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第一章『東雲先輩』
第一章 その②
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たった百メートルあるかないかの距離だったというのに、僕の頬には汗が浮かび、最近買ったばかりの冷感パーカーが背中に貼りつくような感じがした。心なしか喉がひび割れるように乾き、スニーカーのソールがアスファルトに焼け付くような感覚もある。
夏だなあ……と思い、生暖かいため息をついて見上げると、頭上には白い太陽があって、この世界の全てを溶かさんとする勢いで熱線を振りまいていた。
いつもなら盛って鳴き喚いている蝉の気配が全くしない辺り、この暑さの異様さを物語っていて、少しぞっとするものがあった。
これがエルニーニョ現象……、いや、地球温暖化か? そんなどうでもいいことを考えながら、学生会館に辿り着くと、反応の悪いセンサーに手を翳し、自動扉を開けた。
一歩踏み入れただけで冷えた空気が押し寄せ、火照った肌を撫でていく。
氷水に浸した素麺みたく、少し硬い動きで階段へと向かった。
階段の踊り場の近くで練習していた、軽音楽部の汚い演奏に耳を傾けつつ、四階へと昇る。
廊下を少し進み、ある扉の前で立ち止まった。
扉には、拙い文字で「文芸部」とある。
「……よし」
早速、ドアノブに手を伸ばそうとして、固まった。
なんだか、悪魔の潜む洞窟に飛び込むような気がした僕は、一度腕を下げ、肩を落とし、大きく深呼吸した。そして、神に祈るように、手を胸の前で合わせる。
「……頼む、お金以外であってくれ」
僕は今、青村さんの忠告を無視して、学内じゃ変わり者とされる東雲先輩のいるところに来ているわけだ。だからと言って、僕が「クズ人間に喜んで金を貸す変わり者」と思われるのは心外である。僕だって、それ相応に常識のある人間だ。彼女に金を貸すのは嫌だし、彼女にも、ギャンブルはやめてほしいと願っている。
だが、惚れた弱みってやつだ。
金を集られようが、ぱしりに使われようが、彼女と向かい合い、いがみ合いをすることは、彼女に貸した十二万……いや、十三万か? いや、十六万だったかも。ああもう! 面倒だ! 四捨五入で二十万円分に匹敵する価値を持っていた。
とは言え、懐を裂いていることに代わりは無く、これ以上彼女に金を集られたら、部屋の片隅で首を吊った自分の姿は、容易に想像ができた。
「お願いします、これ以上、僕からお金をとらないでください……」
そうだ、肩もみが良い。肩もみを要求されたい。
文芸部員の先輩は毎日の執筆で疲れているんだ。肩もみをしてやれば、彼女は疲れが取れてラッキー。僕は、彼女の柔肌や、菱形筋や棘上筋の輪郭を確かめることができ、さらには、彼女の髪から漂う、なんだかんだ甘い香りも堪能できるんだ。それは「ラッキー」なんて言葉で許容できるものではなく、「神様にキスをされる」くらいの勢いを持って僕を包み込むのだ。
そして、世界には平和が訪れるのだ。
「よし、それでいこう」
別にまだ何かを要求されているわけではないというのに、そう判断した僕は、ドアノブを掴んでいた。
貼りついた絆創膏を剥がすがごとく、一気に開け放つ。
扉の先にあったのは、六畳ほどの狭い部屋。
壁際には僕の背よりも高い本棚があり、小説やら漫画やらが所狭しと詰め込まれていた。収納できない分は床にうず高く積み上げられ、今に倒れんと揺れている。実際倒れたようで、扉に何か重いものが引っ掛かっている感じがした。
そんな雑然とした部屋の奥の、窓際。
かつての文豪が使っていそうな年季の入った机に、その女性は腰を掛け、僕を待っていた。
彼女こそ、僕がお世話になっている……というか、お世話をしている、東雲秋帆先輩だった。
「やあ、来たか、水無瀬」
そう言って首を傾げると、夜空に浸して染めたような黒髪が揺れる。緩んだ頬は、柔らかな陽光のように白く、華奢な体を、セーラー服を模したパーカーが覆っている。
文芸部に所属する文芸少女の肩書にふさわしい、物静かな雰囲気を纏った先輩。しかし、僕を見つめるその目は鋭く、まるで夜の闇より獲物を狙うブラックパンサーの気高さを髣髴とさせた。
「こんにちは、先輩」
僕は作り笑みを浮かべつつ、部屋に踏み入り、扉を閉める。
「じゃあ、早速揉みほぐしていきますね」
「入って来て早々何を言っているんだ!」
不敵な笑みを浮かべていた彼女の顔がさっと青くなり、危うく椅子から落ちそうになった。
「別に、肩を揉ませようとして君を呼び出したわけじゃない!」
この時点で、「肩もみであってくれ」と思う僕の願いは、儚くも散ってしまった。
「なんでえ、肩もみじゃないんですか」
僕は舌打ちと共に地団太を踏む。
「肩もみじゃないなら帰りますからね」
「待て! 話ついでに揉んでいけ」
「よしっ!」
拳を握り、ガッツポーズ。
足元に散乱した小説や漫画の類を踏まないようにしながら、腰かけた東雲先輩の背後に回り込む。そして、深呼吸をした後、準備運動と言わんばかりに、指を閉じたり開いたり。空気を揉んだり揉まなかったり。
「それじゃあ、行きますね」
「いや待て、なんか仕草が気持ち悪い」
先輩はくるっと椅子を回し、僕と向かい合った。
こほん……と大げさに咳をすると、本題に入る。
「それで……、今回君を呼び出した要件なのだが……」
「あ、お断りします」
先輩と出会って約一年半。彼女に金を集られること、約二十六回。
彼女の美しさと、その怠惰さと、クズさをずっと目の当たりにしてきた僕の目は、彼女が胸の前で手を合わせようとするところを見逃さなかった。
この動きは、「金を貸してくれ」と頼むときの動きだ。
「お金以外でお願いしますよ。肩もみとか肩もみとか肩もみとか」
「肩もみはもういい!」
先輩は納得していないように椅子から立ち上がった。
「ってか、まだ何も言ってないだろ! 失礼な奴だな!」
「いや、絶対金を貸してくれって言おうとしたでしょ」
「馬鹿か! 私をなんだと思ってる!」
「人に金を貸してくれ……と頼んだ挙句、借りた金でギャンブルやって溶かすクズ人間」
「うぐっ!」
先輩は、胸に槍が刺さったかのようなうめき声をあげた。
頬にじとっとした汗をかきつつ、酸欠の魚のように口をぱくつかせる。
「い、いや、それはっ……」
足元にあった本の山を倒し、僕に詰め寄ろうとして固まった。
「そ、それは……」
「図星なんですね。バレバレなんですよ」
僕はため息をつき、窓の淵にもたれかかった。
「もういい加減、散財やめましょうよ。どうせ今日だって、馬券買ったんでしょう?」
「か、買ってないもん」
先輩が目を逸らすときは、大抵嘘をついている時だった。
「ああ、そうですか」
先輩に近づくと、そのセーラー服を模したパーカーの胸倉を掴んだ。
「あっ! ちょっと、何すんのさ、この変態!」
抵抗する先輩を無視して、彼女の軽い身体を揺すると、どこからともなく、今日のレースの日付が記された馬券が落ちてきた。
それを見て、僕は大げさにため息をついた。
「ほら買ってる。どうせ当たらないんだから、やめたらいいのに」
「馬鹿だね。競馬ってのは、金を得るためにやるんじゃない。お馬さんらの迫力あるレースを楽しむためにあるのさ」
開き直った先輩は、にやりと笑いながらそれを拾うと、僕の鼻先でそれを揺らした。
「金が当たるかどうかなんて二の次さ。私はレースが楽しめればそれでいいんだよ。当たればラッキーって言って拳を握り、外れたって、まあそんなもんか……って、馬券を捨てるだけさ」
「ああ、そうですか」
ポケットからスマホを取り出し、今日のレースの結果を検索すると、先輩の鼻先に翳した。
にやついていた先輩の目が見開かれる。そして、血眼になってスマホを凝視した後……。
「ちっ」
舌打ちと共に、馬券を握りつぶした。
「なんで舌打ちを? そこは『まあこんなものか』って言って、捨ててくださいよ」
「マア、コンナモノカ」
なぞる様に言った先輩は、粉々に破った馬券を宙に放った。
紙吹雪が、悔しくも美しく舞い、埃っぽい床に落ちていく。
スニーカーのつま先に落ちた一欠けらを、僕は邪険に振り払った。
「もういいですか?」
夏だなあ……と思い、生暖かいため息をついて見上げると、頭上には白い太陽があって、この世界の全てを溶かさんとする勢いで熱線を振りまいていた。
いつもなら盛って鳴き喚いている蝉の気配が全くしない辺り、この暑さの異様さを物語っていて、少しぞっとするものがあった。
これがエルニーニョ現象……、いや、地球温暖化か? そんなどうでもいいことを考えながら、学生会館に辿り着くと、反応の悪いセンサーに手を翳し、自動扉を開けた。
一歩踏み入れただけで冷えた空気が押し寄せ、火照った肌を撫でていく。
氷水に浸した素麺みたく、少し硬い動きで階段へと向かった。
階段の踊り場の近くで練習していた、軽音楽部の汚い演奏に耳を傾けつつ、四階へと昇る。
廊下を少し進み、ある扉の前で立ち止まった。
扉には、拙い文字で「文芸部」とある。
「……よし」
早速、ドアノブに手を伸ばそうとして、固まった。
なんだか、悪魔の潜む洞窟に飛び込むような気がした僕は、一度腕を下げ、肩を落とし、大きく深呼吸した。そして、神に祈るように、手を胸の前で合わせる。
「……頼む、お金以外であってくれ」
僕は今、青村さんの忠告を無視して、学内じゃ変わり者とされる東雲先輩のいるところに来ているわけだ。だからと言って、僕が「クズ人間に喜んで金を貸す変わり者」と思われるのは心外である。僕だって、それ相応に常識のある人間だ。彼女に金を貸すのは嫌だし、彼女にも、ギャンブルはやめてほしいと願っている。
だが、惚れた弱みってやつだ。
金を集られようが、ぱしりに使われようが、彼女と向かい合い、いがみ合いをすることは、彼女に貸した十二万……いや、十三万か? いや、十六万だったかも。ああもう! 面倒だ! 四捨五入で二十万円分に匹敵する価値を持っていた。
とは言え、懐を裂いていることに代わりは無く、これ以上彼女に金を集られたら、部屋の片隅で首を吊った自分の姿は、容易に想像ができた。
「お願いします、これ以上、僕からお金をとらないでください……」
そうだ、肩もみが良い。肩もみを要求されたい。
文芸部員の先輩は毎日の執筆で疲れているんだ。肩もみをしてやれば、彼女は疲れが取れてラッキー。僕は、彼女の柔肌や、菱形筋や棘上筋の輪郭を確かめることができ、さらには、彼女の髪から漂う、なんだかんだ甘い香りも堪能できるんだ。それは「ラッキー」なんて言葉で許容できるものではなく、「神様にキスをされる」くらいの勢いを持って僕を包み込むのだ。
そして、世界には平和が訪れるのだ。
「よし、それでいこう」
別にまだ何かを要求されているわけではないというのに、そう判断した僕は、ドアノブを掴んでいた。
貼りついた絆創膏を剥がすがごとく、一気に開け放つ。
扉の先にあったのは、六畳ほどの狭い部屋。
壁際には僕の背よりも高い本棚があり、小説やら漫画やらが所狭しと詰め込まれていた。収納できない分は床にうず高く積み上げられ、今に倒れんと揺れている。実際倒れたようで、扉に何か重いものが引っ掛かっている感じがした。
そんな雑然とした部屋の奥の、窓際。
かつての文豪が使っていそうな年季の入った机に、その女性は腰を掛け、僕を待っていた。
彼女こそ、僕がお世話になっている……というか、お世話をしている、東雲秋帆先輩だった。
「やあ、来たか、水無瀬」
そう言って首を傾げると、夜空に浸して染めたような黒髪が揺れる。緩んだ頬は、柔らかな陽光のように白く、華奢な体を、セーラー服を模したパーカーが覆っている。
文芸部に所属する文芸少女の肩書にふさわしい、物静かな雰囲気を纏った先輩。しかし、僕を見つめるその目は鋭く、まるで夜の闇より獲物を狙うブラックパンサーの気高さを髣髴とさせた。
「こんにちは、先輩」
僕は作り笑みを浮かべつつ、部屋に踏み入り、扉を閉める。
「じゃあ、早速揉みほぐしていきますね」
「入って来て早々何を言っているんだ!」
不敵な笑みを浮かべていた彼女の顔がさっと青くなり、危うく椅子から落ちそうになった。
「別に、肩を揉ませようとして君を呼び出したわけじゃない!」
この時点で、「肩もみであってくれ」と思う僕の願いは、儚くも散ってしまった。
「なんでえ、肩もみじゃないんですか」
僕は舌打ちと共に地団太を踏む。
「肩もみじゃないなら帰りますからね」
「待て! 話ついでに揉んでいけ」
「よしっ!」
拳を握り、ガッツポーズ。
足元に散乱した小説や漫画の類を踏まないようにしながら、腰かけた東雲先輩の背後に回り込む。そして、深呼吸をした後、準備運動と言わんばかりに、指を閉じたり開いたり。空気を揉んだり揉まなかったり。
「それじゃあ、行きますね」
「いや待て、なんか仕草が気持ち悪い」
先輩はくるっと椅子を回し、僕と向かい合った。
こほん……と大げさに咳をすると、本題に入る。
「それで……、今回君を呼び出した要件なのだが……」
「あ、お断りします」
先輩と出会って約一年半。彼女に金を集られること、約二十六回。
彼女の美しさと、その怠惰さと、クズさをずっと目の当たりにしてきた僕の目は、彼女が胸の前で手を合わせようとするところを見逃さなかった。
この動きは、「金を貸してくれ」と頼むときの動きだ。
「お金以外でお願いしますよ。肩もみとか肩もみとか肩もみとか」
「肩もみはもういい!」
先輩は納得していないように椅子から立ち上がった。
「ってか、まだ何も言ってないだろ! 失礼な奴だな!」
「いや、絶対金を貸してくれって言おうとしたでしょ」
「馬鹿か! 私をなんだと思ってる!」
「人に金を貸してくれ……と頼んだ挙句、借りた金でギャンブルやって溶かすクズ人間」
「うぐっ!」
先輩は、胸に槍が刺さったかのようなうめき声をあげた。
頬にじとっとした汗をかきつつ、酸欠の魚のように口をぱくつかせる。
「い、いや、それはっ……」
足元にあった本の山を倒し、僕に詰め寄ろうとして固まった。
「そ、それは……」
「図星なんですね。バレバレなんですよ」
僕はため息をつき、窓の淵にもたれかかった。
「もういい加減、散財やめましょうよ。どうせ今日だって、馬券買ったんでしょう?」
「か、買ってないもん」
先輩が目を逸らすときは、大抵嘘をついている時だった。
「ああ、そうですか」
先輩に近づくと、そのセーラー服を模したパーカーの胸倉を掴んだ。
「あっ! ちょっと、何すんのさ、この変態!」
抵抗する先輩を無視して、彼女の軽い身体を揺すると、どこからともなく、今日のレースの日付が記された馬券が落ちてきた。
それを見て、僕は大げさにため息をついた。
「ほら買ってる。どうせ当たらないんだから、やめたらいいのに」
「馬鹿だね。競馬ってのは、金を得るためにやるんじゃない。お馬さんらの迫力あるレースを楽しむためにあるのさ」
開き直った先輩は、にやりと笑いながらそれを拾うと、僕の鼻先でそれを揺らした。
「金が当たるかどうかなんて二の次さ。私はレースが楽しめればそれでいいんだよ。当たればラッキーって言って拳を握り、外れたって、まあそんなもんか……って、馬券を捨てるだけさ」
「ああ、そうですか」
ポケットからスマホを取り出し、今日のレースの結果を検索すると、先輩の鼻先に翳した。
にやついていた先輩の目が見開かれる。そして、血眼になってスマホを凝視した後……。
「ちっ」
舌打ちと共に、馬券を握りつぶした。
「なんで舌打ちを? そこは『まあこんなものか』って言って、捨ててくださいよ」
「マア、コンナモノカ」
なぞる様に言った先輩は、粉々に破った馬券を宙に放った。
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