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第十七話
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「何だレトア卿?」
慌てる僕とは対照的にアーシュは胸ぐらを掴むレトア卿の手首を握り、落ち着いた様子でレトア卿に問いかける。
「何だ?じゃないだろう。君はカリーノ殿下に何をした?二日も食事も取らずに部屋に籠っているんだぞ」
レトア卿は落ち着いた口調のままアーシュに凄むが、アーシュは動じない。レトア卿の話す内容は僕も無関係ではないので胸が痛む。僕とアーシュの事後の姿をカリーノに目撃された日、気まずい気持ちを抱えながらめカリーノに話しをしに行ったが扉ごしに話したくないと拒絶されてしまった。昨日もカリーノの部屋に行ったものの反応がなく話が出来ていない。
「こんな手荒な真似をするなんて、らしくないんじゃないか?」
「王子と陛下が面会する重要な席だったのにカリーノ殿下が欠席したのだから、原因を作った君に怒って当然だろ!」
アーシュの言う通りレトア卿が手を出すことは珍しい。レトア卿はどちらかと言えば遠回しにチクチク嫌味を言うか陰でコソコソ工作をするタイプだ。
どうやら、今日の会談にカリーノが欠席したことで蚊帳の外の扱いになってしまったことを腹を立てているらしい。カリーノを心配している訳でなく、あくまで今後の権力争いに関わるからという理由はレトア卿らしく、一切同情はできない。
「レトア卿やめろ。カリーノのことはアーシュだけが悪いわけじゃない」
「そうですね。侍女の話ではヴィルム殿下の元から泣きながら戻ってきたみたいですからね。フィリアス卿と仲睦まじくしている様子でも見せつけたのですか?」
張り詰めた雰囲気の中、止めに入るとレトア卿の怒りの矛先が僕に変わり、以前の僕なら怒鳴りつける様な内容を敢えて言ってくる。僕はといえば、事実なので下品だと怒ることも出来ずに、押し黙ってしまう。
「まさか図星ですか。…はぁ、今まで散々フィリアス卿の匂いを撒き散らせておきながら抱かれていないと言い張っていたのに、妹君にわざわざその場面を見せるなんて、いい趣味をしていらっしゃる」
「これ以上殿下を侮辱する発言をするなら、ただじゃおかないぞ」
「あーあ、怖い怖い。そんなに大切なお姫様なら早々にうなじを噛ん番になっていれば良かったのではないか?発情期の度に抱いてマーキングするだけだから、王子の様な横槍が入ったんだろ。」
レトア卿が僕を卑下すると、アーシュもレトア卿の首元を掴み凄む。
前からレトア卿にアーシュの匂いがすると言われるのは嫌味の一種だと思っていた。レトア卿は、今なんと言った?
「発情期の度に抱く?」
「私に絡んでいる暇があるなら、カリーノ殿下を立ち直らせる方法を考えたらどうだ?
