貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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異臭問題

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「「「「…………」」」」

 静かな室内にカチャカチャという食器の音だけが響く。

「「「「……」」」」

 私を含め、現在四人が別の部屋に隔離され夕食を食べているのだ。それぞれが一定の距離を保ち、離れて食事をしている。全員がニコライさんや、このお屋敷に従事する人たちの服を借り、とりあえず何かを着ているといった感じだ。
 なぜ隔離されているのかというと、私は全身毛だらけで猛烈なアオーン臭がし、厨房に入ることを固く禁じられたからだ。

 宮殿でのティージュ料理の作り方を簡単に説明すると、ピンチヒッターとしてペーターさんとお母様が厨房へと向かってくれた。
 そして私とは違うアレンジのティージュ料理とマイ料理を作ったのだが、これが美味しいのである。

 自由人のペーターさんは、料理も基本を押さえる以外は自由だ。それが面白いアクセントになり、新たな発見ももたらしてくれる。
 そしてお母様は普段は天然でおっとりとしているが、それは性格の面であり手先は器用で何でもやれる人なのだ。説明しただけで作ったことのない料理を再現できるのが素晴らしい。

 私の隣では虚無を通り越し悟りを開いたかのような表情のスイレンが、その隣には青ざめしょぼんとしたお父様が、さらにその隣で半べそのニコライさんがひたすらに手を動かして料理を口に運んでいる。
 誰が食べても、どんな状況でも、この料理は美味しいらしい。

 しかしなぜこんなに重苦しい空気かというと、人智を超えた速さで肩車をされたスイレンは恐怖のあまり漏らしてしまったらしい。分かるわ。私もあの人間ジェットコースターを体験したことがあるのだもの。ただし私は漏らさなかったけども。
 それを頭からかぶったお父様は尿まみれになったことよりも、実の息子であるスイレンの男としてのプライドを傷つけたことを、とてつもなく深く深~く反省をしているらしい。
 要するに私たち三人は臭いの問題で隔離されているのだ。

 ニコライさんはというと、私と同じように全身毛だらけでアオーン臭がするという罪と、スイレンが漏らすまでお父様を囃し立てていたという罪と、厨房に向かったお母様を止めなかったという複数の罪で隔離されたようだ。
 厨房では半分程の料理人がお母様の魅力で倒れてしまったらしい……。この味を作りながら、最後までお母様の魅力に耐え抜いた料理人たちを褒め称えたい。

「全員! 外へ!」

 食べ終わったのを見計らったかのように、エドワードさんの看守のような声が扉の外から聞こえ、私たちは外へと出された。
 囚人ではなくただの臭人の私たちは、お屋敷に入ったところで異臭問題を起こし、すぐさま外に戻され頭から水をかけられた。しかも大量にだ。まるで水行だったが、真冬でなくて本当に良かった。

 入浴という習慣がなく、体を拭くだけの習慣のこの場所では異例中の異例な出来事だ。布を渡されある程度水気を切ると、お屋敷の中の別室に通され、着替えを渡され着替えた。
 そしてまた別室に連れて行かれ、今まで夕食を食べていたのだ。

 なのにだ。また外に出されたものだから、悟りを開いたスイレン以外の私たちは涙目だ。

「エドワード……もう私たちはキレイになったはずですが……」

 このお屋敷の主であるニコライさんが、かなりビクビクしながらエドワードさんに問いかけている。

「いえ! まだ! アオーンの臭いがします! 先ほど! 研究所から! ソープンを運んで来ました! 寝室は! 綺麗に! 使いましょう!!」

 今日一番の大声のエドワードさんがニコライさんを睨んでいる。アオーンの臭いと毛が許せないらしい。私が一番アオーンの臭いがするはずなので、申し訳なさから私も悟りを開きそうになっている。
 それにしてもソープンをわざわざ用意するなんて、私たちはばい菌や劇薬扱いである。スイレンの手前そんなことは口が裂けても言えないが。

 浴槽というものがないのでどうするのかと思っていると、かなり大きな金属のタライが数個、近くに置いてあった。
 それを見たニコライさんが「実験道具の洗浄用の……」とつぶやいたので、普段は何かを洗ったりするものなのだろう。私たちは汚れた洗い物のようだ。

「冷えてまいりましたので! 湯を用意いたしました! 坊ちゃま! この瞬間も! 厨房では湯を沸かし続けております! 他のお客人も! 手伝ってくれています! 感謝しますように!」

 すると玄関からゴードンさんを先頭に使用人たちや、タデやオヒシバまでもがバケツにお湯を入れて運んで来たではないか。さらには衝立なども運ばれて来る。
 最後方にお母様とペーターさんがいるが、なるほど。あの笑顔を見るに、入浴というものを教えたのだろう。

「カレンはこっちよ」

 タライの中にお湯が注がれる様を見ていると、お母様に声をかけられた。衝立で隠してくれている場所へ向かい、服を脱いで巨大タライの中へ入り、半身浴のように湯を楽しむ。
 傍らではお母様がソープンを使い、問題となった衣類を手洗いしている。
 衝立の向こうから聞こえる声からすると、あちらでも半身浴をしているようだが、異臭問題を起こしていないタデたちも湯に浸かっているらしい。

「私も入ろうかしら」

 洗濯が終わったお母様はそう言って服を脱ぎ、私のタライへと入って来た。衝立があって本当に良かった。

「……ん?」

 今日一日を振り返り物思いに耽ていると、どうやら背後からお母様に髪を洗われているようだ。何となく振り返り、現状確認をすると焦った。

「待ってお母様! それ、ソープンでしょう!?」

「えぇそうよ? どうしたの?」

 お母様からすると、ソープンは泡立って洗うことができるものなので、サイガーチなどと同じものだと思ったようだ。
 それは間違いないのだが、成分が違いすぎる。石鹸で髪を洗うとゴワゴワのギシギシになるのを思い出し、必死にそれを止めた。

「ど……どうしましょう……?」

 お母様がオロオロとし始めたが、後の祭りだ。方法はいろいろとあるが、この国ではオリッブという地球で言うところのオリーブオイルがある。厨房にあったのは確認済みなので、後でそれを分けてもらおう。
 そう考えていると、男性陣が騒がしくなる。

「ぬおぉぉぉ! 目が! 目にしみる!!」

「やめろモクレン! 私にまで……目がぁぁ!!」

 お父様とタデの苦痛に満ちた叫び声が聞こえた。あちらもソープンで頭や顔を洗っているに違いない。
 しかしタイミングが悪すぎた。オロオロとしていたお母様がお父様の声に反応している。

「モクレンの美しい髪が!!」

 まさかのお母様が暴走してしまった。お父様の長い髪がワイルドだからと、切ることを許さなかった過去がある。その髪が傷むのを恐れたらしい。
 暴走したお母様は私が止める間もなく、素っ裸のまま衝立の向こう側へ走って行った……。

 当然だが、この場にいた私たち一家以外の者は全て倒れたのは言うまでもない。
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