瑞稀の季節

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久留里街道

久留里城

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バーベキューですよ、BBQ。

具材は基本的に宿泊先の「シアトルハウス」さんが(オプションで)用意してくれた、全部地のもの。
地産地消!
お値段に見合った最高級食材が、ずらりと並んでいる。

勿論主役は、お肉!
サシで真っ白に霜が降りてる分厚くステーキ牛!(かずさ和牛ってブランドらしい)
脂身で噛まずに飲めちゃう、というか脂身自体が美味しい豚さん!(芋豚は私も聞いたことある) 
千葉地産地鶏のハーブ鶏(違いがわからん。あ、たまに食べる地鶏より柔らかい)。

更にはマトンでジンギスカンも出来るし、野菜は根菜とキノコ類が旬!
人参甘めぇ。
椎茸厚いぃ。

あ、ウチの馬鹿姉達は(特にお姉ちゃんは)鉄板が片付くまではお酒は控えめ。

「だって理沙ちゃん。こんな美味しいのに酔っ払って記憶やら味覚やらを無くしたくないもん。」

30(くらい)になってないもんもないもん。
それでも、知らぬ間に社長が用意していた木更津地ビールである「ソングバードビール」って言うビールには目の色を変えていた。

「ぷはぁぁぁぁ!」
て声を上げてる。
泡の髭を付けながら。

お酒大好きだけど極度に酔いやすいお姉ちゃんは、コップの底に少しだけ注いで、お肉と一緒に喉を湿らす事で今は我慢。

小さな工房だけに、ビール自体は大量生産が出来ないけど、南さん分と葛城家分は確保してくれているみたいで、家で飲めばいいって割り切ったみたい。

で、私は烏龍茶とか無糖炭酸水をお供に味わっているわけだけど、ウチの社長野郎はというと………


ベティナイフ(何処から持ってきた?)を持ち出して、編集者チームを拾いに行く前にスーパーマーケットで買い込んで来た、お安い食材の調理に余念がない。

ただでさえ、私を含めた女性陣が喰ってるだけで、肉一つ焼こうとしないのに。
適宜、塩胡椒を振って裏返して。
焼き上がった肉や野菜は、別に(社長が)保温用プレートに取り分けて。
炊いたご飯で、小さな焼きおにぎりを作ってる。

その傍ら、赤いウインナーをタコさんに細工(8本足に切り分けてるよぉ)しながら、カリカリベーコンを鉄板の端っこで作ってやがる。
どれだけカリカリベーコンが食べられ無くて、悔しかったんだろう。
カリカリベーコンくらい私が作ってあげるのに。(…作れるかなぁ)


更にシジミのお吸い物を、並行して作ってるよ。
今さっきスーパーで買ったものだよ?
なんでもう、砂抜き終わってるの?

「ん?貝が重ならない様に並べて、少し熱めのぬるま湯?って日本語は無いな。全盛期のダチョウ倶楽部の熱湯風呂くらいの温度に漬けておけば、故上島竜兵さんみたいにピューピュー吐いてくれるよ。学校で習わなかったかい?」
「習いません。」
「或いは母親から。」
「社長のお義母さんと、世間一般の主婦を一緒にしないで下さい。ウチのお母さんが可哀想です。」

あと、未来の私も。

「あとね、熱々おでんって、あれ実はカラクリがあるんだよ。」
「カラクリ?」

私達用に、ボロネーゼだかボロニアだか言う、お高いソーセージを焼きながら、何か言おうとしてるな。
って言うか、なんで多分、この4人の中で1番上席(編集者チームが接待しなきゃいけない関係性だよね)の社長がBBQ奉行やってんだろ。
私ら女どもは、何もしやがらない。

「あれさ。お汁はガンガンに熱くしてるけど、具は冷凍なんだ。あとは寺門ジモンがちょうどいい具合に煮たったら蓋を開けて、リーダーが竜ちゃんの口に茹で卵を入れて、竜ちゃんがリーダーの顔に吐き出してた。だから鍋の見た目は沸騰してるけど、おでん種は少し温め。」
「………それは、バラしていいんですか?」
「良いんじゃないかな。もう失われたネタだし、今は肥後リーダーが2人用のネタを盛んに作っているし。」

あぁ。
それ言われたら、何も言えないよぅ。

「そこらへんがわからない番組ADが、本物の熱々おでんを用意する様になっちゃったから、ジモンちゃんがチーム熱湯って専門チームを作ったんだ。熱湯風呂のマニュアルをきっちり作ってね。」
「あぁ、まぁ。命に関わりますもんね。でなきゃ、あのオッパッピーみたいに熱湯風呂なのに踊り出しちゃうし。」

「ただ、最後は竜ちゃんが熱いの嫌がって、温度を42度に設定するようになっちゃった。」
「社長、それ温めのお風呂…。」
「内さまのどこかで、出川哲朗がバラしてたから、多分リアルガチなんだろうね。」
「あぁね。」

「あとね。」
「まだあんの?」
「ヌルヌル坂の上に食材があって、坂の下にいるダチョウと出川が、坂を登って取った食材で鍋を作るってゲームがあった。」
「なんかいかにもな…。」
「審判は有吉弘行。」
「あははは。」
「で、確か出川が生きたタコをゲットして、鍋に入れたらジモンちゃんが激怒したことがある。」
「なんで?」
「お湯に浸ける前に、塩でぬめりを取らなかったから。」
「はあ?」
「リーダーは食べ物で遊んでいたから怒っちゃったって思ったそうだけどね。」