ヴィル、それについては説明させて欲しい」
僕がレトア卿の言葉を反芻すると、アーシュは掴んでいたレトア卿の胸ぐらを離し、首元にあったレトア卿の手も振り解く。レトア卿に冷たく吐き捨ててから、僕の肩を掴み優しく話す。
「言われなくてもそうしますが、フィリアス卿がフォローしているということは、お姫様は本当に抱かれていないと思っていたんですか?なんて滑稽んぐっ」
「黙れ。これ以上話すなら、もう二度と口を聞けない様に顔面の骨を砕いてやろうか」
高らかに僕を侮辱するレトア卿の顔面をアーシュが鷲掴みする。そのまま手に力を入れているので、レトア卿が苦しそうにアーシュの腕をはたく。
「大丈夫だから、アーシュ手を離してやれ。」
「ヴィル…」
「説明するのだろ?場所は執務室でいいだろ?」
僕の制止にアーシュが戸惑いつつレトア卿の顔面を離す。その顔にはアーシュの手形が赤く残っていて見ているだけで痛そうだ。よく見るとレトア卿は涙目になっているが、レトア卿は放置し僕は説明を聞くためにアーシュを促し執務室に向かった。
慌てる僕とは対照的にアーシュは胸ぐらを掴むレトア卿の手首を握り、落ち着いた様子でレトア卿に問いかける。
「何だ?じゃないだろう。君はカリーノ殿下に何をした?二日も食事も取らずに部屋に籠っているんだぞ」
レトア卿は落ち着いた口調のままアーシュに凄むが、アーシュは動じない。レトア卿の話す内容は僕も無関係ではないので胸が痛む。僕とアーシュの事後の姿をカリーノに目撃された日、気まずい気持ちを抱えながらめカリーノに話しをしに行ったが扉ごしに話したくないと拒絶されてしまった。昨日もカリーノの部屋に行ったものの反応がなく話が出来ていない。
「こんな手荒な真似をするなんて、らしくないんじゃないか?」
「王子と陛下が面会する重要な席だったのにカリーノ殿下が欠席したのだから、原因を作った君に怒って当然だろ!」
アーシュの言う通りレトア卿が手を出すことは珍しい。レトア卿はどちらかと言えば遠回しにチクチク嫌味を言うか陰でコソコソ工作をするタイプだ。
どうやら、今日の会談にカリーノが欠席したことで蚊帳の外の扱いになってしまったことを腹を立てているらしい。カリーノを心配している訳でなく、あくまで今後の権力争いに関わるからという理由はレトア卿らしく、一切同情はできない。
「レトア卿やめろ。カリーノのことはアーシュだけが悪いわけじゃない」
「そうですね。侍女の話ではヴィルム殿下の元から泣きながら戻ってきたみたいですからね。フィリアス卿と仲睦まじくしている様子でも見せつけたのですか?」
張り詰めた雰囲気の中、止めに入るとレトア卿の怒りの矛先が僕に変わり、以前の僕なら怒鳴りつける様な内容を敢えて言ってくる。僕はといえば、事実なので下品だと怒ることも出来ずに、押し黙ってしまう。
「まさか図星ですか。…はぁ、今まで散々フィリアス卿の匂いを撒き散らせておきながら抱かれていないと言い張っていたのに、妹君にわざわざその場面を見せるなんて、いい趣味をしていらっしゃる」
「これ以上殿下を侮辱する発言をするなら、ただじゃおかないぞ」
「あーあ、怖い怖い。そんなに大切なお姫様なら早々にうなじを噛ん番になっていれば良かったのではないか?発情期の度に抱いてマーキングするだけだから、王子の様な横槍が入ったんだろ。」
レトア卿が僕を卑下すると、アーシュもレトア卿の首元を掴み凄む。
前からレトア卿にアーシュの匂いがすると言われるのは嫌味の一種だと思っていた。レトア卿は、今なんと言った?
「発情期の度に抱く?」
「私に絡んでいる暇があるなら、カリーノ殿下を立ち直らせる方法を考えたらどうだ?
ヴィル、それについては説明させて欲しい」
僕がレトア卿の言葉を反芻すると、アーシュは掴んでいたレトア卿の胸ぐらを離し、首元にあったレトア卿の手も振り解く。レトア卿に冷たく吐き捨ててから、僕の肩を掴み優しく話す。
「言われなくてもそうしますが、フィリアス卿がフォローしているということは、お姫様は本当に抱かれていないと思っていたんですか?なんて滑稽んぐっ」
「黙れ。これ以上話すなら、もう二度と口を聞けない様に顔面の骨を砕いてやろうか」
高らかに僕を侮辱するレトア卿の顔面をアーシュが鷲掴みする。そのまま手に力を入れているので、レトア卿が苦しそうにアーシュの腕をはたく。
「大丈夫だから、アーシュ手を離してやれ。」
「ヴィル…」
「説明するのだろ?場所は執務室でいいだろ?」
僕の制止にアーシュが戸惑いつつレトア卿の顔面を離す。その顔にはアーシュの手形が赤く残っていて見ているだけで痛そうだ。よく見るとレトア卿は涙目になっているが、レトア卿は放置し僕は説明を聞くためにアーシュを促し執務室に向かった。
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