高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

エピローグ(下)

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廊下の方が騒がしくて、そちらに目を遣ると視察団が慌てふためいていた。只事ではない雰囲気は子供達にも伝わったようで、運んできた食材を手に持ったまま、動きを止め、不安そうに私を見つめる。

「セラフせんせぇ、外の人たち怒ってるの?」

「先生、俺達なにかした?」

「外の人達は、君達に怒って危害を加えることはないから安心して。何があったのかちょっと様子を見てくる」

貧困層出身の子供達は、理不尽な怒りや暴力に常時晒されている。だから、彼らは大人の顔色を必死で伺っている。機嫌が悪い大人には近寄らず、息を潜めるように生活しているのだ。だからこのピリついた雰囲気は、子供達に不安や恐怖を抱かせる。

子供達をなだめ廊下に出ると、視察団の視線が一気に私に向く。その面子は知らないものだった。

「ヴィルム殿下と、フィリアス卿閣下はお帰りになられたのですか?」

「…分かりません」

案内役のフェナーラとヴィルム殿下達が居ない理由を聞くと視察団は顔を見合わせ、少ししてから一人が口火を切った。

「すみません。状況が見えてこないのですが、皆さんは何故ここに残られてるのですか?」

「それは…ヴィルム殿下が何やら体調を崩され殿下達は中座したのですが、視察は続行するとフィリアス卿閣下から指示がありまして」

視察団の一人は困ったように頬をかきながら言う。その説明でやっと状況が理解できた。フェナーラもヴィルム殿下に付き添っているのだろう。私は視察団を見遣り、出来うる限り優しい声音と笑顔を作る。

「それは皆さん大変でしたね。どうぞごゆっくり視察していってください。ただ、皆さんの緊張が子供達にも伝わってしまいますので、どうか肩の力を抜いてリラックスしていただけたら」

「は、はいっ!」

視察団の面々は顔を赤らめ、おおきな声で返事をした。子供達のお手本になるような、とてもいい返事だった。

* * *
視察が無事終了し私塾から自宅に戻ってすぐ、私はフェナーラに捕まった。ソファに腰掛けるフェナーラの膝の上に抱き抱えられたのだ。

「なんで怒ってるの?」

向き合うように座る私の胸に顔を埋めるフェナーラの髪を漉きながら聞く。今日は、フェナーラの気に障ることは起きてないはずなのに。

視察スケジュールも終盤になった頃に戻ってきたフェナーラは、視察団と私を一瞥すると目に見えて機嫌が悪くなった。もちろん、私以外には分からないくらいの変化だったが。最近は視察に来た貴族が私にボディータッチをしたとか、しょうもない理由で機嫌を損ねるから若干のめんどくささを感じる。でも、愛されていると思うと、その面倒さも愛おしく感じるから私も大概だと思う。

「視察団の連中がセラフに惚れたみたいだったけど、何したんだ?」

「何もしてないよ。それより、殿下はお体大丈夫だったの?病気とかじゃないよね?」

フェナーラは拗ねた声で言うが、気になっていた殿下の体調に触れる

「病気じゃないけど、多分」

「多分?」

歯切れの悪いフェナーラの言葉を待つと、フェナーラが大きなお腹のジェスチャーをする。数秒の後、理解すると素っ頓狂な声が自分から出た

「え?そうなの⁈」

「直接聞いたわけじゃやいけど、多分な」

「フィリアス卿が父親になるんだ。フェナーラは子供を欲しくないの?」

「…セラフが産んでくれるのか?」

フェナーラは暗い目をして、私の問いに質問で返してくる。

「私は産めないでしょ。でもフェナーラが子供を欲しいなら」

「セラフ以外と子作りしてもいいって言いたいのか?セラフ以外を抱く気はないって俺言ったよな?」

フェナーラに言葉を遮られる。フェナーラはさらに苛立った様子で、私に聞く。
以前、私が嫉妬して他の人と婚約すればいいって言った時も怒っていた。また私はフェナーラの地雷を踏んでしまった。

「でも、バナト商会の跡継ぎは必要でしょ?」

「跡継ぎなんて、優秀な従業員を後釜にすることだってできるから、俺が作る必要はないな。それよりセラフは、俺が他の奴を抱いてもいいんだ?」

「それは、跡継ぎを考えて…」

「どんな理由でもセラフに他の奴を抱いていいって言われると腹がたつ。セラフにとって俺は他の奴を抱いても気にならない存在でしかないって言われている気分になる」

「それは違う!フェナーラが私以外の人に触れるなんて嫌だよ!嫌に決まってる。でも、子供を産めない私がそんなワガママ言えないよ」

「ワガママ言えよ。俺はセラフが居てくれればいいんだから。やっぱ、結婚式やろう!セラフにちょっかいかけてくる貴族連中に、セラフは俺のものって見せつけてやりたい」

フェナーラが私の頬を撫でながら、不穏なことを言う。

「もしかして、結婚式をやりたがったのって、それが理由?」

「ああ、そうだよ」

「そんなことしなくても、私はフェナーラしか見てないのは分かるでしょ?」

「それでもセラフに絡む連中が居るだろ?そいつらが気に食わないんだよ。本当はセラフを外に出さないで部屋に閉じ込めたい」

「それなら、私だって結婚式でフェナーラにご令嬢が群がるのは気に食わないけど?」

「え?セラフそれって」

「嫉妬だけど。何か?」

私が言い切るとフェナーラは嬉しそうに笑う。そして愛おしそうに私の頬を撫でる

「セラフが嫉妬。そうかぁ。俺のこと好き?」

「…好き。じゃなきゃ嫉妬なんてしないでしょ?フェナーラは、私のこと好き?」

「好きって言葉じゃ表現しきれないくらい愛してる。もう死ぬまでずっと一緒だから。手放してやらない。もちろん来世でもセラフを俺のものにするから」

「何それ。じゃあ、ずっと一緒だね。今もこれから先も」

「セラフ愛してる」

愛を囁いたフェナーラは私を喰らい尽くすような貪るキスをしたのだった。
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