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第二十七章
それぞれの逆境
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もし、アローズがゴールする度に酒を奢り乾杯をする決まりになっていたら、俺とアリスさんは酷い事になっていただろう。それくらい、その後の試合展開は一方的なモノになっていた。
2-0というセーフティリードを得たアローズはかつての姿――深く守って少数で鋭いカウンターを放つ――と、新しい姿――ラインを上げてスペースを消し、複数でゾーンプレスをかけ奪った勢いで素早く攻めきる――とを巧みに使い分け、ハーピィゴールを襲い続けた。
ダリオさんが強引なドリブルからミドルシュートを放てば、リーシャさんがダイビングヘッドで飛び込む。レイさんがドリブルでGKまで交わして無人のゴールに流し込めば、ポリンさんのシュートがペティ選手の羽根を弾き飛ばしてネットに突き刺さる。
その中でレイさんとポリンさんのプレイがゴールを上げ前半40分まででスコアは4-0となっていた。これはアローズの攻撃が爆発していると言えるが、ハーピィチームの崩れ方が酷いとも言えた。
「怖いもんだな……」
俺は個々の選手、そしてテクニカルエリアで右往左往するトナー監督の顔を見ながらそっと呟く。バード天国の下手な音楽で調子が狂った、プレイスタイルの相性が悪い、ゾーンプレスにも慣れていない……。苦戦の理由は幾つもある。だが俺の見た所それ以上に問題があるとすれば、逆境の経験が少ないという部分だ。
ハーピィチームはここ数年でもっともタレントが揃っている。これはサッカードウチームとしてもアイドルグループとしても、だ。昨年2部での成績こそゴブリンチームの後塵を拝して2位であったが、試合内容の大半はボールと主導権を握って余裕の勝利。また1部昇格後はゴブリンチームと対照的に勝利を重ねている。かなり順風満帆だ。順風過ぎた、と言っても良いかもしれない。
それゆえ歯車が狂った時の建て直し方を、いや恐らく歯車が狂った状態というのがどんなモノかすらも分かっていない。急いで攻めようとする選手とじっくりボールを回そうとする選手がいる、いつもの場所へいつものスピードでパスが出せない、どちらが前に出て守備をするかお見合いになる。
そんな時は指揮官としてどうすれば良いか? 俺はそんな事を考えながら腕組みしていた。
「あらあらどうしたんですかショーキチ先生? 変な顔して? うりうり~」
深く考え込む俺の頬を、陽気なエルフ教師が人差し指でぐりぐりと突いた。
「ちょっとアチラの監督になった気持ちで考えていたんですよ」
俺はややむすっとした声で応える。我ながら良い顔で黙考していて渋いな、と自負していたのになあ。
「アチラの監督!? あーっ! 美人ですもんねー」
アリスさんは俺と正反対の締まりのない顔で言った。彼女は席に着いた時よりも更に陽気になっている。まあそりゃ陽気になろうってものだ。あのあと結局、俺に奢った酒も半分くらい横取りしたし。いやそれは酔うのを避けたかった俺が貰ってもらったという面もあるが。
「いや、そういうのじゃないです」
「あらあら。じゃあもっとウチの子らを見てやって下さいな!」
俺が渋い顔を維持して首を横に振ると、アリスさんはまた肘で俺の上腕を突きながらピッチを指さした。彼女を更に陽気にさせているのは教え子のゴールである。レイさん2得点にポリンさんも1得点。生徒さんの中には
「サッカードウは全く分からないけど同級生が出てるらしいので……」
みたいな層もいたが、そんな彼ら彼女らも含めて得点の度に大騒ぎだ。
ただ呼吸に含まれる酒気を生徒さんたちに察知されるのを危惧してか、学生コンビのゴールを祝う時は走りながらハイタッチして帰ってくるだけになっていた。浮ついているようで冷静だなこの先生。
「もちろんそちらも見てますよ。見てるから悩んでいるんですよ」
「え? それは何故? まさかレイちゃんだけでなくポリンちゃんまで手を出すかどうかとか……?」
「出しません! あと出してもいません!」
俺はきっぱりとそう言った。前者はポリンさんについて、後者はレイさんについてだ。と言うかレイさんからどんな事を聞かされているんだ? これは機会があればちゃんと問いたださねば。
「じゃあ何が悩みなんです? こんなに圧勝しているのに」
「監督というのは難儀で、ある意味ひねくれ者でないといけないんですよ。勝ってる時は駄目になったらどうなるか心配しなきゃだし、負けてる時は逆に『何も怖くない、大丈夫だ』という態度を見せる必要があるし……」
「なるほど……」
その言葉を聞いてアリスさんは俺と同じように腕を組みウンウンと頷く。今回は茶化さないんだな。
「私もそうです! 私たち、似たところが多いですね!」
アリスさんは眉を上げ下げしながら俺を横目で見て言った。あれ? これはやっぱりボケの方か?
「教師も考えないといけないことが多いんですよー」
いや真面目な方だった。しかしスタジアムで試合を観つつ酒を飲んで仕事の愚痴を言い合うって、会社帰りに観戦するサラリーマンみたいだな!
