桜のあと ―私の推しの美男子看護師さん―

最後の夜

　櫻川さんのケアは相変わらず手際が良い。整理整頓も得意で、私のグルグルになったコードや線をきれいにまとめてくれてる。

いつも和やかな雰囲気で安心できる。私は胸に胸帯をまいていた。櫻川さんは、

「僕も同じの巻いていたでね。」

と言った。櫻川さんも、、そうだったんだあ。

他の看護師さんやリハビリの先生とは恋愛観について語ったり、主治医とはいろんな話をした。

そう言えば、櫻川さんにプライベートな事は何も聞かないでいた。何故かはわからない。

推しの事を知り過ぎない方がいいのかな？
でも、彼は本当に心が綺麗な人だと思う。

ずっと変わらずにいて欲しい。

思い出に櫻川さんだけの写真を撮らせて欲しいと言った事がある。

櫻川さんは照れくさそうに、

「単体はダメ、事務所ＮＧなんだあ。

と言って逃げた。

ある日、櫻川さんはこんな事を言った。

「ここにずっといたらダメだよ。ここに戻ってきてもいけないよ。」

自分の力で自分の人生を生きて行けという私へのエールだと思った。

私は頷いた。


櫻川さんが担当の最後の夜、隣の部屋の患者さんは大変そうな様子だった。

櫻川さんは私の完璧にしながら、ブラインドの隙間から隣の部屋を真剣な表情で見ていた。

誰かの命を必死で救おうとしている時の目だ。
櫻川さんは最高にかっこよくて、隣の人は危険な状態に違いない。

「私は大丈夫、隣の人の所にいってあげて。」

と紙に書いた。

櫻川さんは少し笑ったような気がした。そして、さっと身を翻して病室を出ていった。

それが私が見た最後の櫻川さんとなった。