貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
278 / 370

回り巡る

しおりを挟む
 お父様とじいやの怒鳴り合う声を聞きながら、特に誰もそれを止めることなく皆で蛇籠を積み上げる。お母様だけは怒鳴るお父様をまるで恋する乙女のように眺めてはいたけれど。
 スイレンは途中で足腰の弱い者たちに水路から出るように伝え、そして私たち子どもも水路から陸へと上がった。

 岸からスイレンは作業をしている大人たちに指示を飛ばし、私には住居の方へ行くように言う。

「どうだ!?」

 スイレンが珍しく声を張り上げた。当の本人は水車を見上げている。つられるようにお父様とじいや、それにお母様以外の全員が水車を見る。

──ゴトン……──

 思わず息を飲んだ。水車がゆっくりとだが動き出したのだ。
 平らだった水路の底に蛇籠で段差を作り、その上にまた蛇籠を積んで水をせき止めるようにして、水の流れを変えたのだ。その水の勢いで水車が回る。

「よし!」

 回り始めた水路の縁には水を汲むための柄杓が取り付けられており、水を汲み上げながら頂点近くまで行くと、軸受けに備え付けられたミニ水路に水が落ちる。

「姫様、こちらへ」

 どこからともなくハマスゲが現れ、私がタデやヒイラギ一家と泊まった水路側の住居にはしごをかけ、しっかりと支えてくれている。

「ありがとう!」

 私は礼を言いながらはしごを駆け上がり、ほぼフラットな屋根の上に登る。一応二階建てではあるが、明確な建築基準などないのと、フラットな屋根のおかげで日本の家よりも低い。
 汲み上げられた水は、皆の頭上に設置されたミニ水路を通ってこの屋根に流れ込んで来る。

「姫様、一度蓋を開けます」

 いつの間にかイチビたちも私の側に来ており、ゴミが入らないようにと取り付けられたミニ水路の蓋を開けて行く。

「来てるわよー!」

 流れてくる水を見て叫ぶと、スイレンは両手で大きな丸を作って笑っている。そして口喧嘩をしていたお父様たちもようやく気付いたのか水車の脇に集まっている。

 水車が集めた水は、一度住居の中心部にある給水装置へと入る。装置と言っても機械など使っておらず、砂利や小石、炭を入れた大型浄水器となっているのだ。各家庭でそれなりに綺麗な飲み水を飲めるように工夫したのだ。

 一軒目の住宅の給水装置が満タンになると、オーバーフローした水は別のミニ水路を通って隣の家へと向かう。家と家は屋根がミニ水路で繋がっているのだ。そして同じように給水装置を満たすと、また隣の家へと水が流れる仕組みだ。

「待って、先に私を降ろして」

 お父様とじいやがはしごを登って来ようとしていたので、それを止めて先に地面へと降り立つ。私の行動を先読みしていたタデとヒイラギがそこへ迎えに来てくれた。

「行くぞ」

「行こう」

 二人はそう言って笑い、私たちは五軒目の家へと走った。この並びには五軒の家が建てられている。
 水路建設の終わった者や、農作業を終えた者が総出で手伝ってくれたおかげで、とてつもないスピードで住宅が完成していったらしい。もちろんブルーノさんとスイレンの的確な現場監督の指示があったおかげでもあるだろう。

 五軒目の家の給水装置からオーバーフローした分は、雨樋のようなものを通って地下に流れ込む。私たちは台所付近にある地下への扉を開け、各家庭に備え付けてもらっているナーの油を使ったランプ、要するに災害時に作れる簡易ランプに火をつけ地下へと向かった。

「大丈夫かしら……」

 不安げに声を漏らすと、タデとヒイラギは「絶対に大丈夫だ」と笑っている。遠くから民たちの歓声が聞こえて来るが、私たちはしばらく無言のまま地下室の床を見つめていた。

「ほら、来たよ」

 そう言ってヒイラギは私の肩を揺らす。ランプの灯りが水に反射し、水が流れて来たのが分かった。

「これで皆が快適に……」

 少し涙が出て来て鼻声でそう漏らすと、二人は私の頭をクシャクシャと撫でた。

 もう体が慣れつつあるが、この土地の昼間は暑い。特に夏の日中は湿気が少ないとは言えかなり高温になる。
 日中はこの地下室の扉を開けると、屋根にピョコンと顔を出している採風塔から暑い風が入って来て、地下よりも下を流れる水で気化熱を奪われた冷たい空気が家の中を満たすのだ。この人工的な地下水は一軒目の家へと向かって流れている。
 これはたまたま本で読んで知っていた、海外のバードギールというものを真似たのだ。もちろんこの地下室も冷えるので、冷蔵庫代わりにも使える。

 私は半べそをかきながら地下室から出て、そして外へと向かう。住居と住居の間には、もちろん蓋はされているが地下水路への空気穴が空いており、このおかげで地下室が冷えるのだ。

「ジェイソンさんがね、なぜか私たちではなく『先生のために!』と必死で掘ったんだよ」

 ヒイラギがジェイソンさんの真似をしながら教えてくれた。もはやじいやに褒められたいがために作業をしていたのかもしれない。それを想像し、思わず噴き出した。
 もう埋められてしまっているが、地下を流れる水は住居前を通って畑の横の用水路へと流れ込む。もう見えない水路を見つめながら、ここまでを作ってくれた皆のことを考えると、感動からついに泣いてしまった。

「私の娘はそんなに泣き虫だったのか?」

「姫、喜んで笑ってよ」

 この国での『お父さん』と『お兄ちゃん』はそう言って笑い、私の手をとって水車の方へと歩き出した。
 グスグスと鼻をすすりながら歩いていると、なぜか辺りが静かなことに気付いた。ふと顔を上げると私は凍りついた。

「はははは! 負けん! 負けんぞ!」

「私もまだまだやれますぞ!」

 なぜかお父様とじいやは水車と張り合い、水車の横でそれぞれが前方宙返りと後方宙返りをしている。あまりの光景に、さすがのお母様も民たち全員もドン引きをしているようだ。
 感動の場面をぶち壊された私は涙も止まり真顔となり、タデとヒイラギは私の横で深い深い溜め息を吐いたのだった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...