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新たな生産
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美樹が何にでも興味を示し、特に食に関して貪欲に調べる人物だったことに感謝しよう。
「聞いてちょうだい」
私がこのように切り出す時は何かの前兆なのを皆は知っている。大人たちはその内容がどんなに大変なことであろうと挫けない。むしろそれを楽しみ乗り越えようとする。なので私が何かを言うときは興味を示して耳を傾けてくれるのだ。その証拠にお父様はわくわくとした様子で既に笑顔だ。
「向こうの畑に植えたデーツは確実に甘いものよね? そしてここに植えたデーツは甘いかどうかも分からない」
デーツの幹に触れ、上を見上げながらそう言うと大人たちはうんうんと相槌を打つ。
「確実に甘いものは『神の恵み』として売るつもりよ。脇芽からも充分に増えるからこれからも困ることはないわ。ただ、私は甘いかどうかも分からないこのデーツの木のことをずっと考えていたの。この木だって脇芽が出れば増えるし、種を植えたらある意味無限に増えるわ」
まだ私が何を言いたいのか分からない大人たちは頷きながらもだんだんと首を捻り始める。
「そして畑には今、テンサインという植物が植えられているわ。これは砂糖の原料よ。いつも世話をしているエビネなら良く知っているけれど、とにかく成長が遅いの。そのせいできっと砂糖は貴重品なのよ」
その貴重と言われる砂糖を私は料理に惜しみなく使っているので減るのが早い。ヒーズル王国の生産品を売ることで最近は少しお金が増えているが、砂糖を大量購入するには少し躊躇してしまうのだ。
「私が昔いた世界にはたくさんの種類の砂糖があったの。私がいた国ではあまり馴染みがなかったけれど、ヤシの木からも砂糖を作れるらしいのよ。オアシスに生えているココナッツも、このデーツも『ヤシ』という種類の木よ」
ヤシの木から作る砂糖は『パームシュガー』と呼ばれ、正確には『サトウヤシ』から作られるものがほとんどだそうだが、ココナッツの成るココヤシから作られた砂糖はココナッツシュガーと呼ばれるし、デーツの木ことナツメヤシからも作ることが出来るのだ。
大人たちは私が何をしたいのか理解したようで、男性陣は「おぉっ!」と歓声を上げ、女性陣は「まぁ!」と口元を手で覆い驚いている。
「砂糖はどう作るのだ?」
既にやる気に満ち溢れているお父様は食い気味に私に質問する。
「油ほど手間暇はかからないけれど、大変よ?」
念の為に確認するが、大人たちは「大変だからこそ楽しい」と言うではないか。前向きで積極的な『森の民』の気質に笑みがこぼれる。
「ただ一つ言うとしたら完全に花が咲く前の花芽を使うから、その木は花を咲かすことはないわ」
「だが甘いデーツは畑で育てられているから、このデーツは花を咲かせなくても良いということだな」
「そういうことね」
幹を傷付けて採取する方法もあるが、形から入りたい私は花芽を使う一般的な方法を選んだ。お父様は早くやり方を教えてくれと私にせがみ、皆に笑われている。
まずはお父様に落ち着くように言い、採取方法について説明をする。
「花がついている茎と言うのかしら? 枝と言うのかしら? それを切り落とすの。そこに瓶でも何でも良いから括り付けておくと勝手に樹液が溜まるわ。あとはそれを煮詰めるだけよ」
そこまで言うとお父様とタデは勝手に人員を振り分ける。お母様もハコベさんも木登りは平気らしいが、お父様とタデは「危ない」と木登りを禁じた。代わりになぜか私が木登り組である。娘のことは気遣ってくれないのかしら? お転婆なのは否定しないけれど。
カッシとナーラの若木を降ろしに行きつつ、全員で樹液を集めるのに適した容器を持ってデーツ並木に集まる。お母様とハコベさん、エビネには大きな鍋を運んで来てもらうように頼み、その鍋がはまるかまどを作ってほしいと伝えた。大人の男性であるエビネに「姫様、頑張ってください」と応援されるのは微妙に解せないが、童話に出てくるようなか弱いお姫様ではない私は体を動かすほうが良いので気にしないことにした。だがナタと縄、そして容器を体に括り付け木に登って行く途中、やはりこんな姫はどこにもいないと今回も一人で静かに思った。
何本もの木を行き来し、数時間もすると大量の樹液を採取することが出来た。ナーの花畑に撒いている水の恩恵を受けているのか、想像以上の樹液の量だ。
「はい! みんな今すぐ飲んで!」
これから煮詰めるので口をつけて飲んでも構わないだろう。皆で回し飲みをすると砂糖水をさらに薄めたような白っぽい樹液のジュースに皆が目を丸くする。
「甘いわね!」
「美味いな! だがなぜそんなに急いでいるのだ?」
お母様とハコベさんは樹液を気に入ってくれたようだ。そしてお父様は疑問を口にした。
「前世での知識によると、この飲み物はすぐに発酵してお酒になるらしいのよ。夕食の時間にはお酒になっていると思うわ。半分を残して夜に飲んだらどうかしら?」
「酒か。久しく飲んでいないな」
酒という言葉に全員が驚いている。森に住んでいた頃、物々交換で近くの町から酒をもらったことがあったらしい。あまり回数も飲んだことはないらしいが、量も少なかったためほろ酔いくらいでとても良い気分になったとお父様は語る。
昼はとうに過ぎているけれど、今から目一杯仕事をするわよ!
「聞いてちょうだい」
私がこのように切り出す時は何かの前兆なのを皆は知っている。大人たちはその内容がどんなに大変なことであろうと挫けない。むしろそれを楽しみ乗り越えようとする。なので私が何かを言うときは興味を示して耳を傾けてくれるのだ。その証拠にお父様はわくわくとした様子で既に笑顔だ。
「向こうの畑に植えたデーツは確実に甘いものよね? そしてここに植えたデーツは甘いかどうかも分からない」
デーツの幹に触れ、上を見上げながらそう言うと大人たちはうんうんと相槌を打つ。
「確実に甘いものは『神の恵み』として売るつもりよ。脇芽からも充分に増えるからこれからも困ることはないわ。ただ、私は甘いかどうかも分からないこのデーツの木のことをずっと考えていたの。この木だって脇芽が出れば増えるし、種を植えたらある意味無限に増えるわ」
まだ私が何を言いたいのか分からない大人たちは頷きながらもだんだんと首を捻り始める。
「そして畑には今、テンサインという植物が植えられているわ。これは砂糖の原料よ。いつも世話をしているエビネなら良く知っているけれど、とにかく成長が遅いの。そのせいできっと砂糖は貴重品なのよ」
その貴重と言われる砂糖を私は料理に惜しみなく使っているので減るのが早い。ヒーズル王国の生産品を売ることで最近は少しお金が増えているが、砂糖を大量購入するには少し躊躇してしまうのだ。
「私が昔いた世界にはたくさんの種類の砂糖があったの。私がいた国ではあまり馴染みがなかったけれど、ヤシの木からも砂糖を作れるらしいのよ。オアシスに生えているココナッツも、このデーツも『ヤシ』という種類の木よ」
ヤシの木から作る砂糖は『パームシュガー』と呼ばれ、正確には『サトウヤシ』から作られるものがほとんどだそうだが、ココナッツの成るココヤシから作られた砂糖はココナッツシュガーと呼ばれるし、デーツの木ことナツメヤシからも作ることが出来るのだ。
大人たちは私が何をしたいのか理解したようで、男性陣は「おぉっ!」と歓声を上げ、女性陣は「まぁ!」と口元を手で覆い驚いている。
「砂糖はどう作るのだ?」
既にやる気に満ち溢れているお父様は食い気味に私に質問する。
「油ほど手間暇はかからないけれど、大変よ?」
念の為に確認するが、大人たちは「大変だからこそ楽しい」と言うではないか。前向きで積極的な『森の民』の気質に笑みがこぼれる。
「ただ一つ言うとしたら完全に花が咲く前の花芽を使うから、その木は花を咲かすことはないわ」
「だが甘いデーツは畑で育てられているから、このデーツは花を咲かせなくても良いということだな」
「そういうことね」
幹を傷付けて採取する方法もあるが、形から入りたい私は花芽を使う一般的な方法を選んだ。お父様は早くやり方を教えてくれと私にせがみ、皆に笑われている。
まずはお父様に落ち着くように言い、採取方法について説明をする。
「花がついている茎と言うのかしら? 枝と言うのかしら? それを切り落とすの。そこに瓶でも何でも良いから括り付けておくと勝手に樹液が溜まるわ。あとはそれを煮詰めるだけよ」
そこまで言うとお父様とタデは勝手に人員を振り分ける。お母様もハコベさんも木登りは平気らしいが、お父様とタデは「危ない」と木登りを禁じた。代わりになぜか私が木登り組である。娘のことは気遣ってくれないのかしら? お転婆なのは否定しないけれど。
カッシとナーラの若木を降ろしに行きつつ、全員で樹液を集めるのに適した容器を持ってデーツ並木に集まる。お母様とハコベさん、エビネには大きな鍋を運んで来てもらうように頼み、その鍋がはまるかまどを作ってほしいと伝えた。大人の男性であるエビネに「姫様、頑張ってください」と応援されるのは微妙に解せないが、童話に出てくるようなか弱いお姫様ではない私は体を動かすほうが良いので気にしないことにした。だがナタと縄、そして容器を体に括り付け木に登って行く途中、やはりこんな姫はどこにもいないと今回も一人で静かに思った。
何本もの木を行き来し、数時間もすると大量の樹液を採取することが出来た。ナーの花畑に撒いている水の恩恵を受けているのか、想像以上の樹液の量だ。
「はい! みんな今すぐ飲んで!」
これから煮詰めるので口をつけて飲んでも構わないだろう。皆で回し飲みをすると砂糖水をさらに薄めたような白っぽい樹液のジュースに皆が目を丸くする。
「甘いわね!」
「美味いな! だがなぜそんなに急いでいるのだ?」
お母様とハコベさんは樹液を気に入ってくれたようだ。そしてお父様は疑問を口にした。
「前世での知識によると、この飲み物はすぐに発酵してお酒になるらしいのよ。夕食の時間にはお酒になっていると思うわ。半分を残して夜に飲んだらどうかしら?」
「酒か。久しく飲んでいないな」
酒という言葉に全員が驚いている。森に住んでいた頃、物々交換で近くの町から酒をもらったことがあったらしい。あまり回数も飲んだことはないらしいが、量も少なかったためほろ酔いくらいでとても良い気分になったとお父様は語る。
昼はとうに過ぎているけれど、今から目一杯仕事をするわよ!
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