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お父様の災難
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娘の私ですらどうしたら良いのか分からないお父様とじいやの奇行に、タデとヒイラギは重い足取りながらも対処しようと向かってくれた。
はじめは一歩は亀の歩みのようであったが、進むにつれタデもヒイラギも早歩きとなり、最後には全力疾走だった。
「なぜお前は王らしく振る舞えないんだ!?」
「ベンジャミン様も威厳がなくなってますよ~」
お父様が着地し、また飛び跳ねようとしたタイミングでタデはお父様の背後に回り、腕でお父様の首を絞める。プロレスでいうスリーパーホールド状態だ。
同じようにじいやが飛び跳ねる前に、ヒイラギに至ってはじいやのツルツル頭をペチンと叩いた。甲高い『ペチーン!』という音はヒーズル王国に鳴り響き、私たちは笑いを堪えきれなくなった。
「ぐをっ……!」
「はっ……! 私は何を……!」
タデの怒りのスリーパーホールドは見事なまでにガッチリと決まり、お父様は落ちそうになっている。
かたやじいやは奇行の記憶が無くなったのか、呆然と立ち尽くしている。私たちはクスクスと見守る。
そこからの二人は凄かった。青筋を立てながらお父様とじいやに説教をし、怒られた二人はおとなしく地面に正座したくらいだ。一国の王と、その王に極めて近い側近にここまで怒鳴ることが出来る二人はある意味一番怖い存在なのかもしれない。
「なぜそんなに思うがままに行動ばかりするのだ!?」
「ベンジャミン様にね、ついていける身体能力があるモクレンが好きなのは分かるけど。もう少し後先を考えないと~」
タデは烈火の如く怒り、ヒイラギは笑顔を作りつつネチネチと責め立てる。じいやラブのジェイソンさんは「あ……あ……」と呟きながらもその中に入れず、庇いたくても庇いきれないほどだ。
けれどこれも昔から見慣れた光景なのか、お母様もお怒りの二人の奥さんも、他の民たちも笑って見ている。
「良いか!? 分かったか!?」
タデの最後の喝に、お父様もじいやも「……はい……」と小さく答える。
「ならばお前が楽しみにしていたものを見に行くぞ!」
そして絶妙な飴と鞭を使いこなす。本気で怒られたことと、言われた『楽しみ』が分からないお父様は少し動揺しているようだ。
「オアシスだ! オアシス! 忘れたのか!?」
そこまで言われてお父様は一瞬で立ち上がった。笑顔となり喜びを全身で表現しようとしたのだろうが、タデとヒイラギの顔を見てピタリと動きを止めた。
「仕事は後回しにして全員で行こう」
いつもの優しげな表情と口調に戻ったヒイラギがそう言うと、ぞろぞろとオアシスへ向かって私たちは歩き出した。
────
「うぉぉぉぉ! 私は! 今! 猛烈に! 感動している!」
人工オアシスが見えて来たところでお父様は吠えた。あの空っぽだった人工オアシスは豊かな水を蓄え、その周りにはデーツの木が植えられ、その木の下にはテーブルや椅子が置かれリゾート地のようになっている。他にも屋根付きの休憩所のようなものまで建てられている。
「夢にまでみたオアシスだぁぁぁ!」
またお父様が叫んだかと思うと、そのまま走り出し水に飛び込んだ。今度は誰も怒る者などおらず、お父様のはしゃぎっぷりを見て笑っている。
「どう? カレン。カレンが考えていたのって、こんな感じ? ココナッツの木の周りには近寄らないように柵も作ったんだ」
スイレンはしてやったり顔で私を見つめる。
「うん! まさに最高の場所ね! 皆でいつでも遊びに来れるわね!」
何もなかった砂だらけのヒーズル王国に、ついに娯楽施設が出来たのだ。
何もなかった場所に森を作り、畑を作り、水路を作り、小さな作業場を作り、住居も作り、と今までコツコツとやってきた。そしてついに皆が遊べる場所まで完成したとあっては、感動し過ぎて上手くリアクションが出来ない。
歩いて来た時から一瞬「あれ?」と思うことがあったが、水路には水草らしきものが生え始め、川から卵でも流れて来たのか稚魚らしきものも見えた。
それよりも育った少し大きめの稚魚がオアシスにも群れをなして泳いでいるのだ。大きくなればオーバーフロー用の排水口から出て行くことも出来ないだろうし、将来的にはここで釣りも出来るかもしれない。
「……ん?」
王国の将来を考え、喜びと空想に浸りながらオアシスの水面を見ていると大変なことに気付いた。
「たたたた! 大変! お父様が沈んでる!!」
おそらく勢いに任せ飛び込んだは良いが、筋肉ダルマのようなお父様は浮かずにそのまま沈んでしまったようなのだ。
最近水泳に目覚めてしまったというイチビたちが恐れもなくオアシスに飛び込み、そしてお父様を無事に救出した。
「ブハッ……! ゲホッ……! ガハッ……!」
水深は深いわけではないが、沈んでしまったのなら浅くても意味がない。
ひたすら息を止めていたと言うお父様は何事もなく無事ではあったが、お父様はオアシスで泳いだりするのを楽しみにしていたらしく、浮かばない自分の体を悲しみただただしょぼんとしていたのだった。
はじめは一歩は亀の歩みのようであったが、進むにつれタデもヒイラギも早歩きとなり、最後には全力疾走だった。
「なぜお前は王らしく振る舞えないんだ!?」
「ベンジャミン様も威厳がなくなってますよ~」
お父様が着地し、また飛び跳ねようとしたタイミングでタデはお父様の背後に回り、腕でお父様の首を絞める。プロレスでいうスリーパーホールド状態だ。
同じようにじいやが飛び跳ねる前に、ヒイラギに至ってはじいやのツルツル頭をペチンと叩いた。甲高い『ペチーン!』という音はヒーズル王国に鳴り響き、私たちは笑いを堪えきれなくなった。
「ぐをっ……!」
「はっ……! 私は何を……!」
タデの怒りのスリーパーホールドは見事なまでにガッチリと決まり、お父様は落ちそうになっている。
かたやじいやは奇行の記憶が無くなったのか、呆然と立ち尽くしている。私たちはクスクスと見守る。
そこからの二人は凄かった。青筋を立てながらお父様とじいやに説教をし、怒られた二人はおとなしく地面に正座したくらいだ。一国の王と、その王に極めて近い側近にここまで怒鳴ることが出来る二人はある意味一番怖い存在なのかもしれない。
「なぜそんなに思うがままに行動ばかりするのだ!?」
「ベンジャミン様にね、ついていける身体能力があるモクレンが好きなのは分かるけど。もう少し後先を考えないと~」
タデは烈火の如く怒り、ヒイラギは笑顔を作りつつネチネチと責め立てる。じいやラブのジェイソンさんは「あ……あ……」と呟きながらもその中に入れず、庇いたくても庇いきれないほどだ。
けれどこれも昔から見慣れた光景なのか、お母様もお怒りの二人の奥さんも、他の民たちも笑って見ている。
「良いか!? 分かったか!?」
タデの最後の喝に、お父様もじいやも「……はい……」と小さく答える。
「ならばお前が楽しみにしていたものを見に行くぞ!」
そして絶妙な飴と鞭を使いこなす。本気で怒られたことと、言われた『楽しみ』が分からないお父様は少し動揺しているようだ。
「オアシスだ! オアシス! 忘れたのか!?」
そこまで言われてお父様は一瞬で立ち上がった。笑顔となり喜びを全身で表現しようとしたのだろうが、タデとヒイラギの顔を見てピタリと動きを止めた。
「仕事は後回しにして全員で行こう」
いつもの優しげな表情と口調に戻ったヒイラギがそう言うと、ぞろぞろとオアシスへ向かって私たちは歩き出した。
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「うぉぉぉぉ! 私は! 今! 猛烈に! 感動している!」
人工オアシスが見えて来たところでお父様は吠えた。あの空っぽだった人工オアシスは豊かな水を蓄え、その周りにはデーツの木が植えられ、その木の下にはテーブルや椅子が置かれリゾート地のようになっている。他にも屋根付きの休憩所のようなものまで建てられている。
「夢にまでみたオアシスだぁぁぁ!」
またお父様が叫んだかと思うと、そのまま走り出し水に飛び込んだ。今度は誰も怒る者などおらず、お父様のはしゃぎっぷりを見て笑っている。
「どう? カレン。カレンが考えていたのって、こんな感じ? ココナッツの木の周りには近寄らないように柵も作ったんだ」
スイレンはしてやったり顔で私を見つめる。
「うん! まさに最高の場所ね! 皆でいつでも遊びに来れるわね!」
何もなかった砂だらけのヒーズル王国に、ついに娯楽施設が出来たのだ。
何もなかった場所に森を作り、畑を作り、水路を作り、小さな作業場を作り、住居も作り、と今までコツコツとやってきた。そしてついに皆が遊べる場所まで完成したとあっては、感動し過ぎて上手くリアクションが出来ない。
歩いて来た時から一瞬「あれ?」と思うことがあったが、水路には水草らしきものが生え始め、川から卵でも流れて来たのか稚魚らしきものも見えた。
それよりも育った少し大きめの稚魚がオアシスにも群れをなして泳いでいるのだ。大きくなればオーバーフロー用の排水口から出て行くことも出来ないだろうし、将来的にはここで釣りも出来るかもしれない。
「……ん?」
王国の将来を考え、喜びと空想に浸りながらオアシスの水面を見ていると大変なことに気付いた。
「たたたた! 大変! お父様が沈んでる!!」
おそらく勢いに任せ飛び込んだは良いが、筋肉ダルマのようなお父様は浮かずにそのまま沈んでしまったようなのだ。
最近水泳に目覚めてしまったというイチビたちが恐れもなくオアシスに飛び込み、そしてお父様を無事に救出した。
「ブハッ……! ゲホッ……! ガハッ……!」
水深は深いわけではないが、沈んでしまったのなら浅くても意味がない。
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