龍青学園GCSA

楓和

文字の大きさ
40 / 49

第5章の13「僕は…倒れない!」

しおりを挟む
 A階段では鏡と利也の戦いが繰り広げられていた。

 「いつまでも逃げらんねぇぞ!」

利也の武器が鏡を何度も襲う。辛うじてかわしている鏡の表情に笑みは無い。しかし…

 「くっ…腹立つなぁ。」

息をつく暇もないほど攻撃していた利也が、その手を止めた。

 「…何でだ?」

鏡を見た後、周囲を見渡す利也。道後達を見ているのではない。空間そのものを見ていた。

 「お前の武器は腕…それはもう使えねぇ武器だろ。次に足…得意のフットワークはこんな狭くて足場の悪い所じゃ意味が無ぇ。つまりお前には今何にも無ぇって事だ。なのに…」

利也の言葉を無言で聞いている鏡。その目には光がある。

 「何だよ、その目は?」

鏡を正面から睨む利也。

 「何でもっと顔を歪めねぇ?何で苦しまねぇ?…何で諦めねぇんだ!」

そして攻撃を再開する為、武器を構えた。

 「場凌ぎの足技なんて俺には通用しねぇ…つまりお前は俺に勝てねぇんだよ!…だからもう観念して倒れろよ!そうすりゃ…楽になれるぞ。」

利也の様子がおかしい。鏡は、今までと違う雰囲気を感じ取った。

 「…僕を倒せるのは、竜沢くんだけだからです。」
 「はぁ?」
 「竜沢くん以外に、僕は倒せません。」
 「意味分かんねぇ…が、じゃあもう倒れなくてもいいぞ。…立ったまま気絶させてやらぁ!」

利也が左手の武器を投げ、それを左側に避ける鏡目掛けて右手の武器で攻撃する!今までで最も速い動きだった!

 「くらえよ!」
 「僕は…倒れない!」

左腕を上げ、利也の武器を真正面から前腕で受ける!肉がえぐられる様な痛みに耐え、右腕を下から上へ振り上げる!

 「ごぶっ?!」

利也の顎に、鏡の渾身の右アッパーが決まった。顔がひしゃげ、後方に飛ばされる利也。

 「がはっ!…な、なん、で…お前、腕…」

床面に倒れ、言葉を絞り出す利也。もう立ち上がれそうもない。

 「最後まで取っといたんです。腕がもう上がらないと思っていたあなたを、確実に一発で倒す為にね。」
 「だ、だからって、き、傷だらけの…腕で、受け、る…なん…」
 「…竜沢くんと会えて僕は変われた。竜沢くんと戦った後、僕はそれまで以上に鍛えました。でもそれは、竜沢くんと会う前とは全然違うものだった。何をするのも楽しくなくて本当につまらない毎日だったのが、あれからは全てが楽しくて…トレーニングももっと楽しくなって…何より、明日が来る事が楽しくてしょうがなかった。」

話しながら倒れている利也に近付いて行く鏡の左腕からは血が滴り落ちていた。しかしその表情は、先程と打って変わって笑顔になっていた。利也はその笑顔に、今まで味わった事の無いもの…何か分からない暖かいもの…その何かを、確かに感じていた。

 「竜沢くんは僕にとって最高の人です。竜沢くんは誰よりも強い。僕なんかよりずっと強い。そしてあなたは絶対に竜沢くんに勝てない。僕を倒せなかったのが、その証拠です。」
 「う…うう…」

利也の目に、誇らしげな表情をした鏡が映る。

 「…あなたは僕と似てます。けど、大きく違うところがある。…それは竜沢くんと出会えなかったこと。それに尽きます。」

鏡は竜沢と出会った時の事を思い浮かべていた。その後、甲や隆正、七月、学美、そして流香の顔を思い浮かべる。

 「そして、竜沢くんと似てるところもあります。ただ…あなたは仲間を作ろうとしなかった。彼らはあなたの為に自分を犠牲にして戦ったのに、それに気付けない。気付こうとしなかった。そこが…あなたと竜沢くんとの大きな違い。そして、それら全てがあなたの敗因です。」

実際、鏡の両腕はかなりのダメージを負っていた。それでも動かす事が出来たのは、竜沢への思い。
甲の拳、隆正の足、鏡の腕…竜沢への思いは力となり、強さとなる。

 「か…は………」

利也は横で倒れている道後達を見た後、気を失った。

 「…ふぅ。さて、と。」

鏡は息を吐き、左腕を押さえながら階段を上り始めた。

 「竜沢くんを追いますか。…あ、あれ?」

ふら付き、階段の手すりにもたれ掛かる鏡。

 「おかしい…ですね。うまく歩けないな。」

三階の方を見上げる鏡。

 「今、行きますよ…竜沢くん。」

その思いとは逆に、鏡の両膝は力を無くし、ガクッと崩れ落ちそうになった。

 〝鏡、ゆっくりでいいからな………待ってるからな〟

鏡の脳裏に別れ際の竜沢の顔が浮かび、最後に竜沢の心の内が聞こえた気がした。

 「…!」

踏みとどまる鏡。そして自分の右腕で左腕を強めに握った。

 「ぐっ!」

その痛みで意識を保つ鏡。

 「竜沢くんが待ってる…僕は、竜沢くんの所へ行くんです。」

鏡は、一歩ずつ確実に階段を上がって行く。


 塾長専用トレーニングルームでは、竜沢とブラックマスクの戦いが熾烈を極めていた。

 「はーっはっはっはぐぐっ!」
 「ぐぶぅおっ!」

ブラックマスクの右拳を顔面に受けながら殴り返す竜沢。ほとんどの攻撃がカウンター気味にブラックマスクに当たる。竜沢の顔の傷は急速に治るが、ブラックマスクのダメージは残る。仮面を被っている為見た目には分かりづらいが、仮面の下はもう傷だらけである。

