高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

文字の大きさ
74 / 85
【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第二十七話

しおりを挟む
カァーカァーと遠くで鳴く烏のさえずりで目が覚めた。部屋はオレンジの柔らかな西陽で照らされている。どれくらい寝ていたのか、ベッドには私だけ。裸のままだったが、後始末はしてくれたのか素肌はサラリとしていた。

レースカーテンがかかる窓からは、オレンジ色の空が見え、もう夕刻に差し掛かっているのが分かった。夜のパーティーと、エイヴィア伯爵との商談には、間に合う時間で良かったと安堵し、着替えようと寝室から主室に出ようと扉を押す。

「え?」

ドアノブを下げ扉を押しても開かない。引き戸タイプだったかと思い引いてみても扉が開く気配は無かった。

どう言う事だ?

状況が分からず戸惑っていると、主室の方から人が入ってきた物音がした。本当は心の準備をしてから、顔を合わせたかったが、状況が状況なので仕方ないと割り切る。今し方、戻ってきた人物に、この扉を開けてもらおうと思い、扉に向かって声を張り上げた。

「フェナーラ!扉が開きません!そちらから、開けてくださいっ」

昨晩の負荷が残っていたのか、少し大声を出しただけで喉はジンジンと痛み、最後の方は声が掠れた。それでも私の声は届いたようで、扉の近くで足音が止まる。

「起きたのか。今晩のパーティーは出席しなくていいから、そこで留守番してろ」

一方的に命令され、はたと気づく

扉に細工をしたのはフェナーラだということに。

「何故ですか?私も参加します!ここから出してください」

「パーティーが終われば自由にするから、それまで待て」

フェナーラが一方的に話しを切り上げた後、遠のいていく足音が聞こえ、私は焦った。
このままでは、パーティーだけでなくエイヴィア伯爵との商談もダメになる。

「フェナーラ待って!ここを開けて!」

扉をガンガン叩きながら、叫んでも、結局、向こう側から返事はなかった。

* * *
夕日が沈み、夜空に星が輝く時刻になっても扉は開かなかった。

ー商談は、明日のパーティーの舞踏が終わったタイミングで中庭に来てくれますか?

パーティーは最悪出られなくても、商談にはなんとしても行きたい。窓から出ることも考えたが、ここは屋敷の3階。私の身体能力では怪我だけじゃ済まないだろう。
エイヴィア伯爵から提示された時間なら、まだ間に合うのに、ここから出る術を私は持ち合わせていない。

こんな時、他のアルファならどうするのだろう?出来損ないの私と違って皆、この状況を打破するんじゃないか。

そう考えると、何もできない自分に自己嫌悪するしかなかった。扉を背に三角座りになり洋服代わりに纏っていたシーツを握りしめる。
アルファとしての自尊心を自分を磨くことでなく、他のアルファと寝ることで埋めていた。だから、結局、大事な場面で何もできない。
アルファが私に欲情して、野獣のように一心不乱に腰を振る姿を見て、私はアルファに必要とされていると思いたかった。そしてそんな自分はアルファにとって価値がある存在なのだと必死に言い聞かせていた。でも、そんなのまやかしで、実像は昨晩、フェナーラから言われた一言が全てだろう。

ーアルファ相手なら、簡単に股を開く

私と寝たアルファ達にとってはは、都合のいい制欲処理の道具か、強制された苦痛の行為でしかなかったのだろう。
本当に自分が嫌になる。また自己嫌悪の底なし沼に落ちそうになった時、主室に人の気配がした。そのあとすぐ「なんだこれ?」と声してから

「セラフ様、いらっしゃいますか?」

こちらに呼びかける声音には覚えがあった。

「伯爵?なぜ、ここに?」

「説明は後でっ…よいしょ、まずはここを出ましょう」

途切れ途切れになる声の合間には、何か大きなものを引きずる音がした。すこし経ってから、扉がゆっくり開き向こう側には、額に汗をかいたエイヴィア伯爵の姿があった。

「セラフ様がパーティーに来ていなかったので、お見舞いにきたんです。まさか、監禁されてるとは思いませんでした」

エイヴィア伯爵の視線の先には、革張りのソファ。あれで扉を塞いでいたのか。

「すみません。これには事情があるので、どうか内密にしていただけませんか?」

監禁なんて外聞の悪いことが、誰かに知られたらフェナーラの顔に泥を塗ることになる。それに私は、これ以上フェナーラに失望されるのは避けたかった。

「それなら大丈夫です。セラフ様が私との商談やくそくを果たしてくれれば、私は充分なので」

相変わらず人の良い笑みを浮かべているのに、エイヴィア伯爵の視線が昨日と違う気がした。上手く説明できないけれど、何か値踏みされている気がしたのだ。こうして来てくれたのだから、気のせいだと自分に言い聞かせる。

「ありがとうございます!すみません、急いで着替えますので少しお待ちいただけますか?」

「あぁ、実はこうして来たのは、商品の品質の関係で急ぐ必要があったからなんです。なので申し訳ありませんが、急ぎたいので、そのまま来ていただいてもよろしいでしょうか?他のお客様はパーティー会場にいるはずなので、誰かと遭遇する心配はないですよ」

そんなにデリケートな商品なのか。シーツだけの姿で出歩くなんて気が引けるが、伯爵の言う通り誰かと遭遇しないなら仕方ないと割り切るしかない。そう腹を括り「分かりました」と返事をして、私は伯爵に連れられ部屋を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ
BL
オメガバ/α×Ω/見知らぬαの勘違いにより、不安定だった性が完全なΩになってしまった受け。αの攻めから責任を取ると言われたので金銭や仕事、生活等、面倒を見てもらうことになるが、それでもΩになりたくなかった受けは絶望しかない。 攻めを恨むことしか出来ない受けと、段々と受けが気になってしまい振り回される攻めの話。 ハピエン。

縁結びオメガと不遇のアルファ

くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。

運命の番は姉の婚約者

riiko
BL
オメガの爽はある日偶然、運命のアルファを見つけてしまった。 しかし彼は姉の婚約者だったことがわかり、運命に自分の存在を知られる前に、運命を諦める決意をする。 結婚式で彼と対面したら、大好きな姉を前にその場で「運命の男」に発情する未来しか見えない。婚約者に「運命の番」がいることを知らずに、ベータの姉にはただ幸せな花嫁になってもらいたい。 運命と出会っても発情しない方法を探る中、ある男に出会い、策略の中に翻弄されていく爽。最後にはいったい…どんな結末が。 姉の幸せを願うがために取る対処法は、様々な人を巻き込みながらも運命と対峙して、無事に幸せを掴むまでのそんなお話です。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語

サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。 ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。 兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。 受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。 攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。 ※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》 歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。   ほのぼのです。よろしくお願いします。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

処理中です...