「ですよね……」
そんな事を言いつつ、俺は意識を試合へ戻した。アリスさんには抽象的な事で誤魔化したが、ピッチの上では確実に深刻な問題が進んでいた。
次のハーフタイムは重要な15分になるぞ……。
第27章:完
2-0というセーフティリードを得たアローズはかつての姿――深く守って少数で鋭いカウンターを放つ――と、新しい姿――ラインを上げてスペースを消し、複数でゾーンプレスをかけ奪った勢いで素早く攻めきる――とを巧みに使い分け、ハーピィゴールを襲い続けた。
ダリオさんが強引なドリブルからミドルシュートを放てば、リーシャさんがダイビングヘッドで飛び込む。レイさんがドリブルでGKまで交わして無人のゴールに流し込めば、ポリンさんのシュートがペティ選手の羽根を弾き飛ばしてネットに突き刺さる。
その中でレイさんとポリンさんのプレイがゴールを上げ前半40分まででスコアは4-0となっていた。これはアローズの攻撃が爆発していると言えるが、ハーピィチームの崩れ方が酷いとも言えた。
「怖いもんだな……」
俺は個々の選手、そしてテクニカルエリアで右往左往するトナー監督の顔を見ながらそっと呟く。バード天国の下手な音楽で調子が狂った、プレイスタイルの相性が悪い、ゾーンプレスにも慣れていない……。苦戦の理由は幾つもある。だが俺の見た所それ以上に問題があるとすれば、逆境の経験が少ないという部分だ。
ハーピィチームはここ数年でもっともタレントが揃っている。これはサッカードウチームとしてもアイドルグループとしても、だ。昨年2部での成績こそゴブリンチームの後塵を拝して2位であったが、試合内容の大半はボールと主導権を握って余裕の勝利。また1部昇格後はゴブリンチームと対照的に勝利を重ねている。かなり順風満帆だ。順風過ぎた、と言っても良いかもしれない。
それゆえ歯車が狂った時の建て直し方を、いや恐らく歯車が狂った状態というのがどんなモノかすらも分かっていない。急いで攻めようとする選手とじっくりボールを回そうとする選手がいる、いつもの場所へいつものスピードでパスが出せない、どちらが前に出て守備をするかお見合いになる。
そんな時は指揮官としてどうすれば良いか? 俺はそんな事を考えながら腕組みしていた。
「あらあらどうしたんですかショーキチ先生? 変な顔して? うりうり~」
深く考え込む俺の頬を、陽気なエルフ教師が人差し指でぐりぐりと突いた。
「ちょっとアチラの監督になった気持ちで考えていたんですよ」
俺はややむすっとした声で応える。我ながら良い顔で黙考していて渋いな、と自負していたのになあ。
「アチラの監督!? あーっ! 美人ですもんねー」
アリスさんは俺と正反対の締まりのない顔で言った。彼女は席に着いた時よりも更に陽気になっている。まあそりゃ陽気になろうってものだ。あのあと結局、俺に奢った酒も半分くらい横取りしたし。いやそれは酔うのを避けたかった俺が貰ってもらったという面もあるが。
「いや、そういうのじゃないです」
「あらあら。じゃあもっとウチの子らを見てやって下さいな!」
俺が渋い顔を維持して首を横に振ると、アリスさんはまた肘で俺の上腕を突きながらピッチを指さした。彼女を更に陽気にさせているのは教え子のゴールである。レイさん2得点にポリンさんも1得点。生徒さんの中には
「サッカードウは全く分からないけど同級生が出てるらしいので……」
みたいな層もいたが、そんな彼ら彼女らも含めて得点の度に大騒ぎだ。
ただ呼吸に含まれる酒気を生徒さんたちに察知されるのを危惧してか、学生コンビのゴールを祝う時は走りながらハイタッチして帰ってくるだけになっていた。浮ついているようで冷静だなこの先生。
「もちろんそちらも見てますよ。見てるから悩んでいるんですよ」
「え? それは何故? まさかレイちゃんだけでなくポリンちゃんまで手を出すかどうかとか……?」
「出しません! あと出してもいません!」
俺はきっぱりとそう言った。前者はポリンさんについて、後者はレイさんについてだ。と言うかレイさんからどんな事を聞かされているんだ? これは機会があればちゃんと問いたださねば。
「じゃあ何が悩みなんです? こんなに圧勝しているのに」
「監督というのは難儀で、ある意味ひねくれ者でないといけないんですよ。勝ってる時は駄目になったらどうなるか心配しなきゃだし、負けてる時は逆に『何も怖くない、大丈夫だ』という態度を見せる必要があるし……」
「なるほど……」
その言葉を聞いてアリスさんは俺と同じように腕を組みウンウンと頷く。今回は茶化さないんだな。
「私もそうです! 私たち、似たところが多いですね!」
アリスさんは眉を上げ下げしながら俺を横目で見て言った。あれ? これはやっぱりボケの方か?
「教師も考えないといけないことが多いんですよー」
いや真面目な方だった。しかしスタジアムで試合を観つつ酒を飲んで仕事の愚痴を言い合うって、会社帰りに観戦するサラリーマンみたいだな!
「ですよね……」
そんな事を言いつつ、俺は意識を試合へ戻した。アリスさんには抽象的な事で誤魔化したが、ピッチの上では確実に深刻な問題が進んでいた。
次のハーフタイムは重要な15分になるぞ……。
第27章:完
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