 「ふぉおう!」

ブラックマスクの回し蹴りが竜沢にクリーンヒット。しかし、その攻撃の威力を利用して一回転した竜沢は、一瞬で間合いを詰めてブラックマスクの脇腹に蹴りをヒットさせる。

 「がぐぅ?!」
 「くっくくっ!はーはっはっはぁ!」

よろけたブラックマスクに対し、真っ直ぐ突っ込んで右の拳を顔面にぶち込む竜沢。そのまま連続で膝蹴りを腹部に当てる。竜沢の攻撃はスピードも格段に上がっていた。
吹っ飛んで倒れるブラックマスク。

 「ぬ…ぬぅぅうん!」

何かに憑りつかれた様に立ち上がるブラックマスクの眼前に、竜沢の凶悪な顔があった。既に近距離まで詰めていたのだ。

 「くあっははははっ!」
 「ぐごぉお!」

突っ込んで来た勢いそのままの頭突きを額にくらい、後方に倒れるブラックマスク。更に、倒れたブラックマスクの腹部目掛けて竜沢の膝が落ちて来る。

 「うぉお?!」

咄嗟に横に転がって竜沢の膝をかわしたブラックマスクだが、床面に膝を強打したというのに怯む事無く直ぐに体を捻り、ブラックマスクの顔面に拳を落として来る竜沢。ブラックマスクはもう一度回転してこれをかわすが、竜沢はそれを追って何度も拳で殴りつけてくる。ブラックマスクは回転の速さを上げて転がり、拳をかわしながら立ち上がった。竜沢は拳を複数回床面に強打したにも関わらず、間髪入れずに立ち上がったブラックマスクとの間合いを詰める飛び蹴りを、笑いながら放つ。

 〝な、なんて化け物だ!なんて…ば、化け…物?〟

ブラックマスクの脳裏に黒い闇が浮かんだ。闇が身体を包んで行く…


 「鳴尾(なるお)、復讐しろ。」

大柄の男が、鳴尾という男に言う。

 「お前を地獄に落とした奴に復讐するんだ。」
 「復讐…」
 「そうだ。お前の夢を潰すと分かっていたのに、奴はやめなかった。」
 「う、うう…」

鳴尾は頭を抱えた。

 「あ、あいつは俺の親友…だ。」
 「親友?じゃあ何故お前の夢を潰した。」
 「ぐ、うう…!」
 「親友の夢を潰すのが親友かね?じゃあどうだろう。次はお前が親友の夢を潰してやる、というのは。」
 「何…?」
 「お前が受けた苦しみを奴にも味わってもらうんだ。そうすれば分かるよ、お前の苦しみ…夢を潰された痛みが。そうすれば本当の親友になれるんじゃないか?どうだ?」

男は黒い仮面を鳴尾に渡す。

 「こ、これは…」
 「奴は白い仮面を被った化け物だ。化け物は普通の人間には倒せない。お前はこの黒い仮面を被り、黒い化け物となって奴の夢を潰すんだ。」
 「化け物…ゆ、夢…」
 「そうだ。川波鏡という、奴の大事な夢を…な。」


 …ハッとするブラックマスク。向かって来る竜沢が視界に入る。

 「ふわっはっはっはぁ!」
 「うおお!」

辛うじて竜沢の飛び蹴りをかわすブラックマスクだったが、竜沢は着地した瞬間に右の拳をブラックマスクの顔にヒットさせた。更にもう一発。

 「むうぉう!」

たまらず両手で顔を覆うブラックマスクだが、次はガラ空きの腹部に竜沢の蹴りが決まる。
竜沢の動きは全く止まらない。攻撃力も衰えない。スピードは上がってきている。いつまでも続く攻撃に、ブラックマスクは苦しんでいた。中でもブラックマスクを一番追い詰めていたのは…

 〝傷が無い。治っている、のか?〟

攻撃のヒット数はほぼ互角。だが竜沢にはダメージが無い…そう感じていた。
ブラックマスクの攻撃力は徐々に下がっている。スピードも落ちてきている。傷も増え、痛みの箇所が分からないぐらいであった。黒い仮面も所々破れていた。

 〝負ける…か。もう、それもいいだろう〟

ブラックマスクはこの時、どこかホッとしている自分を感じた。破れる仮面と同調するかの様に、心の闇が消えていく…そんな気がしていた。しかし…

 〝復讐しろ〟

利住が言う。

 〝復讐しろ〟

利也が言う。
そしてブリオが、フォーターが、ゴンザ、森林、黒房、鶴野、道後……

 〝復讐しろ〟

最後に深雪が言う。

 「…ふ、ふおおおおおおおおおおお!」

心の闇を消す事など…黒い仮面は許さない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...