すぎてこわいけどな」
 雪姫が見えなくなると、美月と歩いて九鬼先生の車に向かう。
 美月はすこしだけ足を止めたけれど、また歩き始めた。
 運転席に九鬼先生が乗った車が駐車場から出て、道の端にとまっていた。黒い大きな車だった。どんな道でも走行できそうな車だ。
 後ろの席の扉をあける。
「お邪魔しまーす。お先にどうぞ」
 車に美月をのせた後、ドアをしめる。
 俺はためらうことなく、助手席にのった。
「天宮ァ、人の話を聞かんか」
「ほら、先生。止まってるといっしょに車に乗ってるのが見られますよ。すげえ、車のシートが革だ。いい車ですね」
「まったく、ほんとうに手のかかる生徒だなお前は。で、どこまで行けばいい?」
「俺、皇樹と家いっしょだから。とりあえず俺んちまで。しばらく、まっすぐで」
 九鬼先生は端正な顔を歪めた。唇の端を吊り上げ、ひくつかせながら言う。
「いま、お前をのせたことを急激に後悔しているところだ。まったく、気にはせんがな。私に関係ないし」
「先生は黙って嫉妬してそう」
「なんだ、グチってもいいのか? 実は最近な、友達の結婚式にどんな顔していけばいいかわからなくなってきたんだ」
「先生もさっさと結婚すればいいんじゃないですか?」
「天宮、お前は知らないようだから教えておこう。結婚はひとりではできないのさ」
「良い言葉ですね。ゼクシィにでも書いてありました?」
「車から蹴り落とされたいか。 皇樹、よく天宮といられるな」
「ふふっ、だって、しぐれといると退屈しないんですもの」
「まったく。若いっていいなあ」
 赤信号で車がとまり、九鬼先生はハンドルの上に肘をついてぶつぶつと若さをひがみ始めた。
「先生、つくってくれた問題集を全部解いたんですけど、感想言っていいですか?」
「よ、よかろう」
 背筋を伸ばした九鬼先生はハンドルを握る。青信号で車が動き出した。俺は、おもしろかったと先生に正直に伝えた。
 感想も半ばに、俺の家の前に車がとまる。
「ありがとうございました」
 美月といっしょに、先生にお礼を言ってから車を降りた。
「ではな」
 それだけ言い残すと先生はすぐに黒い車は発進し、赤いブレーキランプを残して通りを抜けていった。
「美月、ごちそうさま」
「しぐれ、わたしもおなかいっぱいで、スカートがきついわ」
 美月のスカートを見る。みないで、と肩を押された。
「いますぐ着替えたいし、お風呂もはいりたいわ。でも、動きたくないの」
「俺もだ。いますぐリビングのソファに座りたい」
 カギをあけて、玄関に入る。
 美月といっしょに「ふーっ」と大きく息をはいた。ただの食い過ぎだ。
「うふふっ」
「ははっ」
 笑い合ってから、俺はリビングでソファにもたれかかる。
 美月は着替えに自室に行った。
 ひさしぶりに携帯を見た気がする。メッセージが来ている。ブルームーンからだ。
 やっべ、朝に女装した自撮り写真を送ってたの、すっかり忘れてた。
 メッセージを見た。
 俺は大きな笑い声をあげた。口から笑い声をもらしたどころじゃない。家中に響き渡るぐらい声を出して笑った。
 俺の自撮り写真を見たブルームーンが、コメントしていた。
「その制服、謳歌学園だろ。つーか、校内で時雨を見たことあるぞ」
 何度も見返した。
 俺を校内で見たことがある?
 そうか、そうなんだ。同じ学校なんだ。
 ネットで出会ったゲーム友達と、たまたま同じ学校だった。ブルームーンと同じ学校だったのか、俺。
 それを聞いただけなのに、学校サボるんじゃなかったとか、もっと学内の人間の顔を覚えるべきだったとか、いろんな後悔がわいてくる。でも、それ以上に学校に行くのが楽しみでたまらない。
 絶対に見つけてやる。見つけて、同じ部屋でコントローラーを持ってゲームしたい。アニメグッズの店にもいきたいし、イベントにも参加したい。現実で友達になりたい。
 ネットの友人にリアルでも友人付き合いを求めるのは、望み過ぎだろうか?
 俺は自分の部屋に移動して、ブルームーンからもらった紙ナプキンを取り出した。赤いキスマークとバーカという文字。たったそれだけのリアルの縁。ここから絶対捕まえてやると誓っている。
 携帯が震えた。
 ブルームーンからかなと携帯を見るけど、アプリからだった。いつも見ているマイチューブのピアノ配信者が配信をはじめた通知。
 俺はそのままパソコンの前に座って、配信を視聴した。なんだかんだと見れるときは見てしまうピアノの動画配信。配信している人に、見ていることを伝えるためにコメントを書き込んでから、パソコンを置いている机にうつぶせになる。
 また寝てしまいそうだと思いながら、白いキーボードの上を行き来する透明な手を見ていた。
 ほんとうに綺麗だ。
 音色が踊り、心が躍る。
 ピアノが歌う。楽し気に、満足げに、楽しそうに音が走る。
 まどろみのなか、リズムの早いアニソンや流行りのJPOPの曲を思い出しながら、俺はまた、寝落ちした。
 あしたは早く起きようと思いながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...