相変わらずというか、ジモンちゃんだけ異次元ですねってお話しでした。


締めのデザートがこれまたびっくり。
スーパーカップ(ラーメンじゃない方)のバニラなんて、日本全国何処でも売ってるドが付く定番品。
これをキンキンに冷やしたガラスの器に移して(交通事故駄洒落)、牛乳を掛け回しただけ。
お好みでコンデンスミルクを追加で。

しばらく置いとくとあなた、牛乳とアイスがシャーベット状になって、新食感よ。
って言うか、なんでこんな裏技知ってんの?
更に更に、スーパーカップのヨーグルト乗せ。
甘さと酸っぱさが舌に気持ちいいです。
社長。

8個買ったスーパーカップがたちまち売り切れました。

「ヤベェ。スーパーカップが新たな地平に飛び立ったわ。」
「ジューサーミキサーやフルーツを加えると、お手軽スムージーになるよ。」
「理沙ちゃん。」
「社長だったらあげないですよ。」

値上げして1個160円のアイスで、買収どころか嫁に来そうだそ。
この編集長。

★  ★  ★


翌朝。
珍しく、南さんもお姉ちゃんも早くから起きて来た。

「いやね。ほら、2日て20キロ歩いて、昨夜良い様にお酒呑んだでしょ。なんか久しぶりにぐっすり寝れたのよ。」
「寝れたのよは良いけど、社長がいるんだから、もう少しですね。」

朝は駄目なお姉ちゃん。
さすがに浴衣から片乳出してた醜態はないけど、ジーンズにパーカー1枚、しかも中途半端にジッパーを下ろしているので、(私にはあまりない)谷間が丸出しになっている。
この野郎。

「仕方ないでしょ、今お風呂入って来たとこだもん。服着てるだけ有り難く思え!」
「ウチの社長はアレでも男だぞ?」
「それなのよ。なんであの人、あんなに料理上手いの?時々事務所でご馳走してもらっていたけど、夕べなんか小麦粉からマカロニを作ってグラタンにしてたわよ?」
「昨日、お姉ちゃん達を迎えに行く前に寄ったスーパーで、小麦粉がキロ100円の特売セールやってたからね。お一人様2袋限定だったから、4袋買ってたもん。さっきカレーを作るって言ってたから、多分ナンでも焼いてんじゃないかな。今頃。」
「………まったく……。」

で、本当に奴は、フライパンでナンを焼いてやがった。
鼻歌混じりで。


………


さて、この取材旅行も最後。
久留里城です。

トンネルを潜った先に駐車場。
そこから先は、右にぐるりと曲がる尾根に向かってほぼ直坂に高さ90メートルを登って行きます。
いや、でも。
確かにこれ、ある程度元気じゃないときついわ。

社長がみんなにプレゼントしてくれたスニーカーがグリップをしっかりと効かせてくれてるのと、杖が置いてあるから助かる。

「傾斜角20度くらいらしいよ。」

なのにウチの社長は、息一つ切らさず、みんなの後ろから着いてくる。
大多喜城もそうだったけど、天守閣って行くの大変だぁ。
そう言えば、あの時は私達だけ天守閣に登って(しかも長期休館中)、あの野郎だけ麓の駐車場でニッキを買ってたな。
あのニッキで、生八ツ橋の皮を作っていた事を私は知っている。

お義父さんとお義母さんと4人で、美味しくいただきました。
…いつもの「お~い、お茶」で。


「まぁ天守閣なんか、普段はただの倉庫だから。確実に天守閣で寝泊まりしていたのは、織田信長だけって話もある。」
「ひぃひぃ。さすがはノッブ。」
「でも、何故、そんな事がわかるんですか?」

うわぁ、お姉ちゃん野郎。
息がまったくきれてない。

「信長公記や、フロイスの日本記には書いてある。実際、安土城をデータ再現してみたら、信長の寝室と思しき部屋の場所も解明したよ。まぁ、普通は毎日登城するのに、馬ですら登れない坂を往復しないでしょ。麓に御殿を作るのが当たり前だよ。」

「あら?安土城って、大手道の両端に勝家や秀吉の屋敷があったんですよね。確か。」

うぅ。
南さんも、この急坂を平気の平左で登ってくよ。
なんなんだよ。私。

「安土城は特殊でね。御殿が天守閣と並んで安土山の天辺にあった。しかも、見つかった図面がある有名な建物にそっくりだったんだ。」
「聞きましょう。」
「考えようよ。」
「聞きましょう。」
「はいはい。」

あれ?
南さん結構、余裕ない?


「清涼殿。」
「って、平安京の?」
「そ。鎌倉時代に焼失して、今の清涼殿は幕末に再建されたものだけど、形式は残っていたんで信長が再現してんだよ。」
「ほう。」
「南さん、なんか気がつかないかい?」
「はて、清涼殿って事は、天皇をお迎えする建物ですよね。確かに信長は皇室を大切にしていた武将ですし、安土城にお迎えするなら天守閣の側にあってもおかしくないですが….。」

「まぁ、それも正しい。たださ。」
「ただ?」
「安土山の天辺まで、天皇が登って来なきゃならないわけだ。公家が馬で登れる傾斜じゃないし、籠を使うにも中にいる陛下は大変な事になる。どうやって御招待したのかなぁって。」
「あっ!」

安土桃山時代の天皇陛下じゃなくて、令和時代の理沙ちゃんがヘコタレそうなんですけど。
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