16 / 49
御成街道
長生きチョンパ
しおりを挟む
海老川を渡って直ぐ、割と交通量の多い交差点に差し掛かると、街道は東に一気に登りになった。
その右端の高台に船橋大神宮はある。
標高はせいぜい5メートルくらいかな。
高さは無いけど、結構というか、かなり急な石段がある。
「2人共大丈夫か?なんなら、このまま海の方に向かってテクテク歩けば、平坦な正面の鳥居から入れるけど。」
「社長、私達スカートじゃないから大丈夫ですよ。」
「いや、心配すべき箇所が違うぞ。」
私と社長と話が噛み合わないのは、いつもだ。勿論、わざとだ。
私と社長にだけ許される悪ふざけだ。
大体、脇街道を歩くって言う企画なのに、女子高生のミニスカートから覗く白くて美味しそうな生脚を社長に見せびらかせていたら、歩くどころの騒ぎではあるまいて。(社長じゃなくて、主に私の羞恥心方面が)
「私も理沙もスラックスですし、このくらいの階段は特に問題ある体力はしてませんよ?」
あれれ。
お姉ちゃんも思想に私と大差なかったよ。
いや、ウチの社長は多分私達の後から上がってくるだろうけど、それは私達姉妹のパンツを覗く為ではなく、転げ落ちた時に壁になってあげる為だよ。
そこら辺は、こちらがジリジリするほど健全な男だ。
私が時々事務所のお風呂を借りてる時も、あの野郎一度たりとて覗きに来ねえ!
いつでもこっちは待っているんだぞ。
(社長が入浴中に私が素っ裸で乱入した事ならある。だって雨に降られてビチョだったからと言い訳で)
案の定、先頭私、真ん中お姉ちゃん、最後に社長というフォーメーションで、何の問題もなく上がれた。
雨降りの後でなく、まだ歩き始めて1時間も経ってないし。
足元も体力も、問題なし!
オールクリア!
★ ★ ★
でも、確かにこっちは裏口だなぁ。
出て来た場所は本殿の裏。
小さなお社が幾つか並んでいるけど、人通りはないし。
「先生?さっきの道祖神社と違って、ここは街道に背を向けているんですね。」
「この神社の祭神は太陽神だから、北じゃなくて南を向いている。それだけだよ。あと多分、街道よりこの神社の方が古いから。」
「という事は。この神社の南には何があったんですか?もっと古い街道とか。」
「ん?海。」
「はい?」
面白い。
社長の前では、家族しか見た事ないような、お姉ちゃんの「素」が出っぱなしだ。
「次の次の京成の駅は、今は船橋競馬場だけど、僕の父が子供の頃はセンター競馬場前って名前だったんだって。」
「センター?産業振興センター前的な?」
「お姉ちゃん、それどこ?」
これはお姉ちゃんがボケたんだな。
どうやって突っ込もう。って、社長は拝殿までとっとと歩いてっちゃった。
慌ててお姉ちゃんの手を取って、後を追いかける私。
社長は神前・仏前だと、いつでもどこでも背筋をピンと張っていて、顎を引いていて、惚れ惚れするほど姿勢が正しい。
手の空いた時にソファに転がって、片足を背もたれに引っかかって、シャツが捲れ上がり腹を見せたまま、チビの耳の裏を掻いているだらしない男と、本当に同一人物なのだろうか。
今も二礼二拍手一礼。その姿の見事なこと。
「柏手を打つ時は、右と左の掌を若干上下にずらしながら打つといいよ。それほど大きくはないけど、しっかりとした音が出せるから。」
柏手の打ち方を知っているライターってなんなのよ。
「金沢区にある駅だな、それ。」
「はい?」
参拝(真面目モード)を終わらせて、産業振興センターの話にいきなり戻った。
「社長は何故他県の駅を知ったいるんですか?鉄ちゃんなの?馬鹿なの?死ぬの?」
「僕は鉄ちゃんではないし、鉄ちゃんだと馬鹿で死ななけれはならないの?」
「いや、鉄ちゃんで馬鹿なら、一緒に死んでも良いかなって。」
「あまり心中を勧めないでください。来週の鉄腕ダッシュがダッシュ島メイン回なので、せめてそれが見たいです。」
「うむ。許す。私的には出産もしてみたいし。社長、何人欲しい?」
「因みにセンター競馬場のセンターは船橋ヘルスセンターのセンターな。」
お姉ちゃんさぁ。
そろそろ止めないと社長も私も、その気になると猪突猛進に真面目にあるけど、「別」のその気になると話しが脱線して終わらないからね。
さっきの交差点から、話が脱線しっぱなしだよ。
まぁ、社長の脱線話は面白いから、私は止めないけど。
「まぁ簡単に言えば、僕の大学が横浜だったから。」
「あら、そうなんですか?」
「ええ、フェリスなんです。」
「社長、それ女子大です。社長は千葉大でしょ。」
「園芸学部です。」
「作家が畑仕事してどうするんですか!」
「じゃあ、医学部?」
「なんで疑問形で、よりによって日本最高レベルの医学部を選ぶんですか?社長は文学部でしょ。」
「県立校から地元国大に行ったので、教育費が安く上がった孝行息子です。」
「中学から私立で悪うございましたね。」
などなどグダグダ言いながら。
私達は、境内を鳥居に向かって歩き出す。
多分、社長的にはさっきの階段を私達女性2人に降りられたくないんだろう。
「船橋ヘルスセンターって言うのは、海を埋め立てて作った、今で言うスーパー銭湯だな。ついでにプールと遊園地とサーキット場があった。」
「はぁ。」
「この近隣には谷津遊園もあったし、千葉県民にとってはお手軽なレジャー施設だったんだって。」
「谷津遊園、24歳の私でも、名前だけは聞いたことあります。」
「潰れちゃったんですか?」
「資本と従業員は丸ごと舞浜に移ったよ。」
「あ…。」
「近いし、あっちの方が規模が大きいからね。同じところが経営するなら、併立させないさ。」
♪ちょんぱ、ちょんば
あのねお姉ちゃん。
私と社長が多少ビジネスチックは話を始めたら、何スマホいじっているのよ。
「これが当時のコマーシャルですか。シンプルだけど印象的ですね。一度見たら忘れなさそうです。」
お姉ちゃんは、船橋ヘルスセンターの名前を聞いて直ぐ検索したらしい。
YouTubeなんかで、当時の映像が共有されてるって、便利よね。
なんか同じ顔のお爺さんの首が右を向いたり左を向いたり。
ちょんば。ちょんば。
のリフレインも、なんだか耳に心地よい。
「当時の流行語になったそうだよ。」
「わかりますねぇ。これ、一度見ただけで耳に残ります。」
お姉ちゃんは、ちょんぱちょんぱ口ずさんでいる。
「因みにこれ、流行語になったくらいだから、派生語もあるんだよ。」
「ちょんぱちょんぱ、なんですか?」
お姉ちゃんが幼児退行し始めてる。
これは社長に呆れられる前に、私がなんとかしないと。
何しろお姉ちゃんは、社長に仕事を持って来たクライアントで、社長に見限られたら、社内でお姉ちゃんの立場がなくなる。
「首ちょんぱ。」
「…あぁ。」
あ、一瞬で帰って来た。
………
結局、北の端の階段で入った境内から、南の端の一の鳥居まで歩いてしまった。
あ、自販機がある。
社長とはそろそろお別れになるし、ここで立ちながらでも一休みと、軽く打ち合わせをしておこう。
私は1人自販機に駆け出した。
「僕の父は昭和44年の生まれだけど、小学校に上がるくらいかその前か、ドリフターズのノベルティがあったんだ。首チョンパって言う。トンボ鉛筆のノベルティだったから、父は祖父と祖母に鉛筆を沢山買ってもらったんだって。」
「トンボ鉛筆のおまけはともかく、その商品名は酷くないですか?」
「実際、握りを握ると、空気圧でドリフの首が飛んで行くおもちゃだったから。」
「……ドリフターズって、当時もう大人気でしたよね…」
「全員集合が常時視聴率40%を超えていたね。」
「なんでまた、そんなものを…。」
「首チョンパの語源になっているらしいよ。因みに僕の実家には、父が保管している首チョンパ全員分揃っているそうだよ。ヤフオクに出せば、それなりの額がつくってさ。」
そんな話を背中で聞いていた私は、自販機の前で力尽きていた。
いや、これ。
事務所の側にあるよ。
千葉の北西部に何台かあるのは知ってたよ。
でもさ、飲み物を買いに行った自販機で売っているものが「馬肉」だと思わないじゃん。
その右端の高台に船橋大神宮はある。
標高はせいぜい5メートルくらいかな。
高さは無いけど、結構というか、かなり急な石段がある。
「2人共大丈夫か?なんなら、このまま海の方に向かってテクテク歩けば、平坦な正面の鳥居から入れるけど。」
「社長、私達スカートじゃないから大丈夫ですよ。」
「いや、心配すべき箇所が違うぞ。」
私と社長と話が噛み合わないのは、いつもだ。勿論、わざとだ。
私と社長にだけ許される悪ふざけだ。
大体、脇街道を歩くって言う企画なのに、女子高生のミニスカートから覗く白くて美味しそうな生脚を社長に見せびらかせていたら、歩くどころの騒ぎではあるまいて。(社長じゃなくて、主に私の羞恥心方面が)
「私も理沙もスラックスですし、このくらいの階段は特に問題ある体力はしてませんよ?」
あれれ。
お姉ちゃんも思想に私と大差なかったよ。
いや、ウチの社長は多分私達の後から上がってくるだろうけど、それは私達姉妹のパンツを覗く為ではなく、転げ落ちた時に壁になってあげる為だよ。
そこら辺は、こちらがジリジリするほど健全な男だ。
私が時々事務所のお風呂を借りてる時も、あの野郎一度たりとて覗きに来ねえ!
いつでもこっちは待っているんだぞ。
(社長が入浴中に私が素っ裸で乱入した事ならある。だって雨に降られてビチョだったからと言い訳で)
案の定、先頭私、真ん中お姉ちゃん、最後に社長というフォーメーションで、何の問題もなく上がれた。
雨降りの後でなく、まだ歩き始めて1時間も経ってないし。
足元も体力も、問題なし!
オールクリア!
★ ★ ★
でも、確かにこっちは裏口だなぁ。
出て来た場所は本殿の裏。
小さなお社が幾つか並んでいるけど、人通りはないし。
「先生?さっきの道祖神社と違って、ここは街道に背を向けているんですね。」
「この神社の祭神は太陽神だから、北じゃなくて南を向いている。それだけだよ。あと多分、街道よりこの神社の方が古いから。」
「という事は。この神社の南には何があったんですか?もっと古い街道とか。」
「ん?海。」
「はい?」
面白い。
社長の前では、家族しか見た事ないような、お姉ちゃんの「素」が出っぱなしだ。
「次の次の京成の駅は、今は船橋競馬場だけど、僕の父が子供の頃はセンター競馬場前って名前だったんだって。」
「センター?産業振興センター前的な?」
「お姉ちゃん、それどこ?」
これはお姉ちゃんがボケたんだな。
どうやって突っ込もう。って、社長は拝殿までとっとと歩いてっちゃった。
慌ててお姉ちゃんの手を取って、後を追いかける私。
社長は神前・仏前だと、いつでもどこでも背筋をピンと張っていて、顎を引いていて、惚れ惚れするほど姿勢が正しい。
手の空いた時にソファに転がって、片足を背もたれに引っかかって、シャツが捲れ上がり腹を見せたまま、チビの耳の裏を掻いているだらしない男と、本当に同一人物なのだろうか。
今も二礼二拍手一礼。その姿の見事なこと。
「柏手を打つ時は、右と左の掌を若干上下にずらしながら打つといいよ。それほど大きくはないけど、しっかりとした音が出せるから。」
柏手の打ち方を知っているライターってなんなのよ。
「金沢区にある駅だな、それ。」
「はい?」
参拝(真面目モード)を終わらせて、産業振興センターの話にいきなり戻った。
「社長は何故他県の駅を知ったいるんですか?鉄ちゃんなの?馬鹿なの?死ぬの?」
「僕は鉄ちゃんではないし、鉄ちゃんだと馬鹿で死ななけれはならないの?」
「いや、鉄ちゃんで馬鹿なら、一緒に死んでも良いかなって。」
「あまり心中を勧めないでください。来週の鉄腕ダッシュがダッシュ島メイン回なので、せめてそれが見たいです。」
「うむ。許す。私的には出産もしてみたいし。社長、何人欲しい?」
「因みにセンター競馬場のセンターは船橋ヘルスセンターのセンターな。」
お姉ちゃんさぁ。
そろそろ止めないと社長も私も、その気になると猪突猛進に真面目にあるけど、「別」のその気になると話しが脱線して終わらないからね。
さっきの交差点から、話が脱線しっぱなしだよ。
まぁ、社長の脱線話は面白いから、私は止めないけど。
「まぁ簡単に言えば、僕の大学が横浜だったから。」
「あら、そうなんですか?」
「ええ、フェリスなんです。」
「社長、それ女子大です。社長は千葉大でしょ。」
「園芸学部です。」
「作家が畑仕事してどうするんですか!」
「じゃあ、医学部?」
「なんで疑問形で、よりによって日本最高レベルの医学部を選ぶんですか?社長は文学部でしょ。」
「県立校から地元国大に行ったので、教育費が安く上がった孝行息子です。」
「中学から私立で悪うございましたね。」
などなどグダグダ言いながら。
私達は、境内を鳥居に向かって歩き出す。
多分、社長的にはさっきの階段を私達女性2人に降りられたくないんだろう。
「船橋ヘルスセンターって言うのは、海を埋め立てて作った、今で言うスーパー銭湯だな。ついでにプールと遊園地とサーキット場があった。」
「はぁ。」
「この近隣には谷津遊園もあったし、千葉県民にとってはお手軽なレジャー施設だったんだって。」
「谷津遊園、24歳の私でも、名前だけは聞いたことあります。」
「潰れちゃったんですか?」
「資本と従業員は丸ごと舞浜に移ったよ。」
「あ…。」
「近いし、あっちの方が規模が大きいからね。同じところが経営するなら、併立させないさ。」
♪ちょんぱ、ちょんば
あのねお姉ちゃん。
私と社長が多少ビジネスチックは話を始めたら、何スマホいじっているのよ。
「これが当時のコマーシャルですか。シンプルだけど印象的ですね。一度見たら忘れなさそうです。」
お姉ちゃんは、船橋ヘルスセンターの名前を聞いて直ぐ検索したらしい。
YouTubeなんかで、当時の映像が共有されてるって、便利よね。
なんか同じ顔のお爺さんの首が右を向いたり左を向いたり。
ちょんば。ちょんば。
のリフレインも、なんだか耳に心地よい。
「当時の流行語になったそうだよ。」
「わかりますねぇ。これ、一度見ただけで耳に残ります。」
お姉ちゃんは、ちょんぱちょんぱ口ずさんでいる。
「因みにこれ、流行語になったくらいだから、派生語もあるんだよ。」
「ちょんぱちょんぱ、なんですか?」
お姉ちゃんが幼児退行し始めてる。
これは社長に呆れられる前に、私がなんとかしないと。
何しろお姉ちゃんは、社長に仕事を持って来たクライアントで、社長に見限られたら、社内でお姉ちゃんの立場がなくなる。
「首ちょんぱ。」
「…あぁ。」
あ、一瞬で帰って来た。
………
結局、北の端の階段で入った境内から、南の端の一の鳥居まで歩いてしまった。
あ、自販機がある。
社長とはそろそろお別れになるし、ここで立ちながらでも一休みと、軽く打ち合わせをしておこう。
私は1人自販機に駆け出した。
「僕の父は昭和44年の生まれだけど、小学校に上がるくらいかその前か、ドリフターズのノベルティがあったんだ。首チョンパって言う。トンボ鉛筆のノベルティだったから、父は祖父と祖母に鉛筆を沢山買ってもらったんだって。」
「トンボ鉛筆のおまけはともかく、その商品名は酷くないですか?」
「実際、握りを握ると、空気圧でドリフの首が飛んで行くおもちゃだったから。」
「……ドリフターズって、当時もう大人気でしたよね…」
「全員集合が常時視聴率40%を超えていたね。」
「なんでまた、そんなものを…。」
「首チョンパの語源になっているらしいよ。因みに僕の実家には、父が保管している首チョンパ全員分揃っているそうだよ。ヤフオクに出せば、それなりの額がつくってさ。」
そんな話を背中で聞いていた私は、自販機の前で力尽きていた。
いや、これ。
事務所の側にあるよ。
千葉の北西部に何台かあるのは知ってたよ。
でもさ、飲み物を買いに行った自販機で売っているものが「馬肉」だと思わないじゃん。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる