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ヤシの砂糖とお酒
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上手く鍋がはまったかまどに火を起こす。その鍋は樹液で満たされ、風が無くとも甘い香りが辺りに漂う。かなり大きな鍋に樹液を入れてもまだ大量に残っているので、直射日光に当てているのもどうかという話になりお父様とタデ、エビネが自宅まで運ぶことになった。私とお母様、ハコベさんは薪を入れ続け火力を上げることに専念した。
火力が上がるにつれ鍋には気泡が現れるが、それと同時に鍋の汚れも浮いてくる。洗剤もなく食器などを洗う道具もないので仕方がないと言えば仕方がないのだが。その生活に慣れてしまっていたので気にしていなかったが、日本の家庭に必ずあると言っても過言ではない束子の材料はこの国にある。美樹の家では束子の限界まで使っていたので、最終的には毛の部分が抜け落ちどう作られているのかは知っている。今度作ってみることにしよう。
「お母様、ハコベさん、その浮いている黒いものや茶色のものは鍋の汚れよ。取り除きましょう」
かき混ぜる為に持ってきたヘラなどでなんとか取り除こうとするが、大きなものは取れても小さなものはなかなか取れない。だんだんとイライラしてきた私はぼそっと呟いた。
「……売り物にするわけではないし、あの汚れは元々は食べ物よ……もうこのまま作ってしまいましょう」
大雑把な私は大雑把すぎる発言をしてしまった。お母様はお父様と私の大雑把さに慣れているので「そう」とすぐに納得したが、ハコベさんは「え……」と引いている。が、どうすることも出来ないのでやがてハコベさんも諦めたようだ。
樹液を沸騰させればさせるほど周囲に甘い香りが漂うが、その体中にベトベトと纏わり付くような匂いがさらに暑さを感じさせる。樹液を運び終えた男性陣が加わり交代で鍋の中を混ぜるが、煮詰まる程に樹液は茶色く変色して重さを増し、後半は体力お化けであるお父様がかき混ぜ続けた。
ほとんど水分がなくなった頃にヤケドに気を付けながら皆でかまどから鍋を降ろす。火力を失った樹液は次第に固まり始めるが、空気を混ぜ合わせるように撹拌し続けることによってより良い砂糖になると本で読んだことがある。暑さと疲れでもうこのまま固めてしまおうとも思ったが、森の民の気質なのか食に対する妥協を許すことが出来ずに交代で混ぜ続けた。
「あとは……ハァハァ……自然に固まるのを待ちましょう……」
もうかき混ぜるのが無理な程に樹液は凝縮されている。私たちは暑さで完全にバテてしまい、座り込んで肩で息をしている。もちろんお父様だけがケロッとしているのだが。
────
私とお母様、ハコベさんはなかなか体力が回復しなかったので夕食作りは民たちに任せることにした。酒を飲むと塩気のある食べ物を欲しがることが予想されたので、ミィソやセウユを使うような食べ物をたくさん作るように頼んだ。肉体労働が出来ないお年寄りたちは「頼ってくれて嬉しい」と張り切って料理をしてくれる。私が今までに作った料理から森の民伝統の料理まで多種多様な料理を手際よく作ってくれる。『お年寄りだから……』と遠慮をしていた部分があったが、喜んで料理を作る顔を見ているともっと料理を任せようかと思う。
「カレン」
ふいにお父様に呼ばれた。
「カレンがいた場所では皆酒を飲むのか?」
「えぇ。男も女も関係なく酒を飲むわよ? ただ二十歳を過ぎなければ飲めないけれど」
そう言うとお父様はニヤリと笑う。
「そうか。ならば子どもたちは酒は禁止だな」
お父様はそう言うと酒に変わった樹液を食卓へ運ぶ。せめて一口味見をとせがんだが「絶対に駄目だ」と言われてしまった。容器の中を見ると見慣れた酒ではなく、白濁した微炭酸の飲み物といった感じだがやはりアルコール臭はする。
食卓に料理が並び終えるとお父様は席に着き声を上げる。
「ブルーノ殿、ジェイソン殿、今日はタデが手伝えなくてすまなかった。今日は酒と砂糖を作っていたのだ。存分に飲んでくれ。ただ子どもたちは駄目だ。その代わり大人たちよりも砂糖をやろう」
その言葉と共に私やお母様はコップに酒を入れ大人たちに渡していく。子どもたちには不格好な砂糖の塊を多めに渡す。
「いやいや、謝罪などいらないが……酒と砂糖なんて簡単に作れないだろう!?」
ブルーノさんはこの国に来て何回目か分からない驚きの声を上げる。放っておいても酒が出来ると言っても信じてもらえないだろうから「まぁまぁ」とあしらい酒を飲ませた。
「甘いな」
リトールの町は今ではテックノン王国製のワインが売られている。その味を想像していたのだろうが、ヤシの酒は噂通り甘いらしい。そして砂糖の塊をかじった者たちも「美味しい!」と声を上げる。スイレンも夢中で砂糖を口に入れている。
酒が入ったことによりいつも以上に夕食が盛り上がる。大人たちは飲む気満々となり、完全に酔う前に照明用の焚き火を作り始め語り合う。どこの世界でも酔った本人たちは楽しいが、その子どもたちは置いてけぼり状態となり、飽きた子どもたちは家に帰り眠りにつく。スイレンも「眠い」と言い出し先に家に戻ってしまった。私は子どもで素面だが大人たちとの会話が楽しく残った。
日々何かしら事件が起こるヒーズル王国だが、酒の席で事件が起こらないわけがない。一人、また一人と酔い潰れ倒れていく。その様子を見てまだ動ける者は潰れた者を担いで帰路につく。日本の飲み屋街のような光景が起こっているのだ。今の今まで忘れていたが、この酒は時間と共に発酵が進む。今のアルコール度数はどれくらいになっているのだろうか?
お父様は声が大きくなるくらいで変わらないように見えるが、座ったまま酔い潰れて寝ているブルーノさんに語り続けているのを見ると充分に酔っているようだ。お母様とハコベさん、ナズナさんは地面で寝ているし、ヒイラギは座って一人で笑っている。タデに至っては「私はハコベがいなければ何も出来ない男なんだ!」と泣きながらヒイラギに愛を囁くどころか叫んでいる。
そんな中ジェイソンさんが盛大にリバースをしてしまった。それを見たじいやは「貴様! 姫様が作ったものを吐くとは修練が足りん!」と激昂し、ジェイソンさんは「先生! すみません!」と泣き鬼教官と教え子の関係に戻っている。
もうどうしたら良いのか分からなくなった私は、全員が潰れるまで料理を食べたり片付けたりと大人たちを放置することに決めたのだった……。
火力が上がるにつれ鍋には気泡が現れるが、それと同時に鍋の汚れも浮いてくる。洗剤もなく食器などを洗う道具もないので仕方がないと言えば仕方がないのだが。その生活に慣れてしまっていたので気にしていなかったが、日本の家庭に必ずあると言っても過言ではない束子の材料はこの国にある。美樹の家では束子の限界まで使っていたので、最終的には毛の部分が抜け落ちどう作られているのかは知っている。今度作ってみることにしよう。
「お母様、ハコベさん、その浮いている黒いものや茶色のものは鍋の汚れよ。取り除きましょう」
かき混ぜる為に持ってきたヘラなどでなんとか取り除こうとするが、大きなものは取れても小さなものはなかなか取れない。だんだんとイライラしてきた私はぼそっと呟いた。
「……売り物にするわけではないし、あの汚れは元々は食べ物よ……もうこのまま作ってしまいましょう」
大雑把な私は大雑把すぎる発言をしてしまった。お母様はお父様と私の大雑把さに慣れているので「そう」とすぐに納得したが、ハコベさんは「え……」と引いている。が、どうすることも出来ないのでやがてハコベさんも諦めたようだ。
樹液を沸騰させればさせるほど周囲に甘い香りが漂うが、その体中にベトベトと纏わり付くような匂いがさらに暑さを感じさせる。樹液を運び終えた男性陣が加わり交代で鍋の中を混ぜるが、煮詰まる程に樹液は茶色く変色して重さを増し、後半は体力お化けであるお父様がかき混ぜ続けた。
ほとんど水分がなくなった頃にヤケドに気を付けながら皆でかまどから鍋を降ろす。火力を失った樹液は次第に固まり始めるが、空気を混ぜ合わせるように撹拌し続けることによってより良い砂糖になると本で読んだことがある。暑さと疲れでもうこのまま固めてしまおうとも思ったが、森の民の気質なのか食に対する妥協を許すことが出来ずに交代で混ぜ続けた。
「あとは……ハァハァ……自然に固まるのを待ちましょう……」
もうかき混ぜるのが無理な程に樹液は凝縮されている。私たちは暑さで完全にバテてしまい、座り込んで肩で息をしている。もちろんお父様だけがケロッとしているのだが。
────
私とお母様、ハコベさんはなかなか体力が回復しなかったので夕食作りは民たちに任せることにした。酒を飲むと塩気のある食べ物を欲しがることが予想されたので、ミィソやセウユを使うような食べ物をたくさん作るように頼んだ。肉体労働が出来ないお年寄りたちは「頼ってくれて嬉しい」と張り切って料理をしてくれる。私が今までに作った料理から森の民伝統の料理まで多種多様な料理を手際よく作ってくれる。『お年寄りだから……』と遠慮をしていた部分があったが、喜んで料理を作る顔を見ているともっと料理を任せようかと思う。
「カレン」
ふいにお父様に呼ばれた。
「カレンがいた場所では皆酒を飲むのか?」
「えぇ。男も女も関係なく酒を飲むわよ? ただ二十歳を過ぎなければ飲めないけれど」
そう言うとお父様はニヤリと笑う。
「そうか。ならば子どもたちは酒は禁止だな」
お父様はそう言うと酒に変わった樹液を食卓へ運ぶ。せめて一口味見をとせがんだが「絶対に駄目だ」と言われてしまった。容器の中を見ると見慣れた酒ではなく、白濁した微炭酸の飲み物といった感じだがやはりアルコール臭はする。
食卓に料理が並び終えるとお父様は席に着き声を上げる。
「ブルーノ殿、ジェイソン殿、今日はタデが手伝えなくてすまなかった。今日は酒と砂糖を作っていたのだ。存分に飲んでくれ。ただ子どもたちは駄目だ。その代わり大人たちよりも砂糖をやろう」
その言葉と共に私やお母様はコップに酒を入れ大人たちに渡していく。子どもたちには不格好な砂糖の塊を多めに渡す。
「いやいや、謝罪などいらないが……酒と砂糖なんて簡単に作れないだろう!?」
ブルーノさんはこの国に来て何回目か分からない驚きの声を上げる。放っておいても酒が出来ると言っても信じてもらえないだろうから「まぁまぁ」とあしらい酒を飲ませた。
「甘いな」
リトールの町は今ではテックノン王国製のワインが売られている。その味を想像していたのだろうが、ヤシの酒は噂通り甘いらしい。そして砂糖の塊をかじった者たちも「美味しい!」と声を上げる。スイレンも夢中で砂糖を口に入れている。
酒が入ったことによりいつも以上に夕食が盛り上がる。大人たちは飲む気満々となり、完全に酔う前に照明用の焚き火を作り始め語り合う。どこの世界でも酔った本人たちは楽しいが、その子どもたちは置いてけぼり状態となり、飽きた子どもたちは家に帰り眠りにつく。スイレンも「眠い」と言い出し先に家に戻ってしまった。私は子どもで素面だが大人たちとの会話が楽しく残った。
日々何かしら事件が起こるヒーズル王国だが、酒の席で事件が起こらないわけがない。一人、また一人と酔い潰れ倒れていく。その様子を見てまだ動ける者は潰れた者を担いで帰路につく。日本の飲み屋街のような光景が起こっているのだ。今の今まで忘れていたが、この酒は時間と共に発酵が進む。今のアルコール度数はどれくらいになっているのだろうか?
お父様は声が大きくなるくらいで変わらないように見えるが、座ったまま酔い潰れて寝ているブルーノさんに語り続けているのを見ると充分に酔っているようだ。お母様とハコベさん、ナズナさんは地面で寝ているし、ヒイラギは座って一人で笑っている。タデに至っては「私はハコベがいなければ何も出来ない男なんだ!」と泣きながらヒイラギに愛を囁くどころか叫んでいる。
そんな中ジェイソンさんが盛大にリバースをしてしまった。それを見たじいやは「貴様! 姫様が作ったものを吐くとは修練が足りん!」と激昂し、ジェイソンさんは「先生! すみません!」と泣き鬼教官と教え子の関係に戻っている。
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