199 / 370
地獄
しおりを挟む
「カレン! ねぇカレン! 起きて!」
スヤスヤと寝ているとスイレンに揺さぶられ目を覚ます。スイレンは私がいつ寝たのかを知らないのだろう。
「……無理……もう少し寝かせて……」
寝返りをうちスイレンに背を向けるが、スイレンは泣きそうな声で叫ぶ。
「寝ている場合じゃないよ! なんだか外から聞いたことのない声が聞こえるんだ! お父様もお母様もいないし、獣に襲撃されているんじゃないかと思うんだ! 一人じゃ怖いし、カレン起きてよ!」
必死なスイレンの言葉を聞き、仕方なく起き上がる。私もこんなにピュアな心を取り戻したいものだ。下手に前世の記憶があるせいで純粋さを失ってしまった。ましてや昨夜の、スイレンが眠った後のことをずっと見ていた私は特に。
「……収穫したオーレンジンはまだ物置にあったかしら……?」
寝ぼけ眼でそうつぶやくと「オーレンジンどころじゃないでしょ!」と、珍しくスイレンが激怒している。まだ完全には目覚めていない私はスイレンに無理やり手を引かれ外へと連れ出された。
「……何これ……みんなどうしたの!? 獣にやられたの!?」
スイレンは必死に叫ぶ。大人たちは皆地面に倒れ、微かなうめき声を上げている。あのお父様ですら倒れているのを見てスイレンは絶望的な顔をしている。
「……ただの二日酔いよ。スイレン、子どもたちを集めてちょうだい」
私の言葉を聞いたスイレンは「え? え?」と混乱しているようだ。二日酔いという言葉の意味も分からないだろうし、この惨劇の原因を知らないからだ。はっきり言って二日酔いにならないほうがおかしいくらい大人たちは飲んだのだ。もちろん先に帰って行った者たちはお父様たちよりも飲んだ量は少ないが、帰った時点でかなり飲んでいたのを私は知っている。そしてあの酒は時間と共にアルコールが増すのだ。最後まで飲んでいたお父様とじいやはかなりきついだろう。
「カレン! 動けるのは僕たち子どもだけみたい! 何か知っているの!?」
子どもたちを集めてくれたスイレンはまだそんな純粋なことを言っている。いや、スイレン以外の子どもたちですら大人たちを見て怯えている。
「……酒を飲みすぎるとこうなるのよ……。これでも私は最後まで面倒をみたのよ?」
子どもたちが眠った後の話を私は始める。さすがに大人たちのあまりの失態は伏せたが、ジェイソンさんが吐いたものをそのままにも出来ずスコップを持って来て土をかぶせたり、子どもの私では大人を運ぶことが出来ず、かと言って冷え込む夜にそのまま放置することも出来ないので布団代わりにムギンの藁をせっせと運び数十人の大人たちにかぶせ、私が自宅に戻り寝たのは夜明け近くだったのだ。食器類はひっくり返り、大人たちは倒れその周りには藁が散乱しているのを見れば純粋な子どもたちは怯え心配するだろう。
眠気と思い出しイライラで無表情に淡々と話しているが、最初は心配そうにしていたスイレンたちも最後まで話を聞いた今は私と同じ表情になっている。
とはいえ美樹も二十歳の誕生日を過ぎた頃、ご近所のおじいちゃまたちに祝われつつ散々飲まされ二日酔いを経験している。大人たちは動くのも辛いのは分かっているのだ。
「……三つの班に分かれましょう。一つは大人たちに何か食べられるか聞いてちょうだい。食べれるようだったらアポーの実を切って渡して。もう一つは食べられない大人たちにオーレンジンを搾って飲ませて。最後の一つはジンガーを大量にすりおろして」
ほとんどの大人たちは何も食べたくないだろう。けれど何か腹に入れなければそれはそれで辛いのだ。私は簡単な食事を作り始める。
まずはキャロッチとオーニーオーンを畑から引っこ抜く。キャロッチは千切りに、キャロッチの葉とオーニーオーンはみじん切りにして水と一緒に鍋に入れる。そしてセウユと砂糖で味付けをして煮込む。火を起こすのが苦手だが、他の子たちが手伝ってくれたのでなんとか火を起こすことが出来た。
煮えるまでに時間がかかるのでその間にムギン粉を用意し、水を多めに入れてベチャベチャの生地を作る。それを小さくちぎって鍋に放り込む。ほとんど噛まずに食べられるようにしたすいとん擬きを作っているのだ。
すいとん擬きが完成したが、食器がないことに気付き子どもたち全員で食器やコップを洗浄する。それにすいとん擬きを盛り、すりおろしたジンガーを入れる。生姜は胃腸の動きを良くする作用があるのでジンガーもおそらく効くだろう。そして私たちは大人たちにそれを飲ませる。さながらナイチンゲールになったような気持ちになる。
「あら! おババさんまで!」
たまたますいとん擬きを飲ませようと起こしたのは占いおババさんであった。それなりに酒を飲んだようで見事に酒臭い。
「歳はとりたくないものですな……」
おババさんは苦笑いでそう言うが、若い頃は酒豪だったらしい。あまりに意外で驚く。
その後はあまりの惨状に、お父様から全ての作業中止が言い渡され大人たちは家で寝たきり状態となった。私たち子どもだけで全ての後片付けをし、私がポニーとロバを引き連れ水を汲みに何往復もし、皆で最低限の野菜の収穫や水やりをした。その合間合間に各家を回り、大人たちに水を飲むように持って行ったのだ。そして夕食も子どもたちだけで作り、大人たちを無理やり起こす。
「まだ具合の悪い人もいるでしょうけど、食べないと余計に辛いわよ。少しでも食べてちょうだい」
私は声を張り上げ大人たちに食事をさせる。
「……いや、今日はすまなかった……。しばらく酒は遠慮しよう……」
さすがのお父様も覇気がない。
「あら? テックノン王国に負けない酒も作るつもりだったけど、諦めることにしましょうか」
なんとなく呟いた一言だったがブルーノさんが反応した。
「カレンちゃん……あの酒の作り方を知っているのかい?」
「えぇ」
私が肯定すると、復活を遂げた大人たちはざわめく。そして声を揃えてこう言ったのだ。
「是非とも作りましょう」
と。私は今さら気付いたのだ。森の民は酒を飲む機会が少なかっただけで、実は酒豪の民だということに。私はもう苦笑いするしかなかったのだった。
スヤスヤと寝ているとスイレンに揺さぶられ目を覚ます。スイレンは私がいつ寝たのかを知らないのだろう。
「……無理……もう少し寝かせて……」
寝返りをうちスイレンに背を向けるが、スイレンは泣きそうな声で叫ぶ。
「寝ている場合じゃないよ! なんだか外から聞いたことのない声が聞こえるんだ! お父様もお母様もいないし、獣に襲撃されているんじゃないかと思うんだ! 一人じゃ怖いし、カレン起きてよ!」
必死なスイレンの言葉を聞き、仕方なく起き上がる。私もこんなにピュアな心を取り戻したいものだ。下手に前世の記憶があるせいで純粋さを失ってしまった。ましてや昨夜の、スイレンが眠った後のことをずっと見ていた私は特に。
「……収穫したオーレンジンはまだ物置にあったかしら……?」
寝ぼけ眼でそうつぶやくと「オーレンジンどころじゃないでしょ!」と、珍しくスイレンが激怒している。まだ完全には目覚めていない私はスイレンに無理やり手を引かれ外へと連れ出された。
「……何これ……みんなどうしたの!? 獣にやられたの!?」
スイレンは必死に叫ぶ。大人たちは皆地面に倒れ、微かなうめき声を上げている。あのお父様ですら倒れているのを見てスイレンは絶望的な顔をしている。
「……ただの二日酔いよ。スイレン、子どもたちを集めてちょうだい」
私の言葉を聞いたスイレンは「え? え?」と混乱しているようだ。二日酔いという言葉の意味も分からないだろうし、この惨劇の原因を知らないからだ。はっきり言って二日酔いにならないほうがおかしいくらい大人たちは飲んだのだ。もちろん先に帰って行った者たちはお父様たちよりも飲んだ量は少ないが、帰った時点でかなり飲んでいたのを私は知っている。そしてあの酒は時間と共にアルコールが増すのだ。最後まで飲んでいたお父様とじいやはかなりきついだろう。
「カレン! 動けるのは僕たち子どもだけみたい! 何か知っているの!?」
子どもたちを集めてくれたスイレンはまだそんな純粋なことを言っている。いや、スイレン以外の子どもたちですら大人たちを見て怯えている。
「……酒を飲みすぎるとこうなるのよ……。これでも私は最後まで面倒をみたのよ?」
子どもたちが眠った後の話を私は始める。さすがに大人たちのあまりの失態は伏せたが、ジェイソンさんが吐いたものをそのままにも出来ずスコップを持って来て土をかぶせたり、子どもの私では大人を運ぶことが出来ず、かと言って冷え込む夜にそのまま放置することも出来ないので布団代わりにムギンの藁をせっせと運び数十人の大人たちにかぶせ、私が自宅に戻り寝たのは夜明け近くだったのだ。食器類はひっくり返り、大人たちは倒れその周りには藁が散乱しているのを見れば純粋な子どもたちは怯え心配するだろう。
眠気と思い出しイライラで無表情に淡々と話しているが、最初は心配そうにしていたスイレンたちも最後まで話を聞いた今は私と同じ表情になっている。
とはいえ美樹も二十歳の誕生日を過ぎた頃、ご近所のおじいちゃまたちに祝われつつ散々飲まされ二日酔いを経験している。大人たちは動くのも辛いのは分かっているのだ。
「……三つの班に分かれましょう。一つは大人たちに何か食べられるか聞いてちょうだい。食べれるようだったらアポーの実を切って渡して。もう一つは食べられない大人たちにオーレンジンを搾って飲ませて。最後の一つはジンガーを大量にすりおろして」
ほとんどの大人たちは何も食べたくないだろう。けれど何か腹に入れなければそれはそれで辛いのだ。私は簡単な食事を作り始める。
まずはキャロッチとオーニーオーンを畑から引っこ抜く。キャロッチは千切りに、キャロッチの葉とオーニーオーンはみじん切りにして水と一緒に鍋に入れる。そしてセウユと砂糖で味付けをして煮込む。火を起こすのが苦手だが、他の子たちが手伝ってくれたのでなんとか火を起こすことが出来た。
煮えるまでに時間がかかるのでその間にムギン粉を用意し、水を多めに入れてベチャベチャの生地を作る。それを小さくちぎって鍋に放り込む。ほとんど噛まずに食べられるようにしたすいとん擬きを作っているのだ。
すいとん擬きが完成したが、食器がないことに気付き子どもたち全員で食器やコップを洗浄する。それにすいとん擬きを盛り、すりおろしたジンガーを入れる。生姜は胃腸の動きを良くする作用があるのでジンガーもおそらく効くだろう。そして私たちは大人たちにそれを飲ませる。さながらナイチンゲールになったような気持ちになる。
「あら! おババさんまで!」
たまたますいとん擬きを飲ませようと起こしたのは占いおババさんであった。それなりに酒を飲んだようで見事に酒臭い。
「歳はとりたくないものですな……」
おババさんは苦笑いでそう言うが、若い頃は酒豪だったらしい。あまりに意外で驚く。
その後はあまりの惨状に、お父様から全ての作業中止が言い渡され大人たちは家で寝たきり状態となった。私たち子どもだけで全ての後片付けをし、私がポニーとロバを引き連れ水を汲みに何往復もし、皆で最低限の野菜の収穫や水やりをした。その合間合間に各家を回り、大人たちに水を飲むように持って行ったのだ。そして夕食も子どもたちだけで作り、大人たちを無理やり起こす。
「まだ具合の悪い人もいるでしょうけど、食べないと余計に辛いわよ。少しでも食べてちょうだい」
私は声を張り上げ大人たちに食事をさせる。
「……いや、今日はすまなかった……。しばらく酒は遠慮しよう……」
さすがのお父様も覇気がない。
「あら? テックノン王国に負けない酒も作るつもりだったけど、諦めることにしましょうか」
なんとなく呟いた一言だったがブルーノさんが反応した。
「カレンちゃん……あの酒の作り方を知っているのかい?」
「えぇ」
私が肯定すると、復活を遂げた大人たちはざわめく。そして声を揃えてこう言ったのだ。
「是非とも作りましょう」
と。私は今さら気付いたのだ。森の民は酒を飲む機会が少なかっただけで、実は酒豪の民だということに。私はもう苦笑いするしかなかったのだった。
53
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる