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カーラさんとニコライさん
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ルームシューズを両手で大事に持ち、ジョーイさんのお店の並びにあるカーラさんのお店を目指した。
「カー……」
いつものように声をかけようとしたが、カーラさんとニコライさんは真面目な顔をして話し合っている。二人の表情は商売人そのもので、いつもの朗らかな二人ではないことに驚き、そして割って入ってはいけないと思い立ち尽くした。
後から来たじいやが「姫様どうされました?」と私に声をかけるとカーラさんたちは私たちの存在に気付き、そしてじいやを呼ぶ。じいやを交えて大人三人が話しているのを見ると、私が子どもだから会話に入れないと悟り少し寂しく感じてしまう。
「じゃあこれで決まりだね!」
カーラさんの大きな声が聞こえ、どうやら無事に取引の価格が決まったようだ。全員が笑顔ではあるがカーラさんの表情を見る限り、いい値段がついたのだと思った。ということは、ヒーズル王国製の野菜などはもっと高値だということだ。思わずこちらもニヤけてしまう。
「カレンちゃん、こっちおいで!」
カーラさんに手招きされ近くに寄ると抱きしめられ、そして耳元で小声で囁かれた。
「おかげでかな~り儲けることができるよ。もちろんカレンちゃんたちもね」
カーラさんは背中に回した腕をほどくと私たちは顔を見合わせニンマリと笑いあった。そしてここに来た理由を思い出した私は口を開く。
「カーラさん、これ」
可愛らしい花のモチーフがついたルームシューズをそっと手渡す。ジョーイさんに言ったのと同じことを伝え、帰ったら家の中で履いてほしいと告げると大声でカーラさんは話し始めた。
「何言ってんだい!今すぐ履き心地を確かめるよ!」
そう言うとどこからか板を持ち出し地面の上に置く。リトールの町特有の靴を脱ぎルームシューズに履き替えるが、あえてなのか通りに面した場所でそれをやっている。
「可愛いねぇ!それに足がすっごく楽だよ!」
何回か足踏みをして履き心地を確かめているようだが、どうやら本心で言っているようだ。カーラさんの声につられて通りを歩く人が何人か興味深そうに見ているので、ジョーイさんのお店に売っていると伝えると数人がそちらの方向へと向かって行く。
「……カレン嬢?私も気になるのですが?」
そこにニコライさんも加わりどういう物なのか詳しく教えてほしいと言われた。聞けばテックノン王国は靴の製造に自信があるそうで、富裕層も貧困層も関係なく靴を履いているそうだ。ニコライさんの足元は限りなく日本で見る革靴に見える。足の形に加工した底に革を取り付けているそうだが、靴底は厚めで靴の中は足にフィットするように凹凸をつけているそうだ。ただ、起きてから寝るまでずっと靴を履き続けるので夜になると足が疲れるらしい。
「今回はリトールの町の分しか作って来なかったの。もうジョーイさんのお店に全部売っちゃって……」
そう言うとニコライさんはマークさんをジョーイさんのお店へと走らせた。すぐにマークさんは戻って来たが、ぞうりを選んだらしい。カーラさんが立っている板の空いたスペースでニコライさんがぞうりに履き替えた。靴下を履いていないので、足が疲れるに加え蒸れることだろう。
「親指と人差し指で挟むように」
私に言われた通りニコライさんは鼻緒を指で挟み、カーラさんのように履き心地を確かめている。
「カレン嬢、こちらも我が国で売りたいのですが?あとその帽子も作ってもらえますか?」
「本当!?嬉しいわ!ただね、糸から作るから思っている以上に作るのが大変なのよ。大量にお渡しすることは出来ないけれど大丈夫かしら?」
目を輝かせたニコライさんに困り顔で返答をする。
「それは希少価値が高いということですね?王都の人々はその謳い文句に弱いので大丈夫です」
人というものはどこの世界でも「希少価値」とか「限定」に弱いようで思わずまた笑ってしまった。
「お渡しするのは国境が出来てからでもいいかしら?それまでにある程度の数は揃えられると思うけれど……」
「えぇ、それで大丈夫ですよ。食料もこちらでハカリを用意しますので、重さを計ってその場で支払います」
日本で生活をしていた時もニコニコ現金払い主義だった私には嬉しい申し出だ。
「そうだわカーラさん。私ね、牧畜をしたいと思っているのだけれどこの町には動物は売っていないわよね?」
ふと思い出したことを口にした。前回も前々回に来た時も動物を売っているのを見たことがない。
「うちは農業だけの町だからねぇ……隣のハーザルの街に行けばいくらでも手に入れることは可能だよ。市場がたくさんあるんだ」
市場という言葉に反応し聞き返すと、カーラさんは続けた。
「シャイアーク国で市場がある一番小さな街だけど、それでも市場だからたくさんの人が来るんだよ。……だからね、カレンちゃんたちが行くのはおすすめしないよ」
この町の人たちは私たちの存在を秘密にしてくれているが、そのハーザルの街ではそうとは限らないとカーラさんは言う。服装も顔立ちも目立ってしまい、下手をしたらシャイアーク王にバレてしまうのではないかとカーラさんは心配をしているようだ。
確かに、と思い悩んでいると意外な救世主が現れた。
「ハーザルの街でしたらこの後向かいますよ?そちらでも待ち合わせをしているのです」
なんとニコライさんが向かうと言うではないか。私は驚きの声を上げた。
「お願いニコライさん!買い物を頼んでもいいかしら?……って何を売っているのか分からないんだけれど」
苦笑いでそう言うとニコライさんはお任せくださいと言うので、動物やこの辺にはない珍しい物を頼んだ。ある程度のお金を渡そうとしたが、戻って来てから精算しようということになり一度お金を仕舞う。そして「ただ……」とバツの悪い顔をしたニコライさんが口を開いた。
「ハーザルの街には一時間ほどで着きますが、待ち合わせの人とは大体の日にちしか決めていないので帰りが数日後になるかもしれないのです……すみません、詳しくお話することは出来ないのです」
そう言われてしまえば何も言い返せなくなってしまう。困ってじいやを見るとじいやは笑っている。
「姫様、おババの占い通りに進んでいるのではないですかな?」
そういえばヒーズル王国を出る時に「成功」「仲間」、そして帰りが遅くなると言っていた。それを思い出した私はニコライさんにお願いしますと頭を下げた。
「カー……」
いつものように声をかけようとしたが、カーラさんとニコライさんは真面目な顔をして話し合っている。二人の表情は商売人そのもので、いつもの朗らかな二人ではないことに驚き、そして割って入ってはいけないと思い立ち尽くした。
後から来たじいやが「姫様どうされました?」と私に声をかけるとカーラさんたちは私たちの存在に気付き、そしてじいやを呼ぶ。じいやを交えて大人三人が話しているのを見ると、私が子どもだから会話に入れないと悟り少し寂しく感じてしまう。
「じゃあこれで決まりだね!」
カーラさんの大きな声が聞こえ、どうやら無事に取引の価格が決まったようだ。全員が笑顔ではあるがカーラさんの表情を見る限り、いい値段がついたのだと思った。ということは、ヒーズル王国製の野菜などはもっと高値だということだ。思わずこちらもニヤけてしまう。
「カレンちゃん、こっちおいで!」
カーラさんに手招きされ近くに寄ると抱きしめられ、そして耳元で小声で囁かれた。
「おかげでかな~り儲けることができるよ。もちろんカレンちゃんたちもね」
カーラさんは背中に回した腕をほどくと私たちは顔を見合わせニンマリと笑いあった。そしてここに来た理由を思い出した私は口を開く。
「カーラさん、これ」
可愛らしい花のモチーフがついたルームシューズをそっと手渡す。ジョーイさんに言ったのと同じことを伝え、帰ったら家の中で履いてほしいと告げると大声でカーラさんは話し始めた。
「何言ってんだい!今すぐ履き心地を確かめるよ!」
そう言うとどこからか板を持ち出し地面の上に置く。リトールの町特有の靴を脱ぎルームシューズに履き替えるが、あえてなのか通りに面した場所でそれをやっている。
「可愛いねぇ!それに足がすっごく楽だよ!」
何回か足踏みをして履き心地を確かめているようだが、どうやら本心で言っているようだ。カーラさんの声につられて通りを歩く人が何人か興味深そうに見ているので、ジョーイさんのお店に売っていると伝えると数人がそちらの方向へと向かって行く。
「……カレン嬢?私も気になるのですが?」
そこにニコライさんも加わりどういう物なのか詳しく教えてほしいと言われた。聞けばテックノン王国は靴の製造に自信があるそうで、富裕層も貧困層も関係なく靴を履いているそうだ。ニコライさんの足元は限りなく日本で見る革靴に見える。足の形に加工した底に革を取り付けているそうだが、靴底は厚めで靴の中は足にフィットするように凹凸をつけているそうだ。ただ、起きてから寝るまでずっと靴を履き続けるので夜になると足が疲れるらしい。
「今回はリトールの町の分しか作って来なかったの。もうジョーイさんのお店に全部売っちゃって……」
そう言うとニコライさんはマークさんをジョーイさんのお店へと走らせた。すぐにマークさんは戻って来たが、ぞうりを選んだらしい。カーラさんが立っている板の空いたスペースでニコライさんがぞうりに履き替えた。靴下を履いていないので、足が疲れるに加え蒸れることだろう。
「親指と人差し指で挟むように」
私に言われた通りニコライさんは鼻緒を指で挟み、カーラさんのように履き心地を確かめている。
「カレン嬢、こちらも我が国で売りたいのですが?あとその帽子も作ってもらえますか?」
「本当!?嬉しいわ!ただね、糸から作るから思っている以上に作るのが大変なのよ。大量にお渡しすることは出来ないけれど大丈夫かしら?」
目を輝かせたニコライさんに困り顔で返答をする。
「それは希少価値が高いということですね?王都の人々はその謳い文句に弱いので大丈夫です」
人というものはどこの世界でも「希少価値」とか「限定」に弱いようで思わずまた笑ってしまった。
「お渡しするのは国境が出来てからでもいいかしら?それまでにある程度の数は揃えられると思うけれど……」
「えぇ、それで大丈夫ですよ。食料もこちらでハカリを用意しますので、重さを計ってその場で支払います」
日本で生活をしていた時もニコニコ現金払い主義だった私には嬉しい申し出だ。
「そうだわカーラさん。私ね、牧畜をしたいと思っているのだけれどこの町には動物は売っていないわよね?」
ふと思い出したことを口にした。前回も前々回に来た時も動物を売っているのを見たことがない。
「うちは農業だけの町だからねぇ……隣のハーザルの街に行けばいくらでも手に入れることは可能だよ。市場がたくさんあるんだ」
市場という言葉に反応し聞き返すと、カーラさんは続けた。
「シャイアーク国で市場がある一番小さな街だけど、それでも市場だからたくさんの人が来るんだよ。……だからね、カレンちゃんたちが行くのはおすすめしないよ」
この町の人たちは私たちの存在を秘密にしてくれているが、そのハーザルの街ではそうとは限らないとカーラさんは言う。服装も顔立ちも目立ってしまい、下手をしたらシャイアーク王にバレてしまうのではないかとカーラさんは心配をしているようだ。
確かに、と思い悩んでいると意外な救世主が現れた。
「ハーザルの街でしたらこの後向かいますよ?そちらでも待ち合わせをしているのです」
なんとニコライさんが向かうと言うではないか。私は驚きの声を上げた。
「お願いニコライさん!買い物を頼んでもいいかしら?……って何を売っているのか分からないんだけれど」
苦笑いでそう言うとニコライさんはお任せくださいと言うので、動物やこの辺にはない珍しい物を頼んだ。ある程度のお金を渡そうとしたが、戻って来てから精算しようということになり一度お金を仕舞う。そして「ただ……」とバツの悪い顔をしたニコライさんが口を開いた。
「ハーザルの街には一時間ほどで着きますが、待ち合わせの人とは大体の日にちしか決めていないので帰りが数日後になるかもしれないのです……すみません、詳しくお話することは出来ないのです」
そう言われてしまえば何も言い返せなくなってしまう。困ってじいやを見るとじいやは笑っている。
「姫様、おババの占い通りに進んでいるのではないですかな?」
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