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国境にて
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油を搾った日の夕食時に、タデが中心となりリトールの町へ大工の修行に行くことをお父様に話すとすんなりとOKをもらえた。翌朝には荷物と売り物をまとめ、何かの為にと買っておいた小瓶数本に味見をしないまま濾された少量の油を入れ私たちは旅立った。
テックノン王国との国境予定地付近にある小屋に泊まったが、見張りの者の話ではここ数日は爆破の音が聞こえないらしい。何かあったのだろうか? などと話しながらも連絡手段もないので、リトールの町の人が何か知っているかもと話しながら私たちは国境を目指した。
「先生ぇぇぇ!」
じいやを恋しがっていたジェイソンさんはいつものように半べそだが、どれだけじいやのことを好きなのだろうか? 何回かじいやに沈められている気がするが、それを毎回覚えていないのは愛の力なのだろうか。
「ジェイソンよ、なんだか久しぶりな気がするのう」
じいやが微笑みかけるとジェイソンさんは目を輝かせる。絵面はあれだがまるで恋する乙女だ。
「はい! 先日は王妃様とこちらの姫君、同じ顔をした王子がいらっしゃってましたからね! 本当に姫君と王子だとは知らずに……」
「だからジェイソンさんってば! 普通にして!」
急に畏まりそうになるジェイソンさんにそう言うと困り顔で頭を掻いている。
「姫様がそう言うのだから普通に接してやってくれ。うちの姫様は畏まられるのを嫌うのでな」
じいやの発言に肯定するようにスイレンと共にウンウンと頷くとジェイソンさんは話題を変える。
「先日リトールの町に買い物に行った時に聞いたのですが、なんでもそちらの姫君が素晴らしいものばかり作るとか。今日もその納品ですか?」
「それもあるけど……ね!」
じいやの顔を見て袖を引っ張ると、じいやはまるでいたずらっ子のような顔で笑う。
「お主の家を建てる為に必要な技術を学びにな」
そう言われたジェイソンさんは「は? え?」と繰り返し、どうやら混乱しているようである。
「レンゲ様に住みたいと言ったのであろう? 今は住めるような家もないのでな。まずは民たちの家が最優先だが、家がなければ移住もできまい。口の堅いお主であれば国家機密も漏らさんだろうし、何よりも力を使う仕事が多いのだ。有り余った力をヒーズル王国で存分に使ってもらうぞ」
二人の間にある絆がどれほどのものなのか分からなかったが、じいやがここまで言うのならばジェイソンさんは本当に信用されているのだろう。そのジェイソンさんもまたシャイアーク国民でありながら、その王よりもじいやを崇拝している。ジェイソンさんがヒーズル王国に来たらきっともっと楽しく、そして刺激的な毎日になることだろう。
「お前たち聞いたか! 先生の国に住めば伝説の鬼教官の稽古をつけてもらえるぞ! あのきつかった日々も今思い返せば幸せでしかなかった!」
そのジェイソンさんの言葉を聞いたじいやが反応する。
「待て……ジェイソン一人の話ではないのか……?」
私とスイレン、そしてヒイラギは前回この場にいたので隊員たちも住みたがっているのは話の流れで知っていたが、そのことは特にじいやには言っていなかった。隊員たちはシャイアーク王よりもジェイソンさんに忠誠を誓っており、そのジェイソンさんが崇拝するじいやを神か何かだと勘違いしている節もあるが全員が移住希望である。人によっては年老いた両親や、しばらく会っていない奥さんや子どもと暮らしたいと言う者までいる。
「待て待て……さすがにすぐには無理だ。それにそちらのご家族たちはシャイアーク国での一般的な生活が長いのであろう? 基本的に森の民として生活をしてもらうことになるが……その辺の話し合いは済んでおるのか?」
当たり前のことをじいやが聞くと、どうやら隊員たちは自分で勝手に移住を決めているようで、家族とは話し合いも何もしていないと言うではないか。なので順番に暇を取って故郷へ帰って話し合いをするとまで言っている。かなり本気のようだ。
「本当に大丈夫? 私たちの民は受け入れてくれるでしょうけれど、生活は今までと大きく変わるはずよ。とは言っても、今のヒーズル王国も森の民の生活とはかけ離れているのでしょうけど」
畑を作り水路を作りと生活を激変させてしまったことを思い出し、苦笑いで振り返り同行している皆の顔を見ると真面目な表情をしている。
「姫のおかげで今の生活がある」
「そうだよ。姫の知恵のおかげでどんどん生活が楽で楽しいものになっているよ」
タデとヒイラギのその言葉で泣きそうになってしまったが、察してくれたスイレンが私の手を握る。そのスイレンを見るとニッコリと笑って口を開いた。
「僕の知らない世界を教えてくれてありがとう」
誰のどの言葉に心が揺さぶられたのか自分でも分からないが、私はその場で涙腺が崩壊し子どものように大泣きをしてしまった。周りから見ればまだ子どもの私はあやされたり宥められたりと大騒ぎの国境越えとなってしまった。
テックノン王国との国境予定地付近にある小屋に泊まったが、見張りの者の話ではここ数日は爆破の音が聞こえないらしい。何かあったのだろうか? などと話しながらも連絡手段もないので、リトールの町の人が何か知っているかもと話しながら私たちは国境を目指した。
「先生ぇぇぇ!」
じいやを恋しがっていたジェイソンさんはいつものように半べそだが、どれだけじいやのことを好きなのだろうか? 何回かじいやに沈められている気がするが、それを毎回覚えていないのは愛の力なのだろうか。
「ジェイソンよ、なんだか久しぶりな気がするのう」
じいやが微笑みかけるとジェイソンさんは目を輝かせる。絵面はあれだがまるで恋する乙女だ。
「はい! 先日は王妃様とこちらの姫君、同じ顔をした王子がいらっしゃってましたからね! 本当に姫君と王子だとは知らずに……」
「だからジェイソンさんってば! 普通にして!」
急に畏まりそうになるジェイソンさんにそう言うと困り顔で頭を掻いている。
「姫様がそう言うのだから普通に接してやってくれ。うちの姫様は畏まられるのを嫌うのでな」
じいやの発言に肯定するようにスイレンと共にウンウンと頷くとジェイソンさんは話題を変える。
「先日リトールの町に買い物に行った時に聞いたのですが、なんでもそちらの姫君が素晴らしいものばかり作るとか。今日もその納品ですか?」
「それもあるけど……ね!」
じいやの顔を見て袖を引っ張ると、じいやはまるでいたずらっ子のような顔で笑う。
「お主の家を建てる為に必要な技術を学びにな」
そう言われたジェイソンさんは「は? え?」と繰り返し、どうやら混乱しているようである。
「レンゲ様に住みたいと言ったのであろう? 今は住めるような家もないのでな。まずは民たちの家が最優先だが、家がなければ移住もできまい。口の堅いお主であれば国家機密も漏らさんだろうし、何よりも力を使う仕事が多いのだ。有り余った力をヒーズル王国で存分に使ってもらうぞ」
二人の間にある絆がどれほどのものなのか分からなかったが、じいやがここまで言うのならばジェイソンさんは本当に信用されているのだろう。そのジェイソンさんもまたシャイアーク国民でありながら、その王よりもじいやを崇拝している。ジェイソンさんがヒーズル王国に来たらきっともっと楽しく、そして刺激的な毎日になることだろう。
「お前たち聞いたか! 先生の国に住めば伝説の鬼教官の稽古をつけてもらえるぞ! あのきつかった日々も今思い返せば幸せでしかなかった!」
そのジェイソンさんの言葉を聞いたじいやが反応する。
「待て……ジェイソン一人の話ではないのか……?」
私とスイレン、そしてヒイラギは前回この場にいたので隊員たちも住みたがっているのは話の流れで知っていたが、そのことは特にじいやには言っていなかった。隊員たちはシャイアーク王よりもジェイソンさんに忠誠を誓っており、そのジェイソンさんが崇拝するじいやを神か何かだと勘違いしている節もあるが全員が移住希望である。人によっては年老いた両親や、しばらく会っていない奥さんや子どもと暮らしたいと言う者までいる。
「待て待て……さすがにすぐには無理だ。それにそちらのご家族たちはシャイアーク国での一般的な生活が長いのであろう? 基本的に森の民として生活をしてもらうことになるが……その辺の話し合いは済んでおるのか?」
当たり前のことをじいやが聞くと、どうやら隊員たちは自分で勝手に移住を決めているようで、家族とは話し合いも何もしていないと言うではないか。なので順番に暇を取って故郷へ帰って話し合いをするとまで言っている。かなり本気のようだ。
「本当に大丈夫? 私たちの民は受け入れてくれるでしょうけれど、生活は今までと大きく変わるはずよ。とは言っても、今のヒーズル王国も森の民の生活とはかけ離れているのでしょうけど」
畑を作り水路を作りと生活を激変させてしまったことを思い出し、苦笑いで振り返り同行している皆の顔を見ると真面目な表情をしている。
「姫のおかげで今の生活がある」
「そうだよ。姫の知恵のおかげでどんどん生活が楽で楽しいものになっているよ」
タデとヒイラギのその言葉で泣きそうになってしまったが、察してくれたスイレンが私の手を握る。そのスイレンを見るとニッコリと笑って口を開いた。
「僕の知らない世界を教えてくれてありがとう」
誰のどの言葉に心が揺さぶられたのか自分でも分からないが、私はその場で涙腺が崩壊し子どものように大泣きをしてしまった。周りから見ればまだ子どもの私はあやされたり宥められたりと大騒ぎの国境越えとなってしまった。
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