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初めてのテックノン王国
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黒王に取り付けていた荷車を外し、何かの時のためにと保管していた、移民たちが乗っていた客車を取り付け、着替え終わった私たちはそれに乗り込んだ。
じいやは松風に乗り換え、先に松風が運んで来た荷物を納品してから、戻って来て黒王が運んで来た荷物を納品するという。
ニコライさんは一人でバにまたがって来たようだが、鞍があってもお尻ペンペンをされて、痛みの引かないお尻でバに乗るのは辛いだろう。
……あの日の股の事件を思い出してしまった。
「では皆さん出発しますよ」
黒王の背中には誰も乗っておらず御者もいないが、元々ニコライさんの乗っているバと仲が良かったのか、バ同士で挨拶を交わすと、黒王はニコライさんについて行く。
その私たちの後ろを、じいやが松風に乗ってついて来る。
客車の中は遠足気分の者、やる気があり過ぎる者、バとのいがみ合いから解放され寝てしまう者と、いつも通りのカオス具合になっている。
「……ん?」
最初に反応したのはお父様だった。今日は少し暑い日だったので客車の窓を開けていたのだが、先日のようにまた何かが臭うのだ。
スイレンでさえも「くさい……」とつぶやき、その臭いでオヒシバも目を覚ました。
「皆さーん! そろそろですよー!」
前方から、元気なニコライさんの声が聞こえる。臭いと文句を言うことが出来るはずもなく、私たちは眉間にシワをよせたまま国境を超えた。
「ベンジャミン様とはここでお別れですね。少し降りてみませんか?」
そう言ってニコライさんが客車の扉を開いた。ひとまず降りようという空気になり、私たちはテックノン王国の土地に降り立った。
広い範囲に渡って広がる草原は、風によって波のように揺れている。その風向きによって、あの臭いが強まったり弱まったりするのだ。
「……ニコライさん、この臭いは何……?」
思わず問いかけると、ニコライさんは目を丸くして驚いている。
「分かるのですか? ……いや、私たちの鼻が麻痺してしまっているのでしょう……。詳しくは王が話されると思いますので、少し我慢をしてこちらへどうぞ」
ニコライさんに促されるまま歩を進めると、また風向きが変わったのかほとんど臭いを感じなくなった。
やや距離を歩いて気付いたが、ここは丘……というより高台だったようだ。
「これがテックノン王国です!」
斜め前方にはかなり大きな城下町が見え、それよりも高い場所となる、今立っているここと同じ高さくらいの場所に立派な石造りの城が見えた。
あの場所にルーカス王がいると説明されたので、城というよりは宮殿に近いのだろう。
ちなみにだが、城は戦いの際に敵に攻め込まれないように防御力を高く設計して建てたもので、宮殿は王が住む建物のことを指す。
造りを見ると、かなりの範囲を高い塀が囲ってあり、城と宮殿を合わせた感じだ。
「モクレン……お前たちの住居を直さねば……」
国王の住居である宮殿を見たタデは度肝を抜かれ、私たちのささやかな家では王として示しがつかないと言う。
「いや、私たちはあの住居を気に入っているぞ? それよりもニコライ。なぜこんなにも見通しが悪いのだ?」
そうなのだ。私も気になったのだが、天気も良いのにそんなに遠くないはずの城下町が、山中いるのかと思うほどにガスがかかったように白く見えるのだ。
そして城下町以外の場所は草木もまばらで、川らしきものが見えるが、遠くを確認しようにも先が見えない。
「やっぱり気になります? では城に向かいましょうか」
ニコライさんは苦笑いでそう言うと、客車に戻るように促した。
戻りながらじいやを確認すると、半分死んだような目で「行ってらっしゃいませ」と手を振っている。じいやはほぼ毎日この臭いに耐えていたらしい。
そのじいやと話していた人が振り返った。
「ようこそお越しくださいました」
「ニコライ様がまたしても迷惑をおかけして、大変申し訳ございません!」
同時に話し始めたことに笑ってしまったが、二人はサイモン大臣とマークさんだった。どうやら到着が遅いことを心配して迎えに来てくれたらしい。
だがニコライさんは二人の姿を見て震えている。お尻ペンペンを思い出しているのだろう。
「お久しぶりです!」
私が先陣を切って挨拶をすると、お二人は歓迎の言葉よりも謝罪の言葉ばかり口にしていた。
私たちの一人ずつに頭を下げ謝罪の言葉を言い、次の人に向き合うまでのほんのわずかな時間にニコライさんを睨みつけ、その度にニコライさんは震え上がっていた。
「ではルーカス王もお待ちです。参りましょう」
私たちよりも小さな客車にマークさんが乗って先頭を行き、ニコライさんは私たちの後方に配置した。サイモン大臣は私たちの客車に乗り込み、塀の中の案内をすると言う。
この草原もバ車の通った道が出来ており、そこを通りながら「ここがニコライ様が爆破に失敗した場所です」などと案内をしてくれ、客車の中は大いに盛り上がった。
一部の爆破失敗箇所からはチョロチョロと水が流れ、塀の中へと向かっている。その高い塀をくぐり抜けると驚いた。建物の数が思っていた以上にあるのだ。
城で働く者たちは、家族と共にこの場所に住んでいるらしい。
「急きょこの塀の中に住む者たちにだけ、ヒーズル王国の存在を明かすことにいたしました。リーンウン国から来たと言っても、入って来る門が違いますし、それを見た者が変な誤解をしても困りますから」
ため息まじりのサイモン大臣だが、昨日までは城で働く者は、家族にすらヒーズル王国の存在の口外を禁じていたと言う。
一晩で全員にお触れを出すのは、それはもう相当に大変だったことだろう。ニコライさんへの怒りもため息も、とても気持ちが分かる。
私たちの客車に気付いた者たちが通りに出て来て、口々に歓迎の言葉を言い、子どもたちは手を振ってくれる。
私たちも手を振り返し、ゆっくりと宮殿へと向かったのだった。
じいやは松風に乗り換え、先に松風が運んで来た荷物を納品してから、戻って来て黒王が運んで来た荷物を納品するという。
ニコライさんは一人でバにまたがって来たようだが、鞍があってもお尻ペンペンをされて、痛みの引かないお尻でバに乗るのは辛いだろう。
……あの日の股の事件を思い出してしまった。
「では皆さん出発しますよ」
黒王の背中には誰も乗っておらず御者もいないが、元々ニコライさんの乗っているバと仲が良かったのか、バ同士で挨拶を交わすと、黒王はニコライさんについて行く。
その私たちの後ろを、じいやが松風に乗ってついて来る。
客車の中は遠足気分の者、やる気があり過ぎる者、バとのいがみ合いから解放され寝てしまう者と、いつも通りのカオス具合になっている。
「……ん?」
最初に反応したのはお父様だった。今日は少し暑い日だったので客車の窓を開けていたのだが、先日のようにまた何かが臭うのだ。
スイレンでさえも「くさい……」とつぶやき、その臭いでオヒシバも目を覚ました。
「皆さーん! そろそろですよー!」
前方から、元気なニコライさんの声が聞こえる。臭いと文句を言うことが出来るはずもなく、私たちは眉間にシワをよせたまま国境を超えた。
「ベンジャミン様とはここでお別れですね。少し降りてみませんか?」
そう言ってニコライさんが客車の扉を開いた。ひとまず降りようという空気になり、私たちはテックノン王国の土地に降り立った。
広い範囲に渡って広がる草原は、風によって波のように揺れている。その風向きによって、あの臭いが強まったり弱まったりするのだ。
「……ニコライさん、この臭いは何……?」
思わず問いかけると、ニコライさんは目を丸くして驚いている。
「分かるのですか? ……いや、私たちの鼻が麻痺してしまっているのでしょう……。詳しくは王が話されると思いますので、少し我慢をしてこちらへどうぞ」
ニコライさんに促されるまま歩を進めると、また風向きが変わったのかほとんど臭いを感じなくなった。
やや距離を歩いて気付いたが、ここは丘……というより高台だったようだ。
「これがテックノン王国です!」
斜め前方にはかなり大きな城下町が見え、それよりも高い場所となる、今立っているここと同じ高さくらいの場所に立派な石造りの城が見えた。
あの場所にルーカス王がいると説明されたので、城というよりは宮殿に近いのだろう。
ちなみにだが、城は戦いの際に敵に攻め込まれないように防御力を高く設計して建てたもので、宮殿は王が住む建物のことを指す。
造りを見ると、かなりの範囲を高い塀が囲ってあり、城と宮殿を合わせた感じだ。
「モクレン……お前たちの住居を直さねば……」
国王の住居である宮殿を見たタデは度肝を抜かれ、私たちのささやかな家では王として示しがつかないと言う。
「いや、私たちはあの住居を気に入っているぞ? それよりもニコライ。なぜこんなにも見通しが悪いのだ?」
そうなのだ。私も気になったのだが、天気も良いのにそんなに遠くないはずの城下町が、山中いるのかと思うほどにガスがかかったように白く見えるのだ。
そして城下町以外の場所は草木もまばらで、川らしきものが見えるが、遠くを確認しようにも先が見えない。
「やっぱり気になります? では城に向かいましょうか」
ニコライさんは苦笑いでそう言うと、客車に戻るように促した。
戻りながらじいやを確認すると、半分死んだような目で「行ってらっしゃいませ」と手を振っている。じいやはほぼ毎日この臭いに耐えていたらしい。
そのじいやと話していた人が振り返った。
「ようこそお越しくださいました」
「ニコライ様がまたしても迷惑をおかけして、大変申し訳ございません!」
同時に話し始めたことに笑ってしまったが、二人はサイモン大臣とマークさんだった。どうやら到着が遅いことを心配して迎えに来てくれたらしい。
だがニコライさんは二人の姿を見て震えている。お尻ペンペンを思い出しているのだろう。
「お久しぶりです!」
私が先陣を切って挨拶をすると、お二人は歓迎の言葉よりも謝罪の言葉ばかり口にしていた。
私たちの一人ずつに頭を下げ謝罪の言葉を言い、次の人に向き合うまでのほんのわずかな時間にニコライさんを睨みつけ、その度にニコライさんは震え上がっていた。
「ではルーカス王もお待ちです。参りましょう」
私たちよりも小さな客車にマークさんが乗って先頭を行き、ニコライさんは私たちの後方に配置した。サイモン大臣は私たちの客車に乗り込み、塀の中の案内をすると言う。
この草原もバ車の通った道が出来ており、そこを通りながら「ここがニコライ様が爆破に失敗した場所です」などと案内をしてくれ、客車の中は大いに盛り上がった。
一部の爆破失敗箇所からはチョロチョロと水が流れ、塀の中へと向かっている。その高い塀をくぐり抜けると驚いた。建物の数が思っていた以上にあるのだ。
城で働く者たちは、家族と共にこの場所に住んでいるらしい。
「急きょこの塀の中に住む者たちにだけ、ヒーズル王国の存在を明かすことにいたしました。リーンウン国から来たと言っても、入って来る門が違いますし、それを見た者が変な誤解をしても困りますから」
ため息まじりのサイモン大臣だが、昨日までは城で働く者は、家族にすらヒーズル王国の存在の口外を禁じていたと言う。
一晩で全員にお触れを出すのは、それはもう相当に大変だったことだろう。ニコライさんへの怒りもため息も、とても気持ちが分かる。
私たちの客車に気付いた者たちが通りに出て来て、口々に歓迎の言葉を言い、子どもたちは手を振ってくれる。
私たちも手を振り返し、ゆっくりと宮殿へと向かったのだった